第95話 流星の如く
洞窟組の四人、そして本隊、それぞれの戦いが同時に進んでいきます。
ジェクスが本隊のもとへ向けて飛び立った、その頃。
洞窟の中では、残る四人が、それぞれの試練と向き合い続けていた。
カイドは、崩れかけた通路の中、気力だけを頼りに前進を続けていた。何度も体勢を崩し、壁に打ち付けられながらも、立ち上がることをやめなかった。
「――くそ、まだだ……!」
全身に、無数の擦り傷が刻まれている。それでも、その目に宿る光だけは、まだ消えていなかった。
アリシャもまた、視界の利かない暗闇の中を、慎重に進んでいた。目で見て確かめることができない以上、頼れるのは、手の感触だけだった。
指先で地面や壁の質感を確かめ、時折触れる草木からは、その魔力の揺らぎを読み取る。かつて騎士団で叩き込まれたサバイバル訓練では、暗所での野草の見分け方も、一通り教え込まれていた。だが、視覚が使えない今、その知識だけでは足りない。
(――毒のある草は、魔力の波長がざらついてる。……食べられるものは、もっと滑らかな感触のはず)
触れた瞬間に伝わる、魔力の質感の違い――それを頼りに、口にしていいものかどうかを、一つひとつ見極めていく。現世の知識と、この世界特有の魔力感知、その両方を掛け合わせることでしか、切り開けない道だった。
ギフトで衣服を整えながら、彼女は、静かに、しかし確実に、歩みを進めていく。
アクセルは、鋭敏な感覚だけを頼りに、暗闇の中を器用に進んでいた。長年の実戦で磨き上げてきた勘が、危険を事前に察知し、最短のルートを選び取っていく。
「――思ったより、悪くねえペースだな」
そして、ギルは、涼しい顔のまま、着実に歩を進めていた。軍人として鍛え抜かれた体力と精神力、そしてサバイバルの心得――それら全てが、この過酷な環境でも、彼を落ち着かせていた。
気力だけを頼りに壁を打ち破ろうとするカイド、手の感触だけを頼りに暗闇を見極めようとするアリシャ、鋭敏な感覚だけで最短ルートを選び取るアクセル、そして涼しい顔で歩みを止めないギル――それぞれが、それぞれの闇と、静かに向き合い続けていた。
彼らのうち、誰一人として、まだ知らなかった。今この瞬間、本隊の仲間たちが、魔族の群れとゼインに襲われ、窮地に追い込まれていることを。
***
一方、本隊が展開する戦場では、乱戦が、なおも続いていた。
「――散らばるな! 固まって戦え!」ガレスが、剣を振るいながら叫ぶ。
魔族の群れは、統率されているようで、どこか捉えどころのない動きを見せていた。まるで、ゼインの怒りに呼応するかのように、次々と波状攻撃を仕掛けてくる。
「――くっ!」オルグレンが、鋼の武器を生成しながら、迫る魔族を薙ぎ払った。
だが、真に異常だったのは、ゼイン本人の動きだった。
「――そこか!」ロルフが、渾身の一撃を、ゼインへと叩き込む。だが、その剣が触れる寸前、ゼインの体は、既にその場から消えていた。
「――なんで、避けれるんだ……!」ネリアが、放った魔法をあっさりと躱され、悔しげに呟く。まるで、魔法が発動する前から、その軌道を知っていたかのような回避だった。
「――くそ、当たらねえ!」アイラが、剣を振るうが、それすらも、紙一重で空を切る。ゼインは、まるで、全ての攻撃が来ることを、初めから知っていたかのように、涼しい顔で立っていた。
「――かかってこいよ。……お前らの一手、全部お見通しなんだ」
その言葉に、隊員たちの間に、明確な焦りが広がっていく。何をしても、当たらない。攻撃は全て、放つ前に見切られている――そんな絶望的な状況に、士気が、じりじりと削られていった。
「――このままじゃ、いずれ押し切られる」ケインが、戦況を見渡しながら、険しい表情を浮かべた。負傷者こそまだ少ないが、誰も、ゼインにかすり傷一つ負わせられずにいた。
「――ジェクスは、まだか」
その呟きに、応える者は、誰もいなかった。
***
夜空を切り裂きながら、ジェクスは、全速力で戦場へと向かっていた。
(――間に合ってくれ)
想定録の棚に浮かぶ、仲間たちの顔――その一人ひとりの無事を、強く願いながら、ジェクスは、これまでにない速度で、空を駆けていった。
やがて、遠く、戦いの気配が見えてきた。土煙、怒号、そして――見覚えのある、禍々しい魔力の奔流。
「――見つけた」
ジェクスは、迷わず、その中心へと、まっすぐに降下していった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
視覚に頼れない中、触感と魔力感知を掛け合わせて道を切り開くアリシャ、気力だけで進むカイド、涼しい顔のギル——それぞれの奮闘を描きつつ、彼らがまだ知らない本隊の危機とも対比させてみました。ジェクスが「見つけた」と戦場へ降下していくところで幕を引きましたが、ここからどう戦況が動くのか——次話もお楽しみに。




