第74話 交差する剣
総力戦の熱が冷めやらぬ中、ジェクスがある人物に一戦をお願いします。
総力戦の熱がまだ残る中、ジェクスは、稽古の片付けをしていたアクセルのもとへ向かった。
「――アクセルさん、少しお時間いいですか」
「――ん? どうした」
「――先輩として、一戦お願いできませんか」
その言葉に、アクセルが目を丸くした。
「――先輩、ね」
「二刀流同士、まだ日が浅い俺と、長年やってきたあなたじゃ、見えてるものが違うはずです。稽古をつけてほしいんです」
アクセルは、しばらくジェクスの顔を見つめた後、にやりと笑った。
「――いいだろう。……そこまで頭下げられちゃ、断る理由もねえ」
その提案に、周囲の視線が集まった。
「――お前、まだ余力あるのかよ」カイドが、呆れたように呟く。
「あるかないかは、やってみりゃ分かる」
アクセルの言葉に、ジェクスは小さく笑った。
「――ありがとうございます」
改めて向かい合う二人。二刀を構えるアクセルの姿には、長年かけて磨き上げてきた自然体の重みがあった。
「――言っとくが、俺は転移者の中じゃ、二刀流の先輩だ。舐めてかかると、痛い目見るぞ」
「――望むところです」
開始の合図とともに、二人は同時に地を蹴った。
アクセルの二刀が、右に炎、左に風を纏わせながら、交差するように振るわれる。ジェクスは、それを両方の剣で受け止めた。
「――重い!」
「五倍だからな、これでも」
弾かれた反動を利用し、ジェクスは即座に体勢を立て直した。右手の炎剣で切り返し、左手の剣に反射の波長を通す。
「――お前のそれ、見たことねえ動きだな」アクセルが、目を細める。
「まだ、仕上げの途中なので」
炎と風の合わせ技、炎と反射・毒の使い分け――それぞれの二刀流が、まったく異なる理屈で組み上げられていることが、打ち合う度に明らかになっていく。アクセルの二刀は、常に攻めに転じられる構えを崩さない。対するジェクスは、片方で受け、片方で仕留めるという役割分担を徹底していた。
「――なるほどな。お前のは、"待つ"二刀流か」
「――そちらは、"攻め続ける"二刀流ですね」
「そういうこった。……だが、待つだけじゃ、押し切られる時もあるぜ」
アクセルの猛攻が、勢いを増した。炎と風の連撃が、休む間もなくジェクスへ叩き込まれる。反射の波長で受け止めようにも、アクセルの攻撃は一つ一つが異なる軌道を描き、読み切るだけの時間的猶予を与えてくれない。
「――くっ!」
防御が間に合わず、ジェクスの頬を、風の刃が掠めた。
(――このままじゃ、押し切られる)
ジェクスは、想定録の棚を辿りながら、瞬時に方針を切り替えた。
(――受けるだけの二刀流じゃ、駄目だ。俺も、攻めに転じる)
右手の炎剣を、防御ではなく、真っ向からの一撃に使う。左手の剣は、その隙にできた綻びを突くための布石として構え直した。
「――お、来るか」
アクセルが、愉快そうに口の端を上げる。二人の剣が、正面から激しく打ち合った。
炎と炎、風と毒――属性の異なる刃が、幾度となく火花を散らす。防御に徹していたジェクスの二刀流が、この一戦を通じて、初めて攻めの形を取り始めていた。
「――悪くねえ。……お前、今日一日で、また一つ成長したな」
「――先輩のおかげです」
最後は、互いに間合いを外し、同時に距離を取る形で決着とも言えない決着がついた。
「――引き分け、でいいか」アクセルが、剣を鞘に収めながら言う。
「――俺としては、収穫の多い一戦でした」
肩で息をしながら、ジェクスは静かに笑った。想定録の棚に、また新しい項目が刻まれていく。"待つ"だけでなく、"攻める"二刀流――その両方を併せ持つための道筋が、今、はっきりと見え始めていた。
「――次は、負けねえからな」カイドが、横から割り込んでくる。
「――列に並んでください」
その軽口に、周囲から笑いが起こった。合宿の締めくくりに相応しい、もう一つの熱い一戦だった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
二刀流同士、しかし全く違う理屈で組み上げられたスタイル——アクセルの”攻め続ける”二刀流と、ジェクスの”待つ”二刀流。押し切られかけたところから、ジェクスが新しい形を見出していく過程を描けたかと思います。「先輩のおかげです」というやり取りも、二人らしい関係性になっていれば嬉しいです。
合宿もいよいよ終盤です。次話もお楽しみに。




