第70話 頼もしい増援
合宿地に、思わぬ顔ぶれがやってきます。
先導隊が発ってから十日ほど経った頃、合宿地に、聞き覚えのある声が響いた。
「――おーい、王命で来てやったぞ!」
顔を出したのは、ドワーフの兄弟――ドルガンとドルファンだった。荷馬車には、大量の工具と素材が積まれている。
「――ドルガンさん!?」ジェクスが、驚いて駆け寄った。
「討伐隊の武器のメンテナンスをしろって、王都から直々のお達しでな。断れるわけもねえだろ」
「兄貴の方は、暇だったから付いてきただけだがな」ドルファンが、肩をすくめながら笑った。
その後ろから、もう一人、見覚えのある無骨な男が姿を現した。
「――あんたも来てくれたんですね」
ジェクスの剣を打った、あの鍛冶師だった。
「ドルガンの奴に泣きつかれてな。討伐隊の連中の得物、二人がかりでも手が回らねえって話で、渋々付き合ってやったんだ」
口ではそう言いながらも、その表情には、どこか誇らしげな色が滲んでいた。
臨時の鍛冶場が、合宿地の一角に設けられた。カイド、アリシャ、そして他の参加者たちの武器が、次々と手入れされていく。
「――お前、随分と剣に頼らねえ戦い方をしてるみてえだな」鍛冶師が、ジェクスの剣を検分しながら言った。「刃こぼれが少ねえ。飛んだり殴ったりしてんだろ」
「――バレてましたか」
「見りゃ分かるよ、これくらい」
「――あ、そうだ。忘れるとこだった」
ドルガンが、荷馬車の奥から、丁寧に布に包まれた小さな包みを取り出した。
「王様から預かってきた。『ジェクスがそこにいるなら、これを渡してくれ』ってな」
包みを開くと、鈍く光る石が現れた。ジェクスは、それを見て息を呑んだ。
「――これは」
「反射の魔石だよ。……国宝級のもんじゃねえか、これ」ドルガンが、目を丸くしながら言う。「王様、お前によっぽど期待してるみたいだな」
「使う許可も、頂いてるんですか」
「そこまでは聞いてねえが……くれてやる、って態度だったぞ、あの様子は」
その石を手にした瞬間、想定録の棚が、猛烈な速さで回転を始めた。
(――反射の魔石。これを、片方の剣に――)
頭の中で、断片的な記憶が、次々と繋がっていく。
(――待てよ。反射と、毒。あの蠍の毒針、防御を貫通するほどの威力だった。反射の性質と組み合わせれば、相手の攻撃を弾き返すだけじゃなく、弾き返した先に毒まで乗せられるんじゃないか)
さらに、もう一つの繋がりが像を結ぶ。
(――反射と、炎。こっちは、俺自身が使い慣れてる属性だ。片方は毒を乗せた反射剣、もう片方は炎を纏わせた攻撃剣――役割が、綺麗に分かれる)
「――あった」
ジェクスは、思わず声を漏らした。
「――ん? 何がだ」ドルガンが、怪訝な顔をする。
「――そういえば、まだ持ってました。ダンジョンで倒した蠍の毒針」
ジェクスは、懐から布に包んだ毒針を取り出した。反射の魔石と、毒針。二つの素材が、頭の中で完全に一つの形へと結晶していく。
「取っておいて、本当に正解でした」
ジェクスは、二刀流の構想を、簡単にドルガンとドルファン、そして鍛冶師に説明した。三人は、しばらく顔を見合わせた後、揃って笑った。
「――面白い」鍛冶師が、目を輝かせた。「二本セットで、片方が観察用、片方が攻撃用、ってわけか。だったら、重心のバランスも合わせなきゃならねえな」
「――それと、もう一つ思いついたぞ」鍛冶師が、毒針を手に取り、しげしげと眺めた。「この毒針の構造、応用できそうだ」
「――どういうことですか」
「毒針ってのは、体内で圧縮した毒を、一気に飛ばして刺す仕組みだ。……剣にも、同じ理屈を仕込めねえかと思ってな。斬るのは当然として、切っ先から魔力を凝縮して飛ばす機構を組み込めば、斬るだけじゃなく、飛び道具としても使える」
「――剣なのに、飛ばせる、ってことですか」
「そうだ。間合いの外から、一撃入れられるようになる。……お前の戦い方なら、悪くない選択肢だろう」
ジェクスの脳裏に、また一つ、想定録の項目が浮かんだ。
(――炎の方の剣にも、同じ機構を仕込めば、得意な炎球をそのまま飛ばせる)
「――名前、つけてもいいですか」
「――は? 名前?」ドルガンが、怪訝な顔をする。
「炎の方は、トルメントゥム・イグニス。……業炎、という意味です」
鍛冶師が、噴き出すように笑った。
「――大層な名前だな、おい。だが、悪くねえ」
「――俺は、波長の通りやすさを調整する」ドルファンが続けた。
「じゃあ俺は、素材の下ごしらえだ」ドルガンが、腕まくりをする。
三人の職人が、それぞれの持ち場で動き出した。ジェクスは、その様子を、少し呆気に取られながら見つめていた。
(――こんな形で、揃うとはな)
三日後、完成した二振りの剣が、ジェクスの前に並べられた。一本目とほぼ同じ形状、だが確かに、二本として使うことを前提に調整された、絶妙なバランスを持つ剣だった。
「――試してみろ」
鍛冶師の言葉に、ジェクスは両手に剣を構えた。合宿地に灯る夕陽の中、二振りの刃に、静かに炎を纏わせる。
(――やっと、揃った)
想定録の棚に、長らく空白のままだった項目が、静かに満たされていくのを、ジェクスは感じていた。
「――お前、その顔、ガキみてえだぞ」カイドが、からかうように言った。
「――うるさい」
夕暮れの稽古場に、二人の笑い声が、静かに響いていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ドワーフの双子と鍛冶師の来訪、そして王様から届いた反射の魔石——ジェクスの中で、いくつもの発想が一気に繋がっていく回でした。二振り一組の剣、それぞれの役割、そして飛び道具としての新機構。積み重ねてきた素材と経験が、一つの形になっていく過程を楽しんでいただけたら嬉しいです。
次話もお楽しみに。




