八話 「家名・剣術・二本差し」
放蕩者の父アルベルトがクレアの家を飛び出して約一週間。条件付で貴族の爵位
を授かった健一だが、特に変化は無くこの一週間教養に武術に魔術と
目まぐるしい日々を過していた。強いて挙げれば、『健一殿・様』と呼ぶ声に
混じって時折『ミュラー候』とか『ミュラー様』って呼ばれる位だ。
陛下と謁見後セザールに話を聞けば、昔父アルベルトとセザールそれに母秋穂と
陛下。後もう一人女性でマリアって人の6人でPTを組んで治安活動をして
いたらしい。2歳下に母それから1歳下で陛下とマリアさんと年の順で
アルベルトとセザールさんが幅を利かせていたらしい。
父アルベルトに憧れた母秋穂。そこへ横恋慕の陛下が加わり三角関係かと
セザールさんが気を揉んだらしいが、ソコは身分の違い。陛下の恋は
実らなかった。まぁ~買いなのは当然陛下だが、恋に恋する年齢の母。
ちょっとグレたアウトロー的な父アルベルトにゾッコンだったらしい。
(母さんよ貴方の目は節穴か)
まぁ~それでもPTの中は崩壊する事無く時を重ねて行ったが、陛下が即位。
父アルベルトと祖父ブルクハルトの仲が決定的に崩壊した事で自然とPTは解散
子供達は嫌でも大人の世界に足を踏み込んで行ったと言う訳だ。
そんな時代に母が好んで使っていた『ミュラー』姓。
本来、姓とは家の名で個人を指す物では無い。
一般的には親しい者とそうでない者で使い分けをするケースが多い。
当然クレアとエルザは健一を『健一さん・様』と呼び、家の者達も倣って健一様
と呼んでいる。一方学校では少々様子が違う。クラスメート特に女子の間では、
エルザが従者と知れ渡ってから『健一様』と呼ぶ者が増えた。男子の中でも次男
や三男と言った者達は逆に『ミュラー君orミュラー殿』と呼ぶ。これは健一が
侯爵家当主が確定している所が大きい。侯爵夫人や侯爵家家臣を狙っての事だ。
そしてクラスメイト以外の大半は『ミュラー候』と呼んでいた。
その中で唯1人コンラッドだけは健一の事を『ミュラー』と呼んでいる。
『ミュラー』と呼ばれる資格があるのは母秋穂と健一だけだ。父アルベルトは
只今家出中の為カウントされない。健一が秘かにそう呼ばれるのを喜んでいたの
を知る者は居無い筈だのに彼は敢えて『ミュラー』と呼ぶ。やはり隅に置けない
従兄弟である。
「やぁミュラーこっちの生活には慣れたかい?」
「ぼちぼち。そっちは?」
「新学期が始まって10日目。特に変化も無く指導する担当の後輩が手の掛から ない新人侯爵様なんで暇を持余してる」
「それは言い御身分ですね未来の公爵サマ」
「アハハハッ。冗談はさておき中々成績優秀だって聞いたぞ」
「ん~どうだろう?アッチでの義務教育の賜で算術やら読解力は問題ないけど、
剣術、特に盾を用いた戦い方は正直身体がまだ、着いて行かないんだよな~
オヤジと旅してた時も弓とか剣一本だったし、どうも盾と剣って奴になると
調子が狂うんだ」
「なら専攻を大剣か槍に換えたらどうだ?」
「えっ!?換えていいの?」
「あぁ皆自分が得意な得物を選択してるはずだ。君だって剣術の授業を学ぶ前に
選択をしてる筈だが」
コンラッドの言葉で思い起こす健一。確か親父が入学式直前に魔法解放とかして
バタバタと魔法基礎を学んでいた時に色々提出書類が在った事を思い出す。
「あぁ~それ全部クレア姉様に丸投げした書類に入ってるわ」
「…ご愁傷様…クレア姉様は生粋の騎士道精神愛好者だからな~」
コンラッドの台詞で大盾に剣スタイルのセザールが思い浮かび「ブルブル」
と身振りをする健一だった。
「ん。風邪か?気をつけろよ!」
「否!一瞬おぞましい光景が浮かんだだけだ。そっか得物換えれるのか、俺には
何が合ってるのかな?」
「悩んでいるのなら放課後付き合え!俺の知ってる工房へ連れて行こう」
コンラッドに連れられ、エルザと三人で町の工房へと足を運ぶ健一達。
一般的に客で賑わっているのは、一番低階層外円部に立ち並ぶ商店街だ。しかし
貴族達が訪れる店は五門の最上部にある俗に言う高級店だ。その一角に武器屋も
在った。通い慣れた感じでコンラッドが見せのドアを潜り健一たちも後に続く
「いらっしゃいませ~。これはコンラッド様。今日は如何様な御用でしょう?」
店員は挨拶そこそこにコンラドだと気付くと揉み手しながら笑顔を振りかざす。
「今日は僕でなく連れの彼の方なんだ。従兄弟で、次期侯爵のミュラー候だよ」
対外向けに家名で健一の名を告げるコンラッド。これは彼の意地悪でも悪戯でも
無い。健一は3年後確実に家を興す。その為今の時期から商家や貴族達には家名で名を通すのが当たり前なのだ。だが、貴族生活に慣れて居無い健一は、そこが
こそばゆいのだ。
「そうですかミュラー候様お初にお目に掛かります。今後ともヨロシク
お願い致します。してどう云ったモノをお探しでしょうか?」
「…なるほど、でわ!コレなどは?…此方は?…此方ですと…」
店員にアレコレと勧めれれたが、どれもピンと来ない健一。流石に我儘な貴族
相手に接客を重ねてきた店員も疲れを見せる。紹介したコンラッドでさえ、店員
に申し訳なかったな。と云う気持ちが沸く。その時、健一がショーケースの外で
埃を被った包みが眼に入った。
「アレは?アレは何ですか?」
健一の問いに店員も気付かなかった包みに慌てて帳簿を見直した。
「どうやら、以前お客様から注文を頂いた品のようですね」
なぜだか心引かれる思いの健一。無理を言って包みを開けてもらった。
「何だろうね?「なんでしょう?初めて見る形の剣ですね」…だね」
店員とコンラッド。それにエルザの三人が包みの品を不思議そうに眺めている
「…刀だ。それも二本差しだ。誰?誰の依頼だったか判りませんか!?」
健一の態度に驚く3人。彼の鬼気迫る問いに店員が再び帳簿に眼を通す。
「何分古いオーダーでして、こっちが依頼書でソレが…在りました
え~っと…ア・キ・ホ…サマですね」
アキホ。秋穂。健一の母秋穂の可能性が高い。いや間違えないだろう。この世界
で、日本刀それも二本差しを態々工房で作らせる人物等そう、ザラには居まい。
健一もエルザもコンラッドもこの珍しい剣のオーダーが秋穂だと確信した。
「これは正に星の導きだ」
騒ぎ喜ぶ3人。店員1人取り残される。古い帳簿で確かな印が残って居無い
例え次期侯爵と次期公爵と言っても、オイソレと渡す訳には行かないのが高級店
の威信だ。そこで無理を言って引退している元店主・先代に店まで足を運んで
もらった。年老いた老人が、その昔直接オーダーを受け作った本人だからだ。
訳を話し健一と秋穂について語りだす老人。昔話をする内に老いた記憶が蘇る。
忘れていた記憶・失っていた気力・衰えていた力が蘇った気になる老人。
「おぉ!まさしく目元辺りが秋穂殿に似ております。そうあの方もミュラーと
名乗って御出ででした。確かアルベルト様とご結婚された筈」
「うん。アルベルト叔父上の名まで聞けば間違いは無いな」
「そ~ですか。貴方様が秋穂殿ご子息様ですか…なんと云う星の巡り会わせか」
代金も当時に済まされてあった。無事二本差しは時を隔てて母から息子へと渡る
健一は剣道などした事が無い。それも二本差しなど当時の武士でも滅多に使って
居無い筈だ。どう使えば良いか悩む。だが、きっと使いこなして見せる。
心に誓い店を後にした。暫くして、先程の店員が健一達を追いかけてきた。
「コレ!コレをお返しします。製作に悩んでいた父にお貸しして下さった本
だそうです。文字が解読できなかったと言ってますが、繊細な絵のお蔭で
ヒントが掴めたと父が申しておりました」
そう言って渡された数冊の本。それは刀鍛冶の本や剣道の本そして宮本武蔵の
五輪の書等である。流石に健一でも宮本武蔵の名は知っている。
これで一歩。刀の使い方をマスターするのに近づけただろう。
八話 「家名・剣術・二本差し」 完
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