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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX


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第97話 表裏一体

ジェクスとゼイン、二人の因縁がここから始まります。


炎を纏う剣と、黒い雷を纏う拳――二つの力が、夜の戦場で、幾度となく交差していた。


「――なんで……追いついてきてる!?」


ゼインの声に、苛立ちが色濃く滲んでいた。三秒先を見通すはずの未来が、ジェクスの速度に、徐々に追いつかれ始めている。それが、信じられないという様子だった。


「――お前だけじゃない」ジェクスは、炎を纏った剣を構え直しながら、静かに言った。「俺も、あの日から、ずっと積み重ねてきたんだ」


攻防は、なおも続いた。ゼインの拳が、幾度もジェクスを捉えようとするが、その全てが、紙一重で躱されていく。逆に、ジェクスの剣も、確実にゼインを追い詰め始めていた。


「――くそ、くそ、くそ!」


ゼインの動きが、次第に荒くなっていく。冷静さを失いつつある証だった。


(――このまま、押し切れる)


ジェクスは、想定録の棚を、絶えず巡らせ続けていた。ゼインの重心、呼吸、そして苛立ちに滲む隙――それら全てを、体に馴染んだ速度で、正確に読み取っていく。


(――思考と、体の動きが、ようやく一つになってきた)


天界で理想を描いた、あの十秒。そこで思い描いた強さと、今この瞬間の自分――その差が、戦うたびに、少しずつ埋まっていくのを感じていた。


「――もう一段、上げるぞ」


ジェクスは、そう呟くと、余った魔力を、さらに炎へと変換した。全身を包む炎が、一段と勢いを増す。


「――なっ!?」


ゼインの目が、初めて、明確な焦りを浮かべた。三秒先の未来――そこに映る自分の姿が、既に、地に伏していたからだった。


「――嘘、だろ」


「――残念だったな」


ジェクスの姿が、炎の尾を引きながら、ゼインの懐へと踏み込んだ。


未来が見えていても、その未来を変えるだけの反応速度が、既にゼインには残されていなかった。


「――終わりだ」


炎を纏った剣が、峰を返し、ゼインの胴を、鈍い音とともに打ち抜いた。


「――が、ぐぅ……!」


ゼインの体が、大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。


「――終わりだ」


炎を纏った剣が、峰を返し、ゼインの胴を、鈍い音とともに打ち抜いた。


「――が、ぐぅ……!」


ゼインの体が、大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。


意識が、急速に遠のいていく中、ゼインの脳裏には、誰にも知られることのない記憶が、走馬灯のように蘇っていた。


――現世での、代わり映えのしない日々。誰にも期待されず、誰も期待しない毎日。仕事も、人間関係も、何もかもが、灰色に塗り潰されていた。暇さえあれば、世界が壊れる様を想像していた。それが、唯一の楽しみだった。


(――なあ、ジェクス)


初めてあの目を見た時のことを、ゼインは、今でも鮮明に覚えている。奴隷オークションの喧騒の中、遠目に見えた、あの生き生きとした瞳。まるで、この世界の全てを、心から楽しんでいるかのような。


(――お前と、俺と、何が違うんだよ)


同じ現世から来た。同じように、あの十秒を与えられた。それなのに、自分は破壊しか想像できず、あいつは、これほどまでに眩しい目をしていた。


その差が、ずっと理解できなかった。理解できないまま、ただ、憎らしかった。憎らしくて、同時に――どうしようもなく、羨ましかった。


(――お前みたいに、なりたかったのかもな。……俺も)


その本音を、ゼインは、これまで一度も、誰にも――自分自身にすら、認めたことがなかった。意識が完全に閉ざされる直前、その想いだけが、静かに胸の奥へと沈んでいった。


「――ジェクス!」ガレスの声が、遠くから響いた。「大丈夫か!」


「――ええ、何とか」


肩で息をしながら、ジェクスは、倒れ伏したゼインを見下ろした。想定録の棚に、これまでにない充実感が、静かに刻まれていく。


だが、その直後だった。


「――お疲れさん」


低く、涼やかな声が、戦場に響いた。


「――レトゥス……!」


いつの間にか、倒れたゼインの傍らに、レトゥスが立っていた。その手が、ゼインの体を、無造作に持ち上げる。


「――待て!」ジェクスが、剣を構えて駆け寄ろうとするが、既に遅かった。


「――今日のところは、これで退散させてもらう。……なかなか、見応えのある戦いだったぜ。……また、すぐ会おうさ」


レトゥスは、口の端を吊り上げながら、静かに闇の中へと溶けるように消えていった。ゼインの姿もろとも、その場から、跡形もなく。


「――くそっ!」


ジェクスは、思わず拳を握りしめた。だが、追う術は、既になかった。


「――ジェクス、無事か!」


駆け寄ってきたガレスに、ジェクスは、静かに頷いた。その表情には、どこか、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。


「――何とか。……皆さんは」


「――お前が来てくれなかったら、もっと酷いことになってた」ガレスは、そう言うと、僅かに視線を落とした。「……それでも、決して軽くない被害だ」


その言葉に、ジェクスは、静かに息を呑んだ。詳しい状況は、まだ分からない。だが、その一言だけで、この場に流れた犠牲の重さが、十分に伝わってきた。


夜空の下、静寂を取り戻しつつある戦場に、安堵とも呼べない、重い沈黙が、静かに満ちていった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

「思考と体の動きが、ようやく一つになってきた」——洞窟での経験と、天界で描いた理想が重なり合う中、ついに峰打ちでゼインを打ち破りました。しかし、レトゥスの介入により、あと一歩のところで取り逃がす結果に。決して軽くない被害を受けた本隊——その全容は、次話で明らかになります。

次話もお楽しみに。

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