第83話 5対50
前話の続きをお届けします。よろしければ最後までお付き合いください。
戦闘は、開始と同時に、想像を超える激しさで幕を開けた。
「――散開しろ! 各個撃破は避けろ!」ガレスの声が、夜の森に響き渡る。
五十名対、たった五人。数の上では、圧倒的にこちらが有利なはずだった。だが、実際に剣を交えた瞬間、その油断は、すぐに打ち砕かれた。
モルドの拳が、盾ごと騎士を一人、大きく吹き飛ばした。
「――ぐああっ!」
「――一人、脱落!」
「――まだ立てるだろ、そんくらいで音を上げんな!」モルドが、獣のような笑みを浮かべる。
一方、リーザの毒は、触れることなく、周囲の空気そのものを侵していく。
「――近づくだけで、まずいぞ! 毒の霧が広がってる!」
「――正解。よく気づいたわね」
リーザが、感情の読めない声で、瓶の蓋を開ける。新たな毒霧が、じわりと辺りに広がっていった。
バゼルは、剣を弾き返す度に、嬉々とした声を上げていた。
「――お、いい太刀筋じゃねえか! これも、コレクションに加えさせてもらうぜ!」
「――気持ち悪いこと言ってんじゃねえ!」ロルフが、大盾で受け止めながら怒鳴る。
クロウの姿は、闇の中に溶け込むようにして、次々と現れては消えていく。気配を読めないその動きに、数名が、既に手傷を負わされていた。
そして、ダリアの周囲だけは、まるで舞台の中心であるかのように、優雅で、それでいて残酷な剣舞が繰り広げられていた。
「――もっと、もっと魅せてちょうだい! この程度じゃ、幕引きには早すぎるわ!」
五人、それぞれが、単独で複数人を相手取りながら、なお余裕を崩さない。数の有利は、まるで意味を成していなかった。
「――くそ、話が違う!」カイドが、抜刀した剣で応戦しながら叫んだ。「五十対五のはずが、まるで逆に見えるぞ!」
ジェクスも、デュオ・プロヴィーサを構えながら、歯を食いしばっていた。炎の剣で反撃を試みるが、クロウの気配のない動きに、幾度となく躱される。
「――これが、四天王の下で動く連中の実力か」
想定録の棚を辿っても、この状況を打開する明確な糸口は、まだ見えてこなかった。
「――やられてばかりじゃ、いられねえ!」
アクセルが、炎と風の合わせ技で、ダリアへと斬りかかる。だが、優雅な身のこなしで、あっさりと躱されてしまう。
「――あら、いい踊り手ね、あなた」
「――踊りじゃねえ、殺し合いだ!」
戦況は、じりじりと押される一方だった。負傷者が、少しずつ増えていく。それでも、誰一人として、退くことはなかった。
「――俺が、まず仕留める!」
ガレスが、モルドへと真っ向から斬りかかった。剣と拳が、激しく打ち合う。
「――お、悪くねえ動きだ。だが――」
モルドの拳が、僅かにガレスの剣筋を見切り、体勢を崩させる。その隙を突かれ、ガレスの肩に、拳が食い込んだ。
「――ぐっ!」
「――ガレスさん!」
「――大丈夫だ! まだやれる!」
痛みに顔を歪めながらも、ガレスは剣を握り直した。
戦いは、なおも続いていく。一人また一人と傷を負いながら、それでも五十名は、少しずつ、五人の連携に綻びを見出そうとしていた。
「――このままじゃ、埒が明かねえ」
カイドが、鞘に手をかけた。まだ、今日一度も使っていない――抜刀の型。
「――やるしかねえか」
低く呟くと、カイドは、静かに、しかし確かな集中を、体の内に練り込んでいった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
クインクェ・ウンブラエ、それぞれの実力が容赦なく発揮される回でした。モルドの拳、リーザの毒霧、バゼルの余裕、クロウの気配のなさ、ダリアの優雅な剣舞——五人それぞれの個性が、そのまま脅威として襲いかかってきます。ガレスが傷を負いながらも「まだやれる」と踏みとどまり、カイドがついに抜刀を決意したところで幕を引きました。
この絶望的な戦況を、どう打開するのか。次話もお楽しみに。




