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元偽物令嬢は、みんなで幸せになりたい  作者: 花咲 抹茶
第一章 家族編
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第十二話 魔塔について

 ──翌日朝。


 起きてから食堂に行く準備をし終えると、食堂の開放時間にはまだ時間があった。同じく準備をし終えて彼のベッド脇に腰掛けているバルドさんを見ると、顎に手を当ててじっと考え事をしているようだった。


 ……私も、少し考えたいことがある。バルドさんの妹として乗船したため着替えた女児用のワンピースにシワをつけないように気をつけながらベッドに座る。床を見ながら、考えた。


 魔塔に着いてからどうするか。バルドさんに着いていって魔塔までは行けるものの、着いてからのことは何も考えていなかった。私の父親は魔塔の関係者なのかもしれない。どうやって探し出そうか……そこで、はたと思いつく。


 ……そもそも、私は魔塔に入れるのだろうか。魔塔は帝国の魔術研究の最高機関。身分の知れない小娘なんて、到底入れない場所だろう。バルドさんは魔塔の人間の関係者だから入れるだろうけど…。


 付き添いとして入れて貰えないだろうか。……いや、無理に決まっている。そんなことで入れたら、研究結果を盗み放題だろう。


 魔塔の関係者の家族かもしれないと言って入れてもらう?……無理だ。私が魔塔の人間の娘かもしれないというのは、あくまで可能性。断言もできないことで入れてもらえるはずがない。


「……どうすれば……」


 魔塔まで行けても、入れなければ情報も得られない。頭を抱えていると、バルドさんに声をかけられた。


「アメリアンナ。……具合悪い?」

「え、あ……いえ。大丈夫です」


 頭を抱えて悩んでいた様子が、体調を悪くしたように思えたのだろうか。夜中私が魘されていたから、心配してくれているのかもしれない。……なぜ今になってあんな夢を見たのだろう。前の時間でもあの夢はよく見たけれど、王立学園に通い始めて……ルカに私の真実を告げてからは見なくなっていたのに。


「良かった」


 バルドさんはそう言って微笑むと、私と向かい合って椅子に座る。両膝にひじを乗せて、前かがみになって私と目線の高さを合わせた。


「……一つ、提案というか……お願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」

「もちろんです。何ですか?」


 バルドさんは申し訳なさそうに眉を下げて続けた。


「……帝国の港に着いたら、転移で……魔法で魔塔まで向かってもいいかな?……本当は、魔塔までの道も楽しみながら行かせてあげたかったけど、少し無理そうなんだ」


 君の行動を狭めるお願いばかりしてしまってすまない、とバルドさんが頭を下げる。……なんだ、そんなことか。


「いいですよ。そんなに気にしないでください。髪留めも買っていただきましたし、追加報酬も無しに魔塔まで行かせてもらえるんです。そのくらいのお願い、気にしません」


 確かに、帝国の観光をしながら魔塔まで行くのは楽しみだったが事情があるのだろう。海も見れたし、貝殻の髪留めもいただいた。もう十分だ。


 バルドさんは安心したように目元を緩ませた。ありがとう、と告げられて、先程浮かんだ疑問を聞いておこうと思い出す。


「あっ、バルドさん。一つ質問しても大丈夫ですか?」

「ん?大丈夫だよ」


 聞くことを頭の中で整理して口を開く。


「私って、魔塔に入れるんですか?身元も知れない部外者ですが…」

「入れるよ。……流石に、研究専門の塔には入れないけど……」


 入れるのか……あれ?


「研究専門の塔って、なんですか?」


 魔塔自体が研究専門の塔では無いのだろうか。研究専門の塔には入れないけど魔塔には入れる、とはどういうことだろう。


「ああ、そっか。そこまでは知らないかな」


 せっかくだから教えておくね、と言ってバルドさんは懐から小さな本を取り出した。手帳のようだ。ペンを取りだしてすらすらと魔塔の図を書き込む。


「魔塔というのは、魔塔所属の魔術師や警護の魔法騎士たちの家族の居住区まで含んでそう呼んでいるんだ。だから、研究専門の塔や総合管理の塔がいくつかある近くに魔塔所属の人間とその家族が住んでいる居住区があって、それらを囲むように市街地がある。さすがに研究専門の塔は警備が厚いけれど、居住区の地域までは基本的に誰でも入れるよ」


 塔の絵の周りに家がいくつか描かれて、その周りにぐるりと市街地らしき絵が描かれる。……なるほど、その地域だけで一通りの生活が完結できるようになっているのか。


「じゃあ私は、市街地の宿に止まりながら父を探すことができるんですか?」


 納得がいって再び尋ねると、バルドさんは一瞬言葉に詰まった。……間違えたことを聞いてしまったのだろうか。宿は市街地には無いとか?


「……多分だけど、君の父親は直ぐに見つかると思うよ。魔塔主に君を会わせる約束をしているんだ」

「まっ、えっ?!……まとう、ぬし……って、魔塔の最高責任者じゃ……」


 魔塔主……?!帝国の魔術研究の最高機関の最高責任者に許可をもらえるなんて、バルドさんは一体何者なのだろう。というか、つまり魔塔主様って、全魔術師の1番上に立つお方では?魔術師でもないこんな小娘がそう易々と会えるものなの?!


 衝撃のあまり目を回していると、バルドさんはさらに衝撃的なことを告げた。


「俺は魔塔主の息子だから大丈夫だよ。嘘じゃないから安心して」

「むっ……まっ……待って、待ってください!情報量が……」


 バルドさんが、魔塔主様の息子さん……?!こんなに気軽に話してるのに、帝国の魔術師の頂点に立つ人のご子息だったなんて!


「バ、バルドさん、ごめんなさい……私、たくさん無礼なことを」

「そんな……!無礼なことなんてしてないよ。それにそんなに畏まらないでくれ。俺自身は魔術師じゃないし、立場だって凄いわけじゃない」


 口元に両手を当てて、恐れ多さに震えながら謝ると、バルドさんは慌てて否定した。魔術師じゃなくても、バルドさんの魔力の練度は、魔力を観察していればよく分かる。他の冒険者よりもずっと魔力量が多く練度が高いと感じたのは、魔塔で育ったからなのだろう。魔法を日常的に使う場所では、自然とその場にいる子どもも魔法を使い続けるようになり、魔力が練り鍛えられていくはずだから。


 ……魔法が好きな人間にとって、一度でも魔術師を夢見た人間にとって、魔塔主というのは憧れの存在だ。その家族ともなれば、自然とかしこまってくるに決まっている。……でも、本人から言われても畏まるのは失礼というものだろう。


「わ、かりました……」


 渋々頷くと、バルドさんは安心したように息をついた。バルドさんが、魔塔主様のご子息。そして、私は魔塔に着いたら魔塔主様と会う、と……。


 ──緊張する……!でも、これだけは言っておかなきゃ。


「バルドさん。魔塔主様と会えるように約束を取り付けてくれてありがとうございます」


 "どんな時でも、周りの人への感謝と敬意と笑顔を忘れない"。お母さんの教えだ。微笑んでお礼を言って頭を下げると、バルドさんが首を振った。


「俺が君に父上と会って欲しくて約束を取り付けたんだ。……会ってくれるんだね。ありがとう」


 そしてまた頭を撫でられる。……なんだか、昨日今日でバルドさんにとても頭を撫でられている気がするのは気のせいだろうか。


 そうして魔塔の話を終えると、食堂の開放時間になっていた。

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