第86話 強さの秘密 前編
ただの人間であるはずのレトゥスや5人の影、彼らの強さの秘密がわかる前編です!
生け捕りにしたモルドは、不時着した魔法船の一室に、厳重な拘束を施された上で監禁されていた。
「――こいつから、話を聞き出す」オルグレンが、険しい表情で言った。「ただの人間が、なぜここまでの魔力を持っている。……知っておく必要がある」
その言葉に応じて呼ばれたのは、数々の頑固な口を割らせてきたという、拷問術に長けた冒険者だった。討伐隊にも、念のためにと同行させていた人物だった。
「――任せてください。時間はかかるでしょうが」
そう言い残すと、その男は、モルドの監禁されている一室へと、静かに姿を消した。
***
一日が、経過した。
その間、扉の外にまで、モルドの怒声や、呻き声が、幾度となく漏れ聞こえてきた。それでも、口を割ったという報告は、なかなか届かなかった。
「――随分と、長引いてるな」カイドが、扉の外で、落ち着かない様子で呟いた。
「――ああいうタイプは、時間がかかる」ジェクスが、静かに答える。想定録の棚に、これまでの尋問記録――特に、以前レトゥス配下の一人を尋問した際の報告が、ふと蘇っていた。あの時は、忠誠心の高さゆえに、口を割らせることができなかった。
(――今回も、同じ結末なのか)
そんな懸念が、頭をよぎり始めた頃、扉が、静かに開いた。
姿を現した尋問役の男は、疲労の色を隠せない様子だった。だが、その口元には、隠しきれない得意げな笑みが浮かんでいた。
「――いやぁ、苦戦しましたよ。……でも、吐かせましたけどね」
「――本当か」オルグレンが、身を乗り出した。
「ええ。並大抵の忠誠心じゃなかった。痛みにも、恐怖にも、驚くほど動じない。……正直、俺の腕をもってしても、ここまで手こずったのは久しぶりです」
男は、疲れた様子を見せながらも、どこか誇らしげに続けた。
「――でも、最後はこっちの手の内を、一つ明かしてやったら、あっさりでしたよ」
「――手の内?」
「――俺も、ジェクスたちみたく、修行したんだよ。……あいつに向かって、そう言ってやったんです」男は、ふっと鼻を鳴らして笑った。「――正直、前にレトゥスの手下を尋問した時は、歯が立たなかった。あれが悔しくてな。あんたらの積み重ねる姿勢を見て、俺も鍛え直したんです。……おかげで、今回はちゃんと、こういう強敵からでも吐かせられました」
その一言に、その場にいた誰もが、一瞬、言葉を失った。
「――どんな、鍛錬をしたんだ」ガレスが、低く尋ねる。
「――詳しくは、言いたくありません」男は、そう言って、僅かに目を伏せた。「ただ、こっちにも、常人には理解できない領域で積み上げてきたものがある。……それを見せつけただけで、あいつの中の何かが、僅かに揺らいだんです」
その言葉の裏に、どれほどの鍛錬が隠されているのか――誰も、それ以上踏み込んで尋ねようとはしなかった。
「――それで、聞き出した内容は」オルグレンが、話を進めた。
男は、懐から取り出した紙片を、静かに広げた。
「――闇ギルド幹部以上が、常軌を逸した魔力を持っている理由。……魔王の領地の中に、『試練の洞窟』と呼ばれる場所があるそうです」
その報告に、部屋の空気が、一気に張り詰めていった。
「――詳しく、聞かせてくれ」ガレスが、身を乗り出した。
「重力と磁場が常軌を逸して変化し、光すら届かない暗闇の洞窟だそうです。挑戦者は、己の魔力だけを頼りに、最深部を目指す。……ただし、掟がある」
「――掟?」
「装備は、体を覆う程度の布のみ。武器も、魔法の使用も禁止。許されるのは、魔力による身体強化だけ。……それを破れば、最深部の泉の効果が出ない、と伝えられているそうです」
「――泉?」ジェクスが、思わず口を挟んだ。
「最深部に、泉があるそうです。その水を汲んで持ち帰り、月明かりの下で飲むと、魔力が跳ね上がる。……あいつは、そう証言していました」
「――しかも」男は、続けて紙片をめくった。「踏破にかかった日数が短いほど、効果が強くなるとも言っていました。理由までは分かっていないようですが、水が"新鮮な"うちに飲むことが、条件に関わっているんじゃないか、と」
その情報の重さに、部屋の中に、しばらく沈黙が落ちた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
一日がかりの尋問、そして拷問役の彼自身の成長物語も垣間見える回になりました。以前の失敗から悔しさをバネに鍛え直した、というエピソードも、ジェクスたちの積み重ねる姿勢が周囲にも影響を与えている証だと思います。
「試練の洞窟」——闇ギルド幹部の力の秘密が、ついに明らかになりました。次話もお楽しみに。




