五話 「帰宅・訪問・遭遇」
住み心地の良かったクレマン亭に別れを告げた。気の良い女将ベニータは
笑って手を振ってくれた。また遊びにおいでと言葉を残し彼女は涙を流す。
騎士団の隊員が元気に手を振って彼等を送り出す
騎士になって帰って来いと要らぬ声を掛ける猛者達。やっと馴染んだ異界の地に
初めて名残惜しい気持ちが沸きあがる。一月程の短い滞在であったが、
健一にとって多くの出会いと出来事が起こった町である。
今後この町での出会った人々は彼の今後の人生にどう影響を与えるだろう。
クレアの用意した馬車に乗り込み護衛の騎士達と共に健一はまだ見知らぬ土地、
王都へ向う。
馬車でその上街道を走る旅は意外と快適だった。車窓から眺める景色も緑が多く
TVで見た何処かの外国を思い出せる。遠くには一年を通して頂きに雪が覆う
連山が見える。エルザとクレアが交互に
健一に解説をしてくれた。アルベルトとの旅とは大違いだ。
健一は未だにどんな土地を歩いて来たか知りえて居ないのだ。
アルベルトの説明は大雑把なので、クレアが後から教えてあげる事も出来ず
健一が歩いた道筋を知ったのは、その後彼自身で仲間を引き連れ世界中を
旅した時に判明する。
王都までの期間は一週間。その間立ち寄った町は、どれもエラズモより
僅かばかり大きな地方都市だ
王国の地図で言えば内陸。つまり国の中で最も外敵から遠い町。それだけ安全で
のんびりとした町並みばかりである。なので、父アルベルトは馬車に
乗っている間は昼寝ばかり、宿に泊まれば護衛の兵士と共に酒ばかりだ。
もっとも護衛の兵士は毎日飲む訳には行かない。
彼等は交代でクレアを守る積がある。だから、初日と2日目は顔合わせ
三日目は友好の為4日目は流石に兵士はクレアの眼が気になり困ってしまう。
結局それ以降アルベルトはチビチビと独り酒。結局の所、彼はこの一週間
酒びたりで碌々眼を開けた時間は無かった。
そうこうしてる間に時は瞬く間に過ぎ王都へ馬車が付く。
初めて見る健一とエルザは開いた口が塞がらない。
重厚な城壁が見ない先まで続いている。その高さは3階建ての高さを誇っている。
鉄でできた門には10人は居るだろうか屈強な男達がしっかりと門兵を勤めていた。
馬車は止められる事も無く門を潜る。人が活気で溢れていた。
お祭りかと思える程人の往来が多い
この世界は地下鉄や地下街等在るはずも無い。だから地上に人が溢れているのだ。
それでも健一が想像していたより遥かに人の数が多いだろう。
呆気に取られる2人を余所に馬車は進む。活気に溢れた町並みからまた門を潜る
と一変して大きな屋敷が立ち並んでいた。先に進む程に屋敷の数は減るが
その敷地は大きくなっていく。そしてその先にもまた違う門が見えていた。
明らかに面構えの違う門は閉ざされている。馬車はその門へと向う。
そして近付けば自然と開かれ馬車が通された。すれ違いざまに門兵が
皆敬礼をして馬車を送っていく。誰の馬車なのか知っているのだろう。
その仰々しさにアルベルトはフンッと鼻を鳴らし健一は今更ながら
公爵と云う地位を噛み締めていた
(貴族ってこんな暮らしてんだ。オヤジが逃げ出す気持ちが判った気がする)
ようやく馬車は止まった。初めて降り立つ健一は周囲を見渡した。
さっき通った門が小さく見え反対の方角には別の門が閉じている。
その先には、どこかの遊園地に在った城より豪華で威厳の在る城が見えていた。
「健一さんどうしました」
先に下りたクレアが立ち止まっている健一に声を掛けた
「あぁごめんなさい」
彼女に続くように駆け寄る。後から続くエルザそして最後に眩しそうに手で光を
遮る仕草をしながらアルベルトが降りてきた
「「「「おかえりさなませ」」」」
待ち構えていたのは大勢のメイドや給仕達だ。
「これがオヤジの元家?」
「馬鹿!俺がこんな家に好んで住むか此処は公爵家だ」
「なんだ。ホッとしたよ」
(いやいや公爵家ならやっぱり元家じゃん。実家ですやん)
こんな屋敷に三年も住むのかとゲッソリしていた健一他人の家と知ると
元気が湧き出る。逆にエルザは公爵家と聞き緊張がMAXとなる。
「皆さん急いで公爵様がお待ちです」
クレアに催促され駆け足で中に入っていく
「只今戻りました」
「うむ。道中ご苦労だったな」
クリスの後ろで三人は立っていた。クリスが頭を垂れるので
健一とエルザも急いで頭を垂れる。
アルベルト只独り形を崩した姿勢でそっぽを向いていた。
「皆の者長旅の疲れ癒すが良い。今宵は旅の疲れを取る為無礼講だ。
屋敷へは明日赴くが良い。今宵は当屋敷に止まる事を許す」
そう言って公爵ブルクハルトは席を立つ
ふぅ~っと息を吐く健一とエルザ。一度は啖呵を切った相手だが、
流石に威厳と格式を背負えば強気の健一でも微動谷出来ない。
小僧と公爵の格の違いと言ったところだ。
「兄さん」
聞きなれない言葉に健一が視線を送る。壇上には独りの男性が立っていた。
背格好は父アルベルトより少し小さい。温和な顔立ちの金髪姿の男性
着ている服は明らかに違いがある。誰が見ても貴族様という雰囲気を
醸し出す男性だ。
「エリオ!エリオか」
父アルベルトが声を荒げた。なるほどこの人が跡目を継いだ叔父さんなんだと
健一は理解した。父と叔父が10年振りに兄弟の再会を楽しんでいる。
ソレを横目で見詰る健一はプッと吹き出した
「どうしたのですか健一様」
小声でエルザが話しかけてきた。
「いや~だってさエリオさんの格好ってキマッてるじゃん」
「はい。そうですね凛々しくて御優しそうで優雅な方に見えます」
「そうだろ。俺も貴族様って思えるよ。で!オヤジがもしかしたら、
あんな姿に成ってたんだな~って思えたら急におかしくてさ笑えたんだ」
「そんな「そうでもないよ!」」
2人の会話に割り込んできた影がある。年の頃は健一より少し上と云った所か
突然の乱入者に健一が視線を向けた
「失礼。僕はコンラッド。父エリオの息子さ。つまり君の従兄弟って事だ。
歳は13。君の一個上に当たる。だけど兄貴風邪は吹かさないから、
気軽に話しかけてくれ。それで先程の君の意見だが、僕から見れば
アルベルト叔父様は背筋も伸び身の丈も十分ある控えめだけど鍛えられた
筋肉と胸板の厚さから、十分貴族の御格好をされたら素晴らしいと
思えるんだけどな。君はどう見る?」
いきなり御登場の美男子に気さくに話を振られ困ってしまうエルザ
「わ・私も常日頃アルベルト様の鍛えられた肉体には敬意を持っております。
きっと!お召物を変えられると、もっと素晴らしいお方に
お見掛けなさると思います」
「ホラ!彼女の意見も僕と同じだ。君は父君に採点が厳しいんだよ」
「幾ら着飾っても中身は変らないさ。人は服で偉くなったりおぞましくなるモノ
じゃ無い。中身がどう在るかが問題なんだ。残念だがオヤジの中身を
俺は知っている。ソコが君と俺の採点の違いじゃ無いかな?
挨拶が未だだったね。俺は健一。来たばかりの無作法物だけど、ヨロシク
正直、この世界で歳の近いのはエルザの他に君しか知らない。
出来る事なら仲良くして欲しいな」
「あははっ。それは僕からもお願いするよ。公爵家の跡取りとなる僕に気軽に
話し掛ける者は少ないんだ。まして、あのアルベルト叔父様
の御子息ともなれば鼻が高い」
「おいおい従兄弟だろうが友人だろうが、友好の間に家系や親を
持ち込むのは無しにしてくれ。俺はそんな世界では育ってないんだ。
悪いけど大人達の反感を買っても俺は俺の育った流儀で
接しさせて貰うからね」
「あらあら、もう従兄弟同士の談義が成立したの?
まったく健一さんったら、本当に兄様にそっくりなんだから」
「クレア姉様」「クレア叔母様」
「んんっ!健一君。君はずるいな!」
「なんだよいきなり!」
「僕は常日頃クレア叔母様をお呼びする時に心苦しかったんだ。
こんなにも若くてお綺麗なのに叔母様とお呼びしないといけない
自分の立ち居地を呪ったものだ。それなのに!君は僕と同じ立ち位置だのに
姉様と呼ぶのか!ずるいぞ!卑怯だ
!クレア叔母様!僕も只今より姉様とお呼び致します。宜しいですね!」
「あらあら。健一君の登場で私は一気に若返った気分ですわ。
ええコンラッドさん貴方にも姉様と呼ぶ事を許しましょう。
ささぁ!エルザさん貴方は私に付いて来なさい。お着替えをしますよ」
笑顔が増したクレアが上機嫌でエルザを連れ2人から去っていく。
不安げに何度も振り返るエルザ。だが、此処は健一の土俵では無い。
彼女を助ける事は健一には不可能だった。
「いや~早速君の効果が得られた礼を言おう。
正直クレア姉様には時々睨まれていたんだ。これで当面
お小言は落ちないだろう。助かったよ」
コンラッド。中々の策士である。機転を利かす頭の回転に一目を置かずには
居られないと思った。
「コンラッド。自分ばかり話さず私にも紹介させてくれ」
叔父エリオの声が2人に届いた。慌てて大人達の下へ駆け寄る小僧二人。
「お初にお目にかかります健一と申します」
「こちらこそ始めまして。健一君。すまんが君の顔をよく見せておくれ」
「はい?…はい」
「…うん!君には悪いが…うん秋穂姉様に良く似ている。…残念だ。うん残念だ。
出来る事ならもう一度姉様にお会いしたかったよ。
…父上も悲報を悲しんでおいでだった」
そう言ってエリオ叔父さんは健一を強く抱きしめていた。その仕草に息子である
コンラッドも驚きを隠せないで居た。当然健一も抱きつかれて困惑気味だ。
アルベルトは頭を掻いてそっぽを向く
夕食はブルクハルト公爵は姿を見せなかった。その代わりエリオの妻ブリジット
が顔を出す。父アルベルトと久し振りの顔合わせ。健一とは初の対面である。
彼女も母秋穂の死を悲しんでくれた
そしてコンラッドの小さな妹達「ローラ」と「アイナ」との挨拶を交わす。
夕食時のサプライズはクレアによって変身させられたエルザの姿だろう。
本来従者の立場でこの席に着く事等有得ないのだが、到着後に当主自らが
無礼講宣言をしたので、こうして彼女も同じ席に居るのだ。
健一は泣き虫で臆病なエルザが此処まで変身するのかと驚いていた。
そして朝を迎えるクレアの家に向うときが迫る。ブルクハルトは今朝も
顔を見せない。
健一は考えた。そして行動を起こす。出発を前に皆を待たせ、執事に頼み
屋敷の奥へと独り進む。重厚な扉を執事がノックする。
「旦那様健一様がご挨拶に来られました」
しばし無言が続く
「通せ」
「はい」
執事が重厚な扉を開き健一独り中へ進む
「公爵様健一です。この度の件ご配慮下さいましてありがとうございます」
「…よせ。おまえは、そんな話し方を学んではおらんであろう。
お前の母もそうだった。
異世界の者は建ての繋がりを余好んで居ないと言っておったな。
お前もこの家に居る時は母を見習えば良い。ワシが許す。
但しこの家の中だけだ。外では他の貴族の目が在る。よいな」
「…おじい様。この度の件ありがとうございます。いつか、いつかきっと
自分の犯した事は自分で処理できる力を付けて見せます…」
「用件はそれだけか?ならば行くが良い」
「…あの~」
「なんだ?」
「母さんの死を悲しんでくれてありがとう」
五話 「帰宅・訪問・遭遇」 完
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