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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX
第一章 勝利は準備を愛する

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第72話 積み重ねの形

合宿もいよいよ終盤。それぞれの成長と、待ち望んでいた再会をお届けします。


魔力測定を終えた翌日、ジェクスは、鍛冶場の片隅にいた鍛冶師のもとを訪ねた。


「――お願いがあります」


「――何だ」


「稽古を、つけてもらえませんか。あなたの、その洞察力を借りたいんです」


鍛冶師は、しばらくジェクスの顔を見つめた後、ふっと笑った。


「――買いかぶりすぎだ。俺はただの鍛冶屋だぞ」


「――剣を見ただけで、俺の戦い方まで見抜くような鍛冶屋が、どこにいますか」


その言葉に、鍛冶師は苦笑した。


「――まあいい。付き合ってやる」


鍛冶師は、金槌を置き、代わりに使い古した木剣を手に取った。その構えには、鍛冶屋のそれとは思えない、確かな重みがあった。


「――剣も、修行も、突き詰めれば同じだ」鍛冶師が、静かに語り出す。「良い剣は、無駄な力を抜いた場所に生まれる。良い技も、同じだ。……お前、力みすぎなんだよ」


「――そう、ですか」


「打ち込むほど、良い剣は柔らかく、しなやかになる。人間も、同じだよ」


その一言は、これまで多くの師から受けてきた教えとは、また違う角度からの言葉だった。ジェクスは、想定録の棚に、その言葉を静かに刻んだ。


***


同じ頃、稽古場のあちこちで、それぞれの訓練が続いていた。


「――もう一本!」ロルフが、大盾を構えながら叫ぶ。相手を務めるダグラスが、軽やかな身のこなしで側面へ回り込んでいく。二人の連携は、初めて組んだ頃とは比べ物にならないほど、噛み合うようになっていた。


その傍らでは、ネリアが、フィンに向けて多属性の魔法を放っていた。


「――躱すだけじゃ、埒が明かないわよ」


「――分かってますよ!」


フィンの反撃は、以前より格段に鋭くなっている。若さゆえの直情的な戦い方に、少しずつ制御が加わり始めていた。


「――お疲れ様」


シグルドとアイラも、それぞれの型を繰り返し磨いていた。回復と攻撃を兼ねる聖剣術、そして一分の隙もない規律だった剣筋――対照的な二人だったが、互いの動きを見ながら、それぞれに得るものがあるようだった。


ケインは、その全ての様子を、静かにノートへ書き記していた。


「――全員、随分と仕上がってきましたね」


その呟きに、稽古場を見渡していたオルグレンが、小さく頷いた。


***


そして、合宿が始まってから一月が経とうとする頃、施設の入口に、見覚えのある一団の姿が現れた。


「――帰ったぞ!」


ガレスの声に、稽古場にいた全員が振り返った。


「――ガレスさん!」ジェクスが、真っ先に駆け寄る。


先導隊の面々が姿を現した瞬間、ジェクスの中で、あの夜の記憶が一気に蘇った。あの日届いた報告書には、「誰が」という部分だけが、最後まで伏せられたままだった。


一人ひとりの顔を確認するように見渡し、全員が無事に戻ってきたことに、ジェクスは静かに安堵の息を吐いた。


「――お帰りなさい」


「――世話になったな」ガレスが、軽く手を上げる。


その中、カイドが、ふと足を止めた。視線の先には、いつも通りの調子で軽口を叩いているアクセルの姿があった。


「――待てよ」カイドが、眉をひそめる。「……あの訃報、まさかお前のことだったのか」


「――ん? 知ってたのか、あれ」


アクセルの反応に、カイドとジェクスは、顔を見合わせた。


「――報告は届いてた。ただ、誰が、っていう部分は、最後まで知らされなかった」


「――そうか。……悪かったな、心配かけて」


アクセルが、ばつが悪そうに言った。


「――事情は、後で話す。……とにかく、無事に戻ってきた。それで良しとしてくれ」


その言葉に、これまで張り詰めていた何かが、ようやく緩んでいくのを、ジェクスは感じていた。


先導隊の面々――アクセル、ロルフたちが誇らしげに戻ってきた仲間を出迎える中、ガレスの後ろに、見覚えのない少女の姿があった。


「――こちらは、ノア。王立魔術学院の生徒だ。……事情があって、しばらくここで預かることになった」


ノアは、緊張した様子で、小さく頭を下げた。


「――よろしく、お願いします」


その姿に、ジェクスは、これまでの断片的な情報――四天王の狙い、良質な転移者・転生者への執着――が、また一つ現実として繋がっていくのを感じていた。


(――積み重ねてきたものが、また新しい局面に向かっていく)


合宿地に、これまでとは違う緊張感が、静かに満ちていった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

鍛冶師との稽古、それぞれの訓練風景、そして先導隊の帰還——一月の合宿が、一つの区切りを迎えました。あの訃報の真相が判明する場面も、しっかり回収できたかと思います。

ノアという新しい存在も加わり、物語はまた次の局面へと動き出します。次話もお楽しみに。

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