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九話  「仲間・従兄弟・領地」

九話です

二本差しを手に入れてから朝晩登校前に素振りをする事が日課になった健一

太刀の長さは約70センチ程、片手剣と同等の長さである。コレを両手・片手と

使い分け母が残した本を読み解きながら稽古に励む。


「素人の私が見ても、この頃剣先に力があるように思えます」

共に朝練に加わるエルザが声を掛ける。

「判る?今まで使ってきたブロードソードより、シックリする気がしてきたよ

 小太刀との二刀流はまだまだだけど、太刀の使い方はマスターしないとね」

エルザの言葉に少し悦を感じる健一だ。


「お疲れ様です」

冷たいタオルを差し出すのはメイドのシエラ。彼女は健一の2つ年上メイドの中で一番若く健一やエルザに最も年が近いと言う事で、お付のメイドとして働いて

いる。


「悪いね。毎朝早起きに付き合わせて」

「いえ、それが仕事ですから。それに他の姉様方より仕事を少なくして頂いて

 その分、勉強をさせて頂いております。有難いお話です」


そう言って頭を下げた。髪は栗色で背丈は健一より少し高めの美形な顔立ちの娘

人より少しばかり耳が長い。エルフの血が少し混じっているらしいがその耳も

ヘアースタイルで普段は見えて居無い。目立つのは均整を崩す大きな胸だろう。


思春期を迎え始める健一には、少しばかり眼が奪われる大きさだ。


「シエラさん。有り難う御座います」

同じくエルザも冷たいタオルを受け取ると、健一の視線を注意するかの如く、

少し大きめの声を掛けた。

「エ、エルザそろそろ着替えようか!」


慌てて視線を外す健一。二人を置いてソソクサト自室に帰った。残った2人は

クスクスと笑う。世代を問わず男性の視線は同じトコに向き、どの世代の女性も男の視線を感じ取る。そんな事を気付かないのは、いつの世も男だけである。


「まいった!」

ノルベルトが健一の鋭い切り込みに尻餅を着いた結果だ。ソレを見て審判役の生徒が健一に旗を揚げる

「2対0でミュラーの勝ち」

剣術の授業で対抗試合中である。日本刀を手に入れたばかりの頃は負けっぱなし

だった健一だが、最近やっと価値を拾える様になる。ノルベルトが決して弱い訳

ではない。彼は貴族の息子として、幼い頃からレイピアを学んでいる。

どちらかと言えば1対1の時は勝率は高い方だろう。そんな彼から健一は勝ちを

取るまでに日本刀を馴染ませていたのだ。


「正直ミュラー候が、その不思議な剣を持ち出した時には勝ったと思って

 おりましたが、こうも早くに勝ちを取られると思いませんでした。完敗です」


出会いが悪かったノルベルトと取り巻き連中だが、健一が条件付の侯爵を

受け継いだと知って以来、柔軟な態度を取るようになっている。

併せて他のクラスメートへも態度を軟化させクラスの雰囲気も良くなりつつある。


「いや~ノルベルトの突きも凄かったよ。以前の盾持ちスタイルだったら、

 まだまだ俺は勝ちを拾えないだろうな」

「して、日本刀ですか?いつ頃真価である2刀流をマスター出来そうなんです」

「あぁ~難しいね~俺の知ってる限り2刀流は500年ほど前に編み出された

 剣術で、今でも受け継がれているらしいけど、正直詳しい事は俺は知らない。

 まして戦う相手が君のレイピアとか槍その上魔物なんかを相手にした戦いは

過去には無いからね~。実質俺がマスター出来るか予想も付かないな」

「そうですか。ですが、腰元にもう一本剣があると戦う此方としては、不用意に

 懐へ近づけない思いです。それに候は魔法の威力も強いですからね」

2人が剣術の談義をしているといつの間にやら周囲に人垣が出来ていた。


「うんうん。ノルベルト君も入学式の時に比べたら、大分近付きやすいって

 云うか、話し易いって思えるよね」

「な、何を言うか!あ、アレは何と言うかその~」

「クラスに喝を入れたんだよな!お前等気合を入れて行こうぜぇ~ってさ」

「そう!そうです!ミュラー候の言う通り。だから気合いれましょう!」

「おぉー!」

所詮貴族の子息と言っても、まだまだ、子供である。夢中になるモノ。競い合う

仲間が居れば、打ち解けあうのに時間は要らない。彼等は今後3年間共に同じ

学び舎で学ぶ同士である。いつまでも些細なイザコザに振り回される事は無い。



「…で、最近調子はどう?」

暇を見つけては顔を出してくるコンラッド。今日はこれで2度目の訪問だ。

「あ~うん。太刀の方はどうにか振り回されるから脱皮したよ」

「あっそう!それはそれは良かったね」

「おいおい自分から聞いておいて、その返事は無いだろ?」

「否!私が聞きたかったのは、そんな話じゃないよ」

「えっ。他に何がある?」

「フフッ。侯爵家当主の方のお眼に留まるご婦人は見つかったかい?って事」

「ええ。俺まだ、13歳だぜぇ!」

「何を言う!私は生まれて半年で許嫁候補が5人は居たぞ。まぁ~私の知らない

 所での話ではあるが、それでも良縁は直ぐに決まるモノだぞ。御祖父様が後見  人では、おいそれと言い寄ってくる家も無いとは思うが、それでも侯爵家だ。

周囲の大人達は黙ってないと思うがな」


「え~勘弁してよ。それに幾ら俺が侯爵って言っても、収入が無いんじゃ~

 どうしようもないじゃん。結婚てお金在っての話でしょ。オヤジが貯金してた

なんて聞かないし。俺は貧乏貴族ってのが落ちだよ」

「何を言ってる!君はしっかりと領地を持ってるじゃないか!確か『エラズモ』

 に居た事があるんだろ?」

「…エラ…ズモ?…エラズモ…おぉー知ってる!最初に住んだ町だ!クレマン亭

 って宿のベニータさんって女将さんのご飯が旨くてさ~。そうそす!エルザと

知り合ったのも、その町だよ」

「そのエラズモから西へ広がる土地が君の領地だ。確か…村や町が全部で5つで

 人口は5千人位は居る筈だぞ。領民は多くは無いが鉱山があるので収入は

ソコソコの筈だ。結構良質な徹を産出していると聞いた事がある」


「なんだよそれ!俺聞いた事無いよ。アルベルト叔父上が治めていたモノだ。

 その後御祖父様が預かりとなっていたが、君の家を興す話が決まった時に

領地も返還している筈だよ。まぁ~侯爵で領地無しなど在りえんしな。

そ~云った事で君は貧乏処か優良物件って話さ!縁談話が嫌なら早々に

既成事実を作る事をお勧めするよ」


コンラッドは健一に隠された秘密を教えてくれる良き親族か、それともタダの

悪戯好きの従兄弟か今は不明だが、この先数日は健一を悩ませるのに十分なネタをばら撒いた事になる。



「あぁ~エルザ。君と出会ったエラズモ覚えてる?」

「はい。しっかりと!あの町で私の人生は変りましたから」

「そっか…それで、大体で良いんだけど、君の実家がどの辺は判る?」

「当時は目隠しされており判りませんでしたが、アルベルト様とクレア様から

 お話を聞いて大凡の場所は判っております」

「へぇ~そうなんだ。エラズモを中心にして観ると大体どの辺?」

「エラズモから西へ歩いて4間程の位置だと思います。森の多い村です。

 それが…どうかしましたか?」

「いや!何でもない!ただ聞いただけ。へぇ~そっかエルザはもう地理を

 覚えてるのか。俺も負けられないな。」


適当にお茶を濁す健一。次に彼が行なおうとしている事は、今誰に話を聞けば

良いかである。順当でいけば、じいさんなんだろうが、それは不味いだろう。

となれば、残るは2人だが、さてどっちがコンラッドの負担が少ないかと考える


コンコン。クレアの部屋のドアでノックの音が響く

「健一です」

数日が過ぎ休日のこの日、健一がクレアの部屋を訪ねた。


「どうぞ」

「休日に改まってどうしました?」


「少々小耳に挟んだのでクレア姉様にお聞きしようと思いまして」

「はい。なんでしょう。私が知っている事ならお答えしますわ」

「…私に在ると云う領地の件です」


九話  「仲間・従兄弟・領地」  完

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