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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX
第一章 勝利は準備を愛する

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第78話 2人の距離

出立まで残された三日間、ジェクスにアリシャからの誘いが届きます。


討伐隊の出立まで、三日間が与えられた。


王都の一角、船着き場では、大掛かりな魔法船の整備が進められていた。空に浮かぶ気球のような巨大な浮遊部の下、金色の意匠を纏った、木造の船体が、優雅に吊り下げられている。装飾一つ一つに彫り込まれた紋様が、夕陽を受けて鈍く輝いていた。


「――随分と、豪華な作りだな」カイドが、感心したように見上げる。

「元々は、貴族以上の身分の者が各国を訪問する際に使う、格式高い乗り物らしい」ジェクスが答える。「それを、今回の討伐隊のために転用したそうだ」


バスティアまでの長距離を、一気に飛び越えるための代物だという。


「バスティアを経由して、魔王の根城まで直行する予定らしい」ジェクスが答える。「今のうちに、できる準備は全部しておきたい」


各国から集まった選抜メンバーも、少しずつ王都に到着し始めていた。見覚えのある顔、初めて見る顔――五十名という規模が、じわじわと現実味を帯びていく。


その日の夕方、ジェクスが宿舎の廊下を歩いていると、アリシャに呼び止められた。


「――ジェクス。今夜、時間ある?」


「――何か、ありましたか」


「――ご飯、一緒にどう? ……その、ちゃんとお礼ができてなかったから」


その言葉に、ジェクスは、あの合宿での襲撃の夜を思い出した。


「――お礼なら、もう十分――」


「――足りないの、まだ」アリシャは、そう言って、少し照れくさそうに視線を逸らした。「助けてもらったのに、ちゃんとした形で返せてない気がしてて」


その様子に、ジェクスは小さく頷いた。


「――分かりました。喜んで」


***


夜、王都の一角にある小さな食堂で、二人は向かい合っていた。石造りの壁には、年季の入った木製の看板や、旅人が残していったらしい古い地図が飾られている。天井から吊るされたランプの灯りが、テーブルの上に柔らかな橙色の光を落としていた。奥の暖炉では薪が静かに爆ぜ、遠くの席から漂ってくる、煮込み料理の温かな匂いが、店内に満ちている。喧騒とは無縁の、落ち着いた空気だった。


「――こういう店、意外です」ジェクスが、店内を見渡しながら言う。


「――副団長らしくない?」


「――いえ、悪い意味じゃなく」


アリシャは、小さく笑った。


「――昔から、こういう静かな店が好きなの。……騎士団の仕事してると、なかなか来る機会もないけど」


料理が運ばれてくる間、二人の間には、これまでとは違う、穏やかな空気が流れていた。


「――改めて」アリシャが、グラスを軽く掲げた。「あの夜、助けてくれて、ありがとう」


「――何度もお礼を言われるほどのことじゃありません」


「――そう思ってないから、こうして誘ったのよ」


その真っ直ぐな言葉に、ジェクスは、少し面食らいながらも、小さく笑った。


「――それなら、素直に受け取っておきます」


「――そういうところ、素直よね、あなた」


「――そうですか?」


「――ええ。……あとさ」アリシャは、少し悪戯っぽく笑った。「そろそろ、その敬語やめてよね」


「――え」


「命を預け合う仲になるかもしれないのに、いつまでも他人行儀なのは、変でしょ」


その言葉に、ジェクスは、少し戸惑いながらも頷いた。


「――分かった。……これで、いいか」


「――うん、それでいい」


アリシャは、満足そうに笑った。


「――ええ。想定録がどうとか言う割に、いざという時は、理屈より先に体が動くタイプでしょう」


その指摘に、ジェクスは苦笑した。


「――バレてたか」


「――見てれば分かるわよ」


食事が進むにつれ、話題は、これから始まる討伐隊の話へと移っていった。


「――正直、怖くないと言えば嘘になる」アリシャが、静かに呟いた。「相手は、魔王そのものだもの」


「――俺も、同じだ」


「――でも」アリシャは、ジェクスの目を見つめた。「あなたが隣にいるなら、少しは心強い」


その言葉に、ジェクスの胸の奥で、何かが小さく波打った。


「――俺も、同じ気持ちだ」


その一言に、アリシャは、少し驚いたように目を見開いた後、柔らかく笑った。


「――出立まで、あと三日。……悔いのないように、準備しましょう」


「――はい」


小さな食堂に、二人の穏やかな時間が、静かに流れていった。窓の外には、出立を前にした王都の夜が、いつもより少しだけ、輝いて見えた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

魔法船の準備、各国からの選抜メンバー集結——出発を前にした緊張感の中、アリシャとの静かな時間を描きました。「敬語やめてよね」の一言で、二人の距離がまた一歩縮まったのではないかと思います。

出立まで、あと三日。次話もお楽しみに。

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