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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX
第一章 勝利は準備を愛する

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第85話 連携

前話の激戦、その続きをお届けします。


「――シグルド、負傷者を頼む!」ガレスが、肩を押さえながら叫んだ。


「――言われなくても」


シグルドが、気だるげな動きとは裏腹に、素早く負傷者の間を駆け抜けていく。掌から放たれる光が、傷口を次々と塞いでいった。


「――手伝うわ」


アリシャが、深く傷を負った騎士の一人に、駆け寄りながら声をかけた。傷口に手をかざすと、淡い時の粒子が纏わりつき、傷が巻き戻るように塞がっていく。


「――お、いい仕事するじゃねえか」シグルドが、隣で光を放ちながら言った。


「――時間を巻き戻すだけだから、限界もあるけどね」


「――俺の光と組み合わせりゃ、もっと持ちがいいはずだ」シグルドが、アリシャの治療した傷口に、続けて淡い光を重ねた。「時間で巻き戻した分を、光で定着させる。……理屈は知らねえが、悪くない相性だ」


「――やってみるものね」


二人の力が重なることで、深手を負っていた騎士たちが、次々と立ち上がっていく。時を戻す力と、光による定着――即席の組み合わせにもかかわらず、その効果は、単独で使うよりも明らかに安定していた。


「――お前ら、まだ立てるだろ。立って、また前に出ろ」


その荒っぽい激励に、負傷していた騎士たちが、次々と剣を握り直していく。回復の光と、鼓舞するような声――シグルドとアリシャの連携が、崩れかけた陣形を、確かに立て直していた。


「――回復役がいるかいねえかで、こうも違うもんかよ」モルドが、忌々しげに舌打ちする。


その隙を突くように、ガレスが前へと踏み出した。


「――お前の相手は、俺だ」


ガレスの剣が、モルドの拳と、正面から打ち合った。


「――さっきの続き、やろうじゃねえか」


「――言うようになったな」


激しい打ち合いの中、ガレスの動きに、迷いが消えていた。仲間が支え合う姿を見た今、もう一人で抱え込む必要はない――その確信が、剣筋に力を与えていた。


「――くらえ!」


ガレスの一撃が、モルドの腕を捉える。浅い傷だったが、確かな手応えがあった。


「――やるじゃねえか」


モルドが、それでも笑みを崩さないまま、後ろへ跳び退った。まだ、その動きに衰えは見えない。


だが、視線を巡らせた先――バゼル、クロウ、ダリアの様子は、それとは対照的だった。個々の実力そのものが衰えたわけではない。だが、これまでリーザの毒霧を前提に組み立てていた間合いや呼吸が、その支えを失ったことで、随所に狂いを生じさせていた。慣れた足場を、突然外されたような不安定さが、三人の動きに滲んでいる。


「――くそ、なんで急にタイミングがズレるんだ!」バゼルが、自分の踏み込みに苛立ちながら叫んだ。剣の間合いを誤り、大きく体勢を崩す。


「――隙だらけよ」


その隙を、ネリアの魔法が容赦なく突いた。バゼルは、対応する間もなく、地面に叩きつけられる。


「――ぐああっ!」


「――一人!」


続いて、クロウの気配のない動きにも、明らかな乱れが生じ始めていた。今まで完璧に読めていたはずの間合いが、リーザの支援を失ったことで、僅かにずれている。


「――……くそ」


その僅かな綻びを、ロルフの盾撃が正確に捉えた。


「――もらった!」


クロウの体が、大きく吹き飛ばされ、そのまま意識を失って倒れ込む。


「――二人!」


ダリアの優雅な剣舞も、既に舞台としての体を成していなかった。仲間の脱落を目の当たりにし、その優雅さが、明らかな焦りへと変わっていく。


「――こんなはずじゃ……こんな、みっともない幕引きなんて――」


言い終える前に、アイラの一撃が、その隙だらけの構えを打ち払った。


「――三人!」


残るは、モルドただ一人だった。


「――くそったれが……!」


拳を振り上げるモルドの動きにも、もはやかつての鋭さはなかった。ただ闇雲に力を振るうだけの姿は、誰の目にも、既に限界が来ていることを物語っていた。


「――終わりだ」


ガレスの一撃が、モルドの体を、地に沈めた。


「――四人、全て制圧!」


「――四人がかりでも、もう連携になってねえぞ!」アクセルが、二刀を振るいながら叫ぶ。


その混乱の中、ジェクスは、想定録の棚に浮かぶ全体像を、静かに見渡していた。


(――今なら、いける)


「――カイド!」


「――ああ!」


カイドが、鞘に魔力を込め、最後の集中を練り上げる。ジェクスも、両手の剣に、それぞれ異なる波長を纏わせた。


「――畳みかけるぞ!」


ガレスの号令とともに、討伐隊の総攻撃が、残る四人へと一斉に叩き込まれた。もはや、個々の実力差だけでは、覆せない流れが生まれていた。


「――くそ、こんなはずじゃ……!」


モルドの声に、初めて焦りが滲んでいた。数の有利という、当初は幻想に過ぎなかったはずのものが、今、確かな力として、彼らを追い詰め始めていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

アリシャとシグルドの連携治療、ガレスの覚悟を決めた一撃、そして一人が欠けたことで次々と綻びが露わになっていくクインクェ・ウンブラエ——数の有利が、ようやく本当の意味で戦況を動かし始めました。「一人!」「二人!」というカウントに、勢いを感じていただけたら嬉しいです。

残るはモルドただ一人。次話、いよいよこの戦いの決着です。次話もお楽しみに。

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