第71話 魔族の技術
魔族から回収された装置が、思わぬ形で活躍しま
# 第71話「魔族の技術」
先導隊は、王都への帰還を急ぐ一方、回収した魔力測定装置だけを、伝令に持たせて一足先に合宿地へと送っていた。「解析だけでも先に進めておいてほしい」というガレスの判断だった。
装置は、王都から急ぎ届けられた解析班によって、数日のうちに使用可能な状態まで整備された。
「――思ったより、単純な仕組みでした」ライアスが、装置を手に興奮気味に説明する。「対象に触れさせるだけで、体内に流れる魔力の総量を、"アニマ"という単位で数値化してくれます」
「――アニマ?」カイドが首を傾げる。
「魔力の単位です。今回、統一名称として使うことになりました」
合宿地の広間に、装置を試す列ができた。
「――俺からいいか」カイドが、真っ先に手を伸ばした。
装置に触れた瞬間、宙に淡い数字が浮かび上がる。
**15,000アニマ**
「――お、出た。……で、これ、高いのか?」
カイドが、素直に困惑した様子で尋ねた。単位そのものが初めて聞くものである以上、数字だけ見せられても、良し悪しの判断がつかない。
「――正直、俺にも分かりません」ライアスが、頭を掻きながら答えた。「今回、初めて数値化できたばかりの単位なので、まだ基準になる比較対象がないんです」
「――なんだよ、それ」
「まあ、これから測っていけば、相場観も見えてくるはずです。次、行きましょう」
「――次、俺も」ジェクスが、装置に手をかけた。
**25,000アニマ**
その数値に、カイドが目を丸くした。
「――は? お前の方が高いのかよ」
「――俺にも、比較のしようがないので何とも」
その言葉に、周囲がどよめいた。
「――ちょっと待ってください」ライアスが、資料をめくりながら声を上げた。「王都の解析班から、参考値をいくつか預かってきています。それと照らし合わせれば、大体の相場が見えてくるはずです」
ライアスが取り出した資料には、いくつかの参考事例がまとめられていた。
「――誤解しないでほしいんですが、魔力量と等級は、直接比例するものじゃありません。魔力が少なくても、技術や経験、身体能力だけでとんでもない実力を発揮する冒険者は、いくらでもいます」ライアスが、念を押すように言った。「あくまで、これは参考値です。魔力に偏った戦い方をする人間同士で比べた場合の、ざっくりした目安に過ぎません」
「――それでも、目安があるだけ助かる」カイドが頷く。
「魔力主体の戦い方をする人間で言えば、大体C級クラスで数千、A級クラスで1万前後という報告例が多いようです。ただ、これはあくまで一部の傾向で、絶対的な基準じゃありません」
その数字に、カイドが目を見開いた。
「――待てよ、それだと」
「はい」ライアスが頷いた。「等級として何級相当、とは言えませんが、単純な魔力量だけで見れば、A級の目安をさらに大きく超えています」
その事実に、ジェクス自身、思わず息を呑んだ。
(――積み重ねてきたものが、こういう形で数字に表れるとはな)
その数字を、ジェクスは、しばらくの間、静かに見つめていた。33年分の想定、そしてこの世界で重ねてきた日々――それが、こうして一つの数値として可視化される感覚は、想像していたよりも遥かに重く、そして確かな手応えを伴っていた。
「――お前、大した奴だな」ガレスが、感心したように呟いた。
その一言に、ジェクスは、小さく頷いた。喜びとも、誇らしさとも違う、静かな実感だけが、胸の奥に残っていた。
「――次、私も測るわ」アリシャが、装置に手をかけた。
**30,000アニマ**
「――は? アリシャさん、俺より高いじゃないですか」ジェクスが、思わず声を上げた。
「――あら、そうなの? 自分でもよく分からないから、何とも言えないけど」
「――俺も」アクセルが続いて手をかけた。
**22,000アニマ**
その数値に、ライアスが目を輝かせた。
(――待てよ)
ジェクスは、想定録の棚を辿りながら、ぶつぶつと考え込んだ。
(――俺、アリシャさん、アクセル。今出てる高い数字、全員ギフト持ちの転移者だ。……ひょっとして、ギフト持ちってだけで、魔力量自体が底上げされる傾向があるんじゃないか?)
「――どうかしたか」カイドが、怪訝そうに尋ねる。
「いや、ちょっと気になっただけだ。……ライアスさん、参考までに、ギフトを持たない冒険者の数値、記録にありますか」
「――ありますよ。それが」ライアスが資料をめくる。「同じA級クラスの冒険者でも、ギフトを持たない人だと、大体数百から千程度に収まる例が多いです」
「――やっぱり」
「――何が"やっぱり"なんだ」カイドが眉を寄せる。
「ギフト持ちは、そうでない人と比べて、桁が違うくらい魔力量が高い傾向があるかもしれない、ってことです。……あくまで、まだ仮説ですが」
その言葉に、ジェクスは、ふと気になっていたことを口にした。
「――でも、カイドの15,000は、その仮説にちょっと当てはまりませんよね。ギフトは持ってないはずなのに」
「――あ」ライアスが、資料をめくり直しながら唸った。「確かに。……これ、恐らく剣聖様の指導によるものかと。あの人自身、ギフトなしで人間離れした魔力を練り上げてきたと聞きます。カイドさんの数字は、いわば師匠譲りの、努力による例外なんでしょう」
「――お前まで比較対象にすんな」カイドが、複雑そうな顔で呟いた。
その仮説に、その場にいた全員が、少しだけ表情を引き締めた。
続いて、ドム、ジオと、次々に測定が進んでいく。それぞれの数値に、一喜一憂の声が上がった。
「――そういえば、レトゥスやメンブラ・レギスの魔力量、記録にないんですか」カイドが、ふと尋ねた。
「――そこまでは、まだ」ライアスが、首を振った。「本人を直接測定できたわけじゃないので、正確な数値は分かりません。……いずれ、知る機会があるかもしれませんが」
「まだまだ、遠い数字なんでしょうね」ジェクスが、静かに頷いた。「――だからこそ、測る意味があります」
「――どういうことだ」
「今の自分の立ち位置が分かれば、この先どれだけ積み重ねればいいか、逆算できます。……漠然と強くなろうとするより、よっぽど効率がいい」
その言葉に、ライアスが深く頷いた。
「――一月後、もう一度測定しましょう。今日の数字が、そのための基準点になります」
合宿地に、それぞれの決意を新たにする空気が満ちていった。数字という、これまでになかった明確な指標を手にしたことで、残りの合宿期間に懸ける熱量が、また一段と高まっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
初めて数値化された「アニマ」という単位——比較対象がないまま戸惑うところから始まり、ジェクス・アリシャ・アクセルの数値が判明していく過程を楽しんでいただけたら嬉しいです。ギフト持ちと魔力量の関係、そしてカイドという例外——今後の展開にも繋がっていきそうな伏線になりました。
次話もお楽しみに。




