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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX
第一章 勝利は準備を愛する

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第80話 出航

いよいよ出立の朝。総勢五十名の討伐隊が、王都の空へ旅立ちます。


出立の朝、王都の空は、雲一つない快晴だった。


船着き場には、既に多くの人が集まっていた。五十名の討伐隊、それを見送る人々、そして装飾を纏った巨大な魔法船――全てが、朝日を受けて輝いている。


「――寝れたか」カイドが、荷物を担ぎながら声をかけてきた。


「――ああ、思ったよりぐっすりだ」


「――らしいな。顔つき、随分すっきりしてる」


その言葉に、ジェクスは小さく笑った。昨夜のサウナと水風呂のおかげか、頭の芯まで、驚くほど澄み渡っていた。


「――ジェクス」


呼びかけられて振り返ると、アリシャが立っていた。心なしか、目を合わせるのが気まずそうな様子だった。


「――おはよう」


「――おはよう。……よく眠れた?」


「――ああ、おかげさまで」


「――そう、良かった」


アリシャは、それだけ言うと、少し早足で先へと進んでいった。その耳が、わずかに赤くなっていることに、ジェクスは気づいていた。


(――やっぱり、気づいたか)


内心でそう呟きながらも、ジェクスは、それ以上追及するつもりはなかった。今は、それどころではない。


人混みの向こうに、見送りに来た顔ぶれが見えた。


「――無事に帰ってこいよ」ガルドナーが、腕を組んだまま、ぶっきらぼうに言った。


「――もちろんです」


「――お前も、な」ガルドナーは、視線をカイドへと移した。「養子だからって、無理に格好つける必要はねえぞ」


「――分かってるよ、オヤジ」


その傍らで、フィーレとライアスも、心配そうな顔で二人を見つめていた。


「――今度こそ、無事に戻ってきなさいよ」フィーレが、腕を組みながら言う。


「――何かあったら、すぐに連絡を」ライアスが、資料の束を抱えたまま、真剣な表情で言った。「魔石の解析、まだ道半ばですから。……皆さんの帰りを待ってます」


その一言一言が、これまで積み重ねてきた縁の重さを、改めて感じさせた。


船着き場の中央、オルグレンとガレスが、集まった五十名を見渡していた。


「――出立に際して、一言だけ言っておく」オルグレンの声が、静かに響いた。「今回の遠征は、これまでのどの戦いよりも過酷なものになる。だが、お前らは、それぞれの積み重ねを経て、ここに立っている。自分自身と、隣にいる仲間を信じろ」


その言葉に、五十名の表情が、一斉に引き締まった。


「――全員、乗船!」


タラップの前に、ガレスが立ち、乗り込む一人ひとりの名を確認していく。まずは、開催国であるアルディアの代表格から。


「――ガレス」


「――俺からいくか」


「――ジェクス」


「――はい」


「――カイド」


「――ここに」


「――アリシャ」


「――行くわ」


「――アクセル」


「――当然だろ」


「――リヒト」


「――呼ばれちまったか、雷神様も隅に置けねえな」


「――バルド」


「――……不動の名に懸けて」


「――ノクス」


「――……」


無言のまま、静かに一礼するノクスの姿に、周囲が小さく苦笑した。かつて王都で共に闇ギルドと渡り合った三人も、あの頃からさらに腕を上げ、今ではS級として名を連ねている。


その後に続いて、アルディアから選ばれた他の精鋭たちも、次々とタラップを上っていった。


アルディアの面々が乗り込むと、続いてグランヴェル帝国の名が呼ばれた。


「――ロルフ」


「――帝国代表、参ります」


「――ダグラス」


「――どうも」


その後に続いて、グランヴェル帝国の他のメンバーも乗り込んでいく。


続いて、アストリア魔導国。


「――ネリア」


「――よろしく」


「――フィン」


「――お願いします!」


その後に続いて、アストリア魔導国の他のメンバーも乗り込んでいく。


最後に、ノルド神聖王国。


「――シグルド」


「――……はいはい」


「――アイラ」


「――参ります」


「――レイラ」


「――は、はい! よろしくお願いします!」


まだ若く、緊張を隠しきれない様子のレイラの声に、シグルドが気だるげに片手を上げて応じた。


「――お前が一番元気だな……見てるこっちが疲れる」


その後に続いて、ノルド神聖王国の他のメンバーも乗り込んでいく。


「――ケイン」


「――同行します」


各国、名を呼ばれた代表格の後に続き、まだ名を知らぬ精鋭たちが、次々とタラップを上っていった。重装の戦士、杖を携えた魔導士、弓を背負った斥候――それぞれが一礼し、船内へと吸い込まれていく。


名前が呼ばれるたび、一人また一人と、タラップを上っていく。その総数が、確かに五十に達したところで、ガレスは名簿を懐にしまった。


号令とともに、選抜メンバーたちが、次々と魔法船へと乗り込んでいく。ジェクスも、その流れに続いた。


甲板に立つと、王都の全景が見渡せた。これまで積み重ねてきた日々――ギルドでの出会い、稽古の日々、闇ギルドとの戦い、合宿での成長。その全てが、今、この一歩に繋がっていた。


「――感慨に浸ってる場合か」カイドが、隣に並びながら言う。


「――少しくらい、いいだろ」


「――言うようになったな」


二人は、小さく笑い合った。


甲板の反対側では、アクセル、ロルフ、ネリア、シグルド、その他各国の代表たちが、それぞれの表情で出立の時を待っていた。


「――こんな大所帯で移動すんの、初めてだな」アクセルが、船体を見上げながら呟く。


「――俺の国じゃ、これくらいの規模、珍しくもねえがな」ロルフが、大盾を担ぎ直しながら笑う。


「――自慢げに言うことじゃないでしょ」ネリアが、呆れたように口を挟んだ。


その軽いやり取りに、シグルドが、被った兜の下から気だるげに言葉を添えた。


「――騒がしいのは道中だけにしとけよ。着いてから息切れしてたら、洒落にならねえ」


各国から集まった面々が、初めて一つの船に乗り合わせるとあって、船内には、緊張と期待が入り混じった、独特の空気が漂っていた。


「――全員、揃ったな」ガレスが、船長らしき人物に頷いて見せる。


魔法船の浮遊部が、低い唸りを上げ始めた。船体全体が、ゆっくりと浮き上がっていく。


「――出発する!」


その号令とともに、魔法船は、王都の空へと舞い上がった。見送りの人々の歓声が、遠く小さくなっていく。


ジェクスは、甲板の縁に立ち、遠ざかる王都を見つめていた。想定録の棚に、新しい項目が、静かに刻まれていく。


(――さあ、ここからだ)


隣に、いつの間にかアリシャが立っていた。


「――長い旅になりそうね」


「――ああ」


「――でも」アリシャは、遠くを見据えたまま、静かに続けた。「あなたが隣にいるなら、大丈夫な気がする」


その言葉に、ジェクスは小さく頷いた。


「――俺も、同じだ」


朝日を浴びながら、魔法船は、バスティアへ向けて、大陸の空を静かに進んでいった。まだ見ぬ戦いへの、確かな一歩が、今、始まっていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

各国から集まった精鋭たちの乗船シーン、賑やかに描けたかと思います。ガルドナーやフィーレ、ライアスとの別れの言葉、そしてアリシャとの少し気まずい朝のやり取りも、出立前の空気として楽しんでいただけたら嬉しいです。

「あなたが隣にいるなら、大丈夫な気がする」——その言葉を胸に、いよいよ長い旅が始まります。次話もお楽しみに。

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