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十話  「訪問・試験・結果」

十話となります

「僕に領地が在るって聞きました」

健一のこの言葉に暫し考え込むクレア。そして何かを彼女は重い口を開いた


「ええ。確かに貴方には侯爵として領地が授かっているわ。でも今其れ等は

 お父様であるブルクハルト公が管理なさっているのよ。その領地を聞いて

どうなさる気かしら?聞かせて頂けますか侯爵殿」


クレアの口調が変った。健一もそうだが、これから2人が話す事は甥と叔母だけの会話では済まない。多くの民の未来に関わる話だと二人は感じて居たのだ。


「聞けばエルザの故郷もその領地に含まれて居るとか、彼女が売られる程に

 荒んでいるのなら、僕はソレを何とかしないといけないと思いました。

御祖父様と最初にお会いした時です。僕に力が無いのなら力を付けます。でも

その為には、何が足りなくて何を学べば良いか知らないといけません。住んで

る方々が何を求め何に苦しんでいるのか知らなければなりません。日本でも

税は在りました。でも救済処置や提供できるものを揃っています。

 だから日本は民主主義の国として成り立っていたと思います」


「そうね。領主の最初の仕事は民の声を聞く事。お父様が常に語る言葉よ。

 でも領民は誰かしらが何かにいつも困ってるわ。其れ等全部を聞く訳には

いかないの!領地経営って考えるより楽では無いのよ。それにお兄様から

日本の話は聞きました。素晴らしい国だと思います。ですが、ここは王が

納める国なの民主主義とやらの民衆が運営する国では無いわ。

健一さんが思っている様な運営が出来るとは私は思わないわ」


「そうだと思います。そして僕がそれが出来るとは、今は思いません。ですが、

 まずは知る所から始めないと、先に進めない気がします。それに御祖父様が

任命している代官方の人となりを知るのも大切な事だと思います。その方々も

僕の大切な臣下になるのでしょ?領地とは日本的に考えれば会社と思います。

代官さん達が役員とかの会社側の人達。領民が社員。収める税金や特産品が

領地の商品や売り上げならば、ソレ等を知る事も、社長である僕を知って

貰う事も必要な事だと思ったんです」


健一の語りに間違えは無い。だが、子供だからこそ純粋にモノを見ようと

している。子供だからこそ、見せたくないモノも在る。クレアは悩み考えた。


「判ったわ。私1人の判断で決められません。一度お父様と相談させて下さい」


「はい。お願いします」

そう言って健一は部屋を出る。残ったクレアから溜息が漏れた。


「やっぱりあの子は、姉様や兄様の御子だわ。さて、お父様にどう切り出して

 話そうかしら」


若くして気苦労の耐えない貴族のご令嬢クレア。最近父の仕事の引継ぎで兄の

秘書と根を詰める話が、ひと段落付いたとホッとした矢先の難題であった。



クレアと健一の話が人知れず行なわれて数日が過ぎる。


健一は変らず朝稽古に励みエルザも共に汗を流す。シエラは毎度健一の視線を

どこか楽しみにしながら冷たいタオルを差し出していた。


学校では、武術・知識と云った文武両立を目指す授業がコレでもかと進んでいく

そして相も変らずコンラッドは暇を見つけては健一の所へやって来た。


「どう調子は?」

「…どっちの調子?」

「どっちもだよ」


ああ云えば、こう云う従兄弟は中々口が巧い。言葉少なく誘導するのだ。此方が

勝手に解釈して話せば、聞きたかったのは其れでは無いと新たに此方のネタを

聞き出す。正直困った奴である。

だから健一はコンラッドの顔を見るなり、聞かれるよりも先に聞いたのだ。


「…」


「おいおい質問してるのに無視は無いだろ?折角先手を取ったと喜んだのに」


「いやいや、質問されるのは慣れて無いのでね。それで、そっちはどうだい?」


「う~ん…いやコッチが質問が先だ」


「クスクスッ。うん。それで良いんだよ。貴族の様が板に付いて来たじゃないか

 情報は武器だ。一つでも多く相手より集める事が大切さ。質問はされるより

した方が良い。次は、上級編として普段の会話の中から自然な会話で情報を

得る事を学んでみようか」


一体この従兄弟は俺に何をさせたいんだ?と考える健一である。



メランダは既に婚約の儀まで済ませているクラスの女子だ。健一に気さくに話し

掛ける数少ない女子の1人である。剣の腕もソコソコで男勝りな所が少しある。

其れが仇となりスカートを履く事やお茶会があまり得意では無いようだ。

ノルベルトはああ見えて家の給仕達から手が掛からないと評判が良いと彼の取り

巻きの一人『オーット』が語っていた。…成程、日常会話から情報を引き出す

と言う事はこう云うう事かと健一は思うようになった。


それからまた月日は流れ、健一の太刀筋は概ね良好な成果を重ねていく。

また、領地経営に関しては、王国は大半の収入源が農作物だと知る。

天候に大きく左右され且つ遊んでいる農地が多い事が判った。

農地改革・農作業の効率化で生産性が向上する可能性が在る事を思いつく健一だ

それから出納帳の仕組みを理解し始めた。つまり大きな家計簿である。

義務教育の賜で数字にはソコソコ理解力が在ったので十分授業に付いて来れては

居るが…そこは複雑に税が絡む所。教務室で補講を受ける頻度が増えていく。


そして、夏休み直前となったある日、クレア姉様からお呼びが掛かる


「健一さん以前お話頂きました領地の件の話ですが、御父様がお会いになる

 そうです。明日午前中に公爵家へ赴くよう連絡が来ました」


久し振りに祖父と孫の面会だ。緊張する健一。どれ位成長したか判断してもらう

試験も兼ねている面会だろう。




「やぁ~健一いらっしゃい」

珍しくコンラッドが名前で呼ぶ。その顔には何処か緊張と言うか厄介ごとを抱えていると言った感じが受け取れる。

給仕達とクレア姉様の手前だろうか?首を傾げる健一に、軽く周囲に気付かれな

い様コンラッドが、肘打ちを入れてきた。


「君は御祖父様に何を言ったんだ?僕まで君の会談に付き合わされるんだぞ」


悪戯好きの従兄弟が火の粉が飛んで来た事の苦情を呈するが、そんな事は

知らない百戦錬磨の爺さんに小手先の情報操作が通用する筈もないのだから。



いつもの書斎に向うかと思えば公爵家の中庭に連れられていく。もう既に公爵が

中庭で待っていた。


「久しいな健一息災であったか」


「ハイ叔父い様もお元気そうで何よりです」


クレアが健一の物言いを正そうとする。が、それを制したのは公爵本人である。


「良い。ワシが許した」


公爵に物怖じしない話し方をするのは礼が少ない。共に暮す家族でも同じだ。

王家と健一の母秋穂それと現在放浪中の父アルベルト位だろう。


「全てを得る者達と違って健一には何も与えては居らん。故に母と同じ様に話す

 事をワシが与えた。但し家の中だけだがな」

それだけで、周囲の者達には十分である。


「さて、学び舎でどれだけ成長したか、ワシに見せてみろ」


そう爺さんが言い放つと1人の完全武装した男が中庭に現れる。公爵家警備隊の

『ティルク』だ。槍の使い手として名を馳せる男だ彼は全身プレートアーマーで身を包み切っ先が丸身を帯びた殺傷能力が無い練習用の槍を持っている。

健一との重量差は2.5倍と云った所だろう。


「この者と試せ。お主の愛用品は…持ってきておるな」

すると同行してきたクレア家執事ヨハンが防具箱を差し出す。

(道理で爺さんの家に行くだけの割りに大事名仕度だと思った)


相手は歴戦の兵士こちらは修行中の学生だが、逃げ道は無い。腹を括り仕度する

健一。フルプレートの相手に対し片方の肩を晒した健一オリジナルの革の半鎧

要所要所に金属板がはめ込んであった。間接部分にプロテクターを装着し腰に

二本差しを添えて対峙した。


「いざ!」

掛け声と共に試合が始まる。見慣れる剣に様子見と軽く突きを繰り出す。

剣先が届かないと健一は動じない。ゆっくりと縁を書くように回り込むティルク

対してその場から離れず絶えず剣の中心に彼を捉える健一


「ハァーッ!」

大声と共に大きく踏み出したティルクが鋭い突きを健一に放つ

「フンッ!」と太刀で巻き取るかのように向ってきた槍先の方向を変え更に

距離を縮め太刀の範囲に彼を迎え入れた。「やぁー!」と気合を入れたかと

思うと、透かさずプレートの上下の境に左から右へと横一文字で切り掛かる。

少し軌道がズレ剣先は厚いプレートに阻まれた。

一瞬驚きの顔を見せるティルク。だが「まだまだ!」と健一に負けず大声を

張り上げ、一歩後ろに跳び下がったと同時に槍を上から下へ振り下ろしてきた。

刀で受け止め外に切っ先を逃そうとした健一。両者が一瞬重なる様になった


「一本。それまで!」


試合を止める審判役の公爵。周囲の皆が何故?と顔を傾げる。

ティルクの左胸と健一の右肩が重なっている。健一は左手一本で太刀を構え槍先

を右に軌道を逸らし、右手で脇差をティルクの腹下プレートの隙間に寸での所で

止めていた。


「お見事」

ティルクが素直に負けを認める。公爵が眼を細めていた。

周囲から一言も声が漏れず静まり返っている


「いや~姉様の動きを見たようだよ」

静けさを破ったのはコンラッドの父エリオット候だ。

「うむ。これからも精進せよ」

祖父ブルクハルトは一言だけ健一に声を掛けるが、決してその眼に怒りは無く

喜んでさえ居ると感じ取れた。


「若様。感服しました。ですが、次は簡単には取られませんぞ」

戦ったティルクも若武者に敬意を持っても悪意は感じず、勝者を称えている。


「さて、力量は判った。汗を流してから話を聞こう」

こうして健一は難問を一つクリアーする事に成功したのだ。


九話  「訪問・試験・結果」  完

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