第92話 進むべき道
洞窟の奥、五人はそれぞれの道へ強くなるために分かれていきます。
洞窟の入口を抜けると、そこには、想像していたよりも遥かに広い空間が広がっていた。
「――何だ、ここ」カイドが、暗闇に目を凝らしながら呟く。
見上げるほどの高さを持つ、ドーム状の空間。壁面には、無数の紋様が刻まれ、それ自体が、微かな光を放っているようだった。
その時だった。壁の五箇所が、突如として、軋むような音を立て始めた。
「――なっ!?」
石の壁が、まるで意志を持つかのように、ゆっくりと崩れていく。崩れた先には、それぞれ別方向へと続く、暗い通路が姿を現していた。
「――五人だから、五つの道か」ギルが、低く唸った。「聞いてはいたが、実際に見ると、不気味なもんだな」
「――ここから、それぞれ別々に進むってことですね」ジェクスが、通路の奥を見つめながら言った。
「――ああ。……この先は、誰も助けちゃくれねえ」ギルが、一同を見渡した。「泉に辿り着いて、また同じ道を戻ってくる。それだけだ」
その言葉に、五人の間に、重い緊張が走った。
「――一つ、決めておきたいことがある」ギルが、続けた。「俺は、出口に戻ったら、全員が出てくるまで待つ。……もし、俺より先に出てきた奴がいたら、印を残して、先に船へ戻れ」
「――印、ですか」
「その辺の石でも積んどきゃ十分だ。……全員が揃うまで、無駄に待たせる必要はねえからな」
その提案に、誰からも異論は出なかった。
「――それじゃ、行くわよ」アリシャが、五つの通路の一つへと、静かに歩みを進めた。
その所作には、これまでの怯えとは違う、確かな覚悟が滲んでいた。かつて騎士団で叩き込まれた、過酷な訓練の日々――その記憶が、今、彼女の背中を押しているようだった。
「――俺も、行くとするか」アクセルが、軽く肩を回しながら、別の通路へと向かう。長年鍛え上げてきた感覚が、この暗闇の中でも、確かな指針になるはずだった。
「――負けねえからな」カイドが、拳を握りしめながら、また別の通路へと踏み出した。気力だけは、誰にも負けないという、その一心だけを胸に。
「――涼しい顔しやがって」カイドが、隣を歩くギルへ、恨めしそうに視線を送る。
「――経験の差だ、気にすんな」
ギルは、そう言い残すと、最後の通路へと、迷いのない足取りで消えていった。
一人残ったジェクスは、目の前に開いた、最後の通路を見つめていた。
(――さて)
炎は、使わない方がいい。周囲に潜む何かを刺激しかねない。想定録の棚を辿りながら、ジェクスは、静かに目を閉じた。
(――目じゃなく、感覚そのものに、魔力を集中させる)
視覚に頼れない以上、聴覚、触覚、そして魔力そのものによる気配の察知――それら全てを研ぎ澄ませることでしか、この暗闇を進む術はなかった。
ゆっくりと、体の内側に満ちる魔力を、全身の感覚器官へと巡らせていく。暗闇の奥から、微かな空気の流れ、遠く反響する音――これまで気にも留めなかった情報が、少しずつ、輪郭を持ち始めていた。
「――行くか」
一つ小さく息を吐くと、ジェクスは、その場でふわりと体を浮かせた。ギフトによる浮遊感が、地を蹴ることもなく、体を静かに宙へと持ち上げていく。足音を立てず、地形に左右されず進める分、これが最も確実な進み方だった。
宙に浮かんだまま、ジェクスは、最後の通路へと、静かに足を踏み入れた。
五つの道が、それぞれの闇の中へと、静かに吸い込まれていった。それぞれの戦いが、今、始まろうとしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
五人分の抜け穴が音を立てて生成される演出、そしてギルの提案(先に出た者は印を残して船へ戻る)——それぞれの覚悟を胸に、五つの闇の中へと消えていきました。ジェクスが炎ではなく感覚そのものに魔力を集中させ、暗闇を進む姿も、彼らしい選択だったと思います。
ここから先、それぞれがどんな試練を潜り抜けるのか——次話もお楽しみに




