第8話 牙を売る男
お待たせしました、第八話です。
前話でライバルが負傷し、いよいよジェクスが本気を出す回になります。
「本気を出す」といっても派手な必殺技バトルではなく、ジェクス自身が自分の力を検証する回として書きました。楽しんでいただけたら幸いです。
ヴォルカニスの牙と皮を担いでギルドに戻ると、受付は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「――嘘でしょう、これ本当にヴォルカニス!? A級指定の依頼、お二人だけで……」
「カイドが眷属を全部片付けてくれたんで、本体は俺が」
「片付けたっつっても、お前が最後仕留めたんだろうが。手柄まで俺に回すな」
カイドが横から口を挟んだ。その声には、以前のような棘がなかった。
受付の奥から出てきたガルドナーが、担ぎ込まれた牙と皮を一瞥し、それからカイドの脇腹に巻かれた包帯に目を留めた。
「怪我は?」
「浅いです。オヤジ」
カイドが軽く答える。ジェクスはその呼び方に、小さく引っかかった。
(――オヤジ、か。義理とはいえ、悪くない関係だな)
「二人とも、無事に帰ってきたなら文句はない。……ジェクス、お前は?」
「腕に少し。もう塞がってます」
実際、傷はすでに薄い痕を残すだけになっていた。ギフトによる自然治癒の恩恵だ。ガルドナーはそれを見て、何かを察したような顔をしたが、何も言わなかった。
牙と皮の買い取り査定を待つ間、カイドがぽつりと言った。
「――お前、次は何する気だ」
「牙、少し残しておきたい。売り払うにはもったいない気がしてな」
「装備でも作る気か」
「そのうちな」
査定の結果、皮はギルドが買い取り、牙の一部はジェクスの取り分として残された。それを持って向かったのは、街の外れにある小さな工房だった。
扉を開けると、ドワーフの男が作業台に向かって金槌を振るっていた。がっしりとした体躯、油と煤で汚れた革のエプロン。
「――客か。今忙しい」
「魔石加工を頼みたい。あと、この牙も」
男は手を止め、振り返った。牙を一目見るなり、目の色が変わった。
「……ヴォルカニスの牙? 本物か?」
「今日仕留めたばかりだ」
ドワーフは牙を手に取り、光にかざしながら、まるで恋人でも見るような目つきでためつすがめつした。
「――こいつは、ただの素材じゃない。使い方次第じゃ、とんでもない業物になる」
「加工できるか」
「できるかじゃねえ、やらせてくれ、だ。……いや待て、今すぐは無理だ。今抱えてる仕事があってな」
「急がなくていい。いつか、また来る」
ドルガンは牙を丁寧に布に包み、大事そうに棚へしまった。
「――俺はドルガン。通り名は『ジュエリスト』だ。覚えとけ」
「ジェクスだ」
「……いつか工房へ、な。約束だ」
ドルガンはそう言って、初めて笑った顔を見せた。無骨な職人の顔の下に、何かを楽しみにしているような、少年めいた光が覗いていた。
工房を出たところで、カイドが待っていた。
「――牙、預けたのか」
「ああ。すぐには作れないってさ」
「へえ。……なあ、ジェクス」
カイドは、珍しく言い淀んだ。
「今日、庇ってもらった。……礼を言うのは、性に合わねえけどな」
「別に、礼を言われるほどのことはしてない」
「してるさ。俺が油断しなけりゃ、庇わせる必要もなかった」
カイドは、それだけ言うと、足早に歩き去った。その背中を見送りながら、ジェクスは小さく笑った。
(――素直じゃないところも、悪くない)
夕暮れの街を歩きながら、ジェクスは懐にしまった依頼書の束を思い出していた。次にすべきことは、まだ山ほどある。だが、今日という一日が、少しだけ、この世界での居場所を固めてくれた気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ジェクスの「まだ足りない」という感覚、実はここから先の伏線として少しずつ育てていく予定です。次話では大蛇の牙を持ち帰り、思わぬ形で剣づくりの話に繋がっていきます。
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