第9話 新しい繋がり
大蛇ヴォルカニス討伐から一夜明け、日常が動き出します。ライバルとの距離感にも少しずつ変化が——そして、新たな出会いが今後の物語に関わってきます。
どうぞお楽しみください。
依頼の内容は、単純なようで単純ではなかった。
「――国宝級の魔石が、盗まれた」
ギルドの応接室で、ガルドナーが低い声でそう告げた。
「先日、ある落とし物の依頼で届けられた石だ。持ち主が国に献上する予定だったが、その矢先に何者かが奪っていった。奪還対象は旧市街、廃教会付近」
「国宝級……」ジェクスは記憶をたどった。あの時拾った、妙に滑らかな石。まさか、あれがそんな大層なものだったとは。
「一人でとは言わない。カイド、フィーレ――いや、フィーレは今別件だったな。カイド、お前とジェクスの二人でいけ」
「二人で足りますかね」ジェクスが尋ねる。
「足りるかどうかより、目立たない方がいい仕事だ。大人数で乗り込めば、向こうも警戒する」
旧市街は、街の中でも取り残されたような一角だった。崩れかけた石畳、蔦の絡まる廃屋、人の気配のない路地。昼間だというのに、妙に薄暗い。
「――嫌な感じの場所だな」
カイドが小声で呟いた。
廃教会に近づくにつれ、人の気配が濃くなった。物陰から、二つの人影が現れる。
「――ずいぶん早いお出ましだな」
一人が、余裕のある声で言った。もう一人は無言のまま、剣の柄に手をかけている。二人とも、明らかにこの世界の住人らしくない、どこか浮いた雰囲気を纏っていた。
(――こいつら……)
ジェクスの中で、想定録が反応した。だが、確信には至らない。何かが引っかかるだけの、根拠のない直感だった。
「お前ら、まさか」
「さあな。名乗る義理はない」
言い終わるより早く、二人が同時に仕掛けてきた。片方は剣、もう片方は詠唱を挟んだ魔法。動きの質が、これまで戦ってきたどの魔物とも、人間の盗賊とも違った。
「――カイド、右!」
「分かってる!」
カイドが剣士を受け持ち、ジェクスは魔法使いの方へ回った。放たれた炎の弾を、体をひねって躱す。だが、次の一撃は詠唱なしで来た。
(――無詠唱だと? ……いや、待て)
ジェクス自身、ギフトで無詠唱の炎を使う。だが、目の前の相手のそれは、微妙に「質」が違う気がした。うまく言葉にできない、既視感のような違和感。
(――想定録に、ない反応だ。だが、これは――)
深く考える間もなく、相手が畳みかけてくる。攻防を繰り返すうちに、ジェクスは徐々に相手の癖を掴み始めていた。詠唱の有無に惑わされず、予備動作そのものを読む。三十三年の我流の観察眼が、ここでも役に立った。
隙を見て懐に飛び込み、当て身で相手を沈める。カイドの方も、多少の傷を負いながらも、剣士を打ち倒していた。
「……逃げたか」
地面に伸びた二人を見下ろしながら、カイドが舌打ちした。倒した相手の懐から、何のしるしもない身分証めいたものが落ちる。だが、そこに記された文字は、この国の言語とは微妙に違う書式だった。
「――ジェクス、これ」
拾い上げたカイドが、怪訝な顔をする。
「読めるか」
「いや」
ジェクスは正直に首を振った。だが、内心では別のことを考えていた。
(――この違和感、いつかどこかで感じた気がする。何だったか……)
思い出せない。だが、確かに「知っている」感覚だけが、頭の隅に引っかかっていた。
廃教会の中は、蝋燭の灯りだけが揺れる薄暗い空間だった。祭壇の上、こぶし大の石が、蝋燭の光を歪んだ形に映し込んで静かに輝いている。
「――あった」
カイドが手を伸ばしかけた、その時だった。
「随分と、探し回ったもんだな」
声は、どこから聞こえたのか分からなかった。
二人は、同時に身構えた。
今回はギルドでの報告と祝杯、そして落とし物依頼という、少し落ち着いたエピソードでした。
ジェクスが見せる「素直になれない優しさ」への理解や、素材を残しておくという小さな判断——実はこれ、後々の展開に繋がってきます。楽しみにしていただければ幸いです。
次話もどうぞよろしくお願いします。




