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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX


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第65話 思わぬ報告

模擬戦の夜、ジェクスに新たな着想が生まれます。そして、思わぬ報告が届きます。


その夜、ジェクスは一人、今日の攻防を頭の中で何度も反芻していた。


(――カイドの抜刀、崩れた体勢からでも、あそこまで精度が上がってたのか)


想定録の棚を辿りながら、自分自身の動きも見直していく。飛行を活かした変則的な立ち回り――悪くはなかった。だが、決定打には至らなかった。


(――何が、足りなかった)


ふと、飛行の際にいつも展開している、あの薄い炎の膜のことを思い出した。空気抵抗を減らし、飛来物を焼き払うためだけに使ってきた、あの膜だ。


(――待てよ。あれ、拳だけに纏わせてるのは、もったいなくないか)


その発想が、頭の中で像を結び始める。全身を覆うあの炎の膜を、もっと能動的に使えないか。膜の一部を、任意の方向へ噴射させれば、360度どこからでも推進力を補正できるはずだ。前だけでなく、横からでも、下からでも――姿勢を保ったまま、瞬時に軌道を変えられる。


(――上手くいけば、消えたように見えるかもしれない。……相手の実力次第じゃ、瞬間移動したように映ることも、あるかもな)


想定録の棚に、ふと以前の記憶が浮かんだ。No.088――旧市街での一件、あの黒幕から石を守った時に使った、視線誘導の技法。


(――速さだけじゃなく、あれを組み合わせれば、より確実に"消えた"と錯覚させられる)


相手の注意を一点に逸らしておいて、その隙に炎の噴射で軌道を変える。単純な速度勝負ではなく、ミスディレクションを土台にした動き――そうすれば、たとえ相手がある程度の実力者だったとしても、視認そのものを狂わせられるはずだった。


(――よし。明日から、これも仕込もう)


想定録の棚に、新しい項目が一つ、静かに刻まれた。まだ形にすらなっていない発想だったが、そこに至る道筋だけは、はっきりと見えていた。


翌日から、ジェクスの日課に、また一つ新しい鍛錬が加わることになった。


(――先導隊は、今、何と戦ってるんだろうな)


その考えが頭をよぎった、その矢先だった。


「――オルグレン様!」


伝令の騎士が、血相を変えて駆け込んできた。手にした報告書を握りしめる手が、小刻みに震えている。


「――どうした」


「先導隊から、緊急の報告です。……戦闘の末、負傷者多数。中には……」


伝令は、そこで一度、言葉を詰まらせた。


「――中には、命を落とした者も」


稽古場の空気が、一瞬にして凍りついた。


「――誰だ」ジェクスは、思わず声を荒げていた。


「――詳細は、まだ。報告書には、それだけしか」


オルグレンが、伝令の手から報告書を奪うように受け取った。目を通すその表情が、みるみる険しくなっていく。


「――くそ……」


低く漏れた呻き声だけが、答えの重さを物語っていた。


ジェクスは、想定録の棚に浮かぶ、あの十人の顔を思い返した。ガレス、アクセル、ロルフ、ダグラス、ネリア、フィン、シグルド、アイラ、ケイン――誰の顔も、まだ最後に見た時のまま、脳裏に焼き付いている。


(――誰が)


その問いに、まだ誰も、答えを持っていなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

全身の炎の膜を使った360度の推進技、そして以前使ったミスディレクションとの組み合わせ——ジェクスの成長がまた一歩進みました。ですが、その先に待っていたのは、先導隊からの不穏な報告でした。

「誰が」——その答えは、まだ誰も知りません。次話でその真相に迫っていきます。

感想・評価いただけると励みになります。次話もお楽しみに。

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