第63話 報告
今回は視点を変えて、闇ギルド側の動きをお届けします。
夜空高く、姿を隠したまま、ゼインはその一部始終を見ていた。
眼下で繰り広げられる戦い――四天王の一体、ヴェナトルと、あの男との死闘。
(――また、強くなったな)
炎を纏った二本の剣、空を舞う身のこなし。以前見た時よりも、明らかに研ぎ澄まされている。
「――いいねえ、その目」
誰に聞かせるでもなく、ゼインは口の端を吊り上げた。にやつきながら、独り言のように呟く。
「もっと磨け。もっと輝け。……その分だけ、壊し甲斐がある」
やがて、ヴェナトルの体が、赤黒い光の粒子となって崩れ落ちていくのを、ゼインは最後まで見届けた。
「――ふうん。四天王が、あっさりねえ」
その死を確認すると、ゼインは興味を失ったように視線を外し、闇に紛れて飛び去っていった。
***
――遠く離れた廃墟の奥、闇ギルドの本拠地。
玉座めいた椅子に腰掛けた男の前に、片膝をついたゼインの姿があった。
「――報告します。メンブラ・レギスの一体、ヴェナトルが、討伐されました。この目で、しかと見届けてきました」
沈黙が落ちた。玉座の男――レトゥスは、しばらく何も言わなかった。
「――ちっ」
やがて、喉の奥から、低い舌打ちが漏れた。
「あの野郎、競売場の時は偉そうに命令してきやがったのによ。……蓋を開けりゃ、雑魚だったってわけか」
レトゥスは、鼻で笑いながら、玉座の肘掛けに頬杖をついた。
「――四天王とやら、ずいぶんと大層な看板だったが、案外あっさり死ぬもんだな」
「――いかがなさいますか」ゼインが、恐れる素振りも見せずに尋ねた。
「どうもこうもねえよ。……そろそろ、直接顔を出す頃合いだ」
レトゥスは、ゆっくりと立ち上がった。
「魔王の下に、行ってくる。四天王が減ったとなりゃ、向こうも次の一手を考えてるはずだ。……このまま俺たちだけで動いてても、埒が明かねえ」
「――お一人で、ですか」
「一人で十分だ。それに」
レトゥスは、口の端を歪めて笑った。
「――そろそろ、俺たちの動きも、次の段階に進める時期だろう。もたもたしてる暇はねえ」
レトゥスは、部屋を出ようとする直前、ふと足を止めた。
「――ゼイン。俺が戻るまでに、クインクェ・ウンブラエ(五人の影)を集めておけ」
「――畏まりました」
ゼインが頭を下げ、部屋を後にする。その表情には、まだ隠しきれない愉悦が滲んでいた。
「――あいつらを呼ぶか」
廊下を歩きながら、ゼインは一人、口の端を吊り上げた。
「クインクェ・ウンブラエ――五人の影、ねえ。癖強いんだよなあ、あいつら」
くつくつと笑いながら、脳裏に、五人の顔が浮かんでは消えていく。
――巨躯を誇る力自慢のモルド。台詞らしい台詞を口にしたことがなく、いつも拳を鳴らして返事の代わりにする男。
――毒を得意とするリーザ。笑った顔を見た者は、ギルド内でも数えるほどしかいないと噂される、感情の読めない女。
――戦利品集めが趣味のバゼル。討伐した相手の牙や骨を後生大事に飾り立て、誰彼構わずその由来を語りたがる、軽薄な饒舌家。
――気配を殺すことに長けたクロウ。声を発したところを見た者がいないほど、常に無表情で影のように動く男。
――芝居がかった物言いを崩さないダリア。派手な立ち回りを好み、戦いすらも観客に見せる舞台だと信じて疑わない女。
(――まったく、揃いも揃って、まともな奴が一人もいねえ)
だが、それでいい。まともな人間に、闇ギルドの幹部などという役目は務まらない。
ゼインは、笑みを浮かべたまま、五人を呼び集めるための足取りを速めた。
一人残った玉座の間で、レトゥスは、窓の外に広がる夜空を見上げた。
「――さて。魔王は、何を仰るかね」
その呟きは、誰にも届かないまま、静かに闇に溶けていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ゼインの執着、レトゥスの冷徹な反応、そして「クインクェ・ウンブラエ(五人の影)」という新たな脅威——物語の裏側で、着実に何かが動き始めています。
次話もお楽しみに。




