第72話 積み重ねの形
合宿もいよいよ終盤。それぞれの成長と、待ち望んでいた再会をお届けします。
魔力測定を終えた翌日、ジェクスは、鍛冶場の片隅にいた鍛冶師のもとを訪ねた。
「――お願いがあります」
「――何だ」
「稽古を、つけてもらえませんか。あなたの、その洞察力を借りたいんです」
鍛冶師は、しばらくジェクスの顔を見つめた後、ふっと笑った。
「――買いかぶりすぎだ。俺はただの鍛冶屋だぞ」
「――剣を見ただけで、俺の戦い方まで見抜くような鍛冶屋が、どこにいますか」
その言葉に、鍛冶師は苦笑した。
「――まあいい。付き合ってやる」
鍛冶師は、金槌を置き、代わりに使い古した木剣を手に取った。その構えには、鍛冶屋のそれとは思えない、確かな重みがあった。
「――剣も、修行も、突き詰めれば同じだ」鍛冶師が、静かに語り出す。「良い剣は、無駄な力を抜いた場所に生まれる。良い技も、同じだ。……お前、力みすぎなんだよ」
「――そう、ですか」
「打ち込むほど、良い剣は柔らかく、しなやかになる。人間も、同じだよ」
その一言は、これまで多くの師から受けてきた教えとは、また違う角度からの言葉だった。ジェクスは、想定録の棚に、その言葉を静かに刻んだ。
***
同じ頃、稽古場のあちこちで、それぞれの訓練が続いていた。
「――もう一本!」ロルフが、大盾を構えながら叫ぶ。相手を務めるダグラスが、軽やかな身のこなしで側面へ回り込んでいく。二人の連携は、初めて組んだ頃とは比べ物にならないほど、噛み合うようになっていた。
その傍らでは、ネリアが、フィンに向けて多属性の魔法を放っていた。
「――躱すだけじゃ、埒が明かないわよ」
「――分かってますよ!」
フィンの反撃は、以前より格段に鋭くなっている。若さゆえの直情的な戦い方に、少しずつ制御が加わり始めていた。
「――お疲れ様」
シグルドとアイラも、それぞれの型を繰り返し磨いていた。回復と攻撃を兼ねる聖剣術、そして一分の隙もない規律だった剣筋――対照的な二人だったが、互いの動きを見ながら、それぞれに得るものがあるようだった。
ケインは、その全ての様子を、静かにノートへ書き記していた。
「――全員、随分と仕上がってきましたね」
その呟きに、稽古場を見渡していたオルグレンが、小さく頷いた。
***
そして、合宿が始まってから一月が経とうとする頃、施設の入口に、見覚えのある一団の姿が現れた。
「――帰ったぞ!」
ガレスの声に、稽古場にいた全員が振り返った。
「――ガレスさん!」ジェクスが、真っ先に駆け寄る。
先導隊の面々が姿を現した瞬間、ジェクスの中で、あの夜の記憶が一気に蘇った。あの日届いた報告書には、「誰が」という部分だけが、最後まで伏せられたままだった。
一人ひとりの顔を確認するように見渡し、全員が無事に戻ってきたことに、ジェクスは静かに安堵の息を吐いた。
「――お帰りなさい」
「――世話になったな」ガレスが、軽く手を上げる。
その中、カイドが、ふと足を止めた。視線の先には、いつも通りの調子で軽口を叩いているアクセルの姿があった。
「――待てよ」カイドが、眉をひそめる。「……あの訃報、まさかお前のことだったのか」
「――ん? 知ってたのか、あれ」
アクセルの反応に、カイドとジェクスは、顔を見合わせた。
「――報告は届いてた。ただ、誰が、っていう部分は、最後まで知らされなかった」
「――そうか。……悪かったな、心配かけて」
アクセルが、ばつが悪そうに言った。
「――事情は、後で話す。……とにかく、無事に戻ってきた。それで良しとしてくれ」
その言葉に、これまで張り詰めていた何かが、ようやく緩んでいくのを、ジェクスは感じていた。
先導隊の面々――アクセル、ロルフたちが誇らしげに戻ってきた仲間を出迎える中、ガレスの後ろに、見覚えのない少女の姿があった。
「――こちらは、ノア。王立魔術学院の生徒だ。……事情があって、しばらくここで預かることになった」
ノアは、緊張した様子で、小さく頭を下げた。
「――よろしく、お願いします」
その姿に、ジェクスは、これまでの断片的な情報――四天王の狙い、良質な転移者・転生者への執着――が、また一つ現実として繋がっていくのを感じていた。
(――積み重ねてきたものが、また新しい局面に向かっていく)
合宿地に、これまでとは違う緊張感が、静かに満ちていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
鍛冶師との稽古、それぞれの訓練風景、そして先導隊の帰還——一月の合宿が、一つの区切りを迎えました。あの訃報の真相が判明する場面も、しっかり回収できたかと思います。
ノアという新しい存在も加わり、物語はまた次の局面へと動き出します。次話もお楽しみに。




