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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX
第一章 勝利は準備を愛する

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第90話 疾風の船

洞窟組五人は、バスティア最新鋭の小型飛行船で、一気に目的地を目指します。


出発の朝、バスティアの格納庫に、五人が集められていた。


「――これに乗ってもらう」


ギルが指し示した先には、これまで乗ってきた魔法船とは、まるで違う姿の船があった。装飾を削ぎ落とした、流線形の小さな船体。無骨だが、どこか研ぎ澄まされた印象を与える機体だった。


「――小せえな」カイドが、率直な感想を漏らす。


「――小せえ分、速い」ギルが、不敵に笑った。「バスティアが開発した、最新鋭の試作機だ。……お前らの魔法船とは、比べ物にならねえぞ」


「――どれくらいの速度なんだ」ジェクスが尋ねる。


「――最高速度、マッハ1だ」ギルは、そう言うと、にやりと笑った。「まあ、こいつは試作機だ。……片道だけしか飛べねえと思っとけ」


「――は?」カイドが、思わず声を上げる。


「――冗談だ、冗談。……たぶんな」


その言葉に、笑っていいのか分からない空気が、一瞬流れた。


「――そもそも、洞窟の場所はどうやって突き止めたんですか」ジェクスが、話を切り替えるように尋ねた。「あの証言だけじゃ、正確な位置までは分からなかったはずですが」


「――それなら、俺に心当たりがある」ギルが、地図を広げながら言った。「魔王領の偵察は、俺たちの仕事の一部でな。……何年か前、妙な洞窟を見つけたことがある。近づくだけで、重力がおかしくなる場所だ。あそこが、恐らくそうだろう」


「――偶然、ですか」


「偶然ってより、記憶に焼き付いてただけだ。……あんな不気味な場所、忘れられるわけがねえ」


その一言に、五人の間に、静かな緊張が走った。


「――お前、その顔。心当たりでもあんのか」ギルが、目を細める。


「――いえ、少し」ジェクスは、曖昧に笑った。「その速度、俺の最高速度と、ちょうど同じだったので」


「――は? お前、そんな速度で飛べんのか」


その言葉に、ギルだけでなく、アリシャとアクセルも、驚いたように振り返った。


「――全力を出せば、ですが」


「――化け物か、お前」カイドが、呆れたように呟く。


「――お互い様だろ」


軽口を交わしながらも、ジェクスの中では、想定録が静かに動いていた。自分の全力と同じ速度で飛ぶ乗り物――それに乗ることで、これまで気づかなかった何かが、見えてくるかもしれない。そんな予感があった。


「――ただ、直線でマッハ1が出るのと、自在に操れるのは、また別の話ですよね」ジェクスが、船体を見渡しながら言った。「俺も、真っ直ぐ飛ぶだけならいくらでも速度を出せますが、細かい制御となると、まだ全然です」


「――よく分かってるじゃねえか」ギルが、僅かに口の端を上げた。「この船も同じだ。直線番長だよ。……小回りは、あんまり利かねえ」


「――さっさと乗れ。日が暮れる前に、着いておきたい」


ギルの号令に、五人は、船内へと乗り込んでいった。


船内は、外見以上に無駄のない造りだった。座席は最低限、計器類が壁一面に並んでいる。


「――掴まってろ。急発進するぞ」


その一言と同時に、船体が、轟音を立てて動き出した。


「――うおっ!?」


カイドが、思わず座席の縁を掴む。凄まじい加速度が、全身を押し潰すように襲いかかった。


「――す、すごい……」アリシャが、窓の外を見つめながら呟く。景色が、瞬く間に後方へと流れ去っていく。


「――これが、俺の全力飛行と同じ速さ、か」


ジェクスは、窓の外を見つめながら、静かに呟いた。これまで自分が当たり前のように出していた速度を、外側から体感する――それは、想像以上に、新鮮な感覚だった。


「――酔うなよ、坊やたち」ギルが、操縦桿を握りながら、不敵に笑った。「洞窟までは、あっという間だ」


疾風の如く空を切り裂きながら、小型船は、魔王の領地へ向けて、一直線に進んでいった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

最高速度マッハ1——ジェクス自身の全力飛行と同じ速度に、思わぬ形で向き合うことになりました。「直線で速いのと、自在に操れるのは別の話」という気づきも、彼らしい分析だったと思います。ギルの軽口や、洞窟の場所を偵察で見つけていたという経緯も、緊張の中の一息になっていれば嬉しいです。

いよいよ洞窟が見えてきました。次話もお楽しみに。

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