第53話 己を知れ
モレスタス討伐から一月ほど経ち、選抜メンバーによる合宿編がスタートします。他国から集まった顔ぶれとの出会いをお届けします。
朝の集合時、ガレスが今回の合宿に加わった他国の面々を、簡単に紹介した。
「――グランヴェル帝国から、ロルフとダグラス」
重装の鎧を纏った、岩のように厳つい男が、軽く会釈した。大盾と長槍を担ぎ、動きは重厚だが隙がない。帝国軍の副団長を務めているという。グランヴェル帝国といえば、大陸屈指の軍事力を誇る帝国主義国家だ。国土のほとんどが要塞化されているという噂も、あながち大げさではないのだろう。
その隣で、身の軽そうな若い男が、気だるげに片手を上げた。ダグラス、斥候上がりの戦士らしい。ロルフの重厚さとは対照的に、常に体の重心が揺れているような、捉えどころのない立ち姿だった。
「――アストリア魔導国から、ネリアとフィン」
小柄な女性が、分厚い魔導書を抱えたまま、興味深そうにあたりを見渡していた。魔導研究院の上級研究員で、柔らかい物腰の奥に、研究者らしい理知的な鋭さを感じさせる。アストリアは、魔法研究において他国の追随を許さない学術国家として知られている。
その傍らには、まだ年若い男が、落ち着かない様子で足を踏み替えていた。フィン、実戦経験を積むために選ばれた見習い魔導士だという。ネリアの静かな佇まいとは違い、直情的な気配を隠せていなかった。
「――ノルド神聖王国から、シグルドとアイラ」
金髪を短く刈り込んだ、光属性の神官戦士。腰の剣と、胸に下げた聖印が、彼の出自を物語っていた。神殿騎士団の副団長を兼ねているらしい。ノルドは、大陸で唯一、国教として光の女神を掲げる神聖国家だ。
その隣に立つ女性は、姿勢よく、一分の隙もない佇まいをしていた。アイラ、生真面目を絵に描いたような聖騎士で、シグルドとは対照的に、規律を何より重んじるタイプに見えた。
「――そして、バスティアから、参謀のケイン」
痩身の男が、静かに一礼した。バスティアは、五大国には数えられないものの、魔族・魔神との最前線に位置する軍事国家だ。常に戦力を前線に張り付けている都合上、今回は戦える人材ではなく、知略で貢献できる参謀が派遣されたという。
「――残る一国、セレスティアからは今回参加者なしだ。海洋国家特有の水属性は、この合宿の課題にはあまり噛み合わねえらしい」
一同は、それぞれ軽く自己紹介を済ませると、集められた面々の中に混じっていった。
「――随分、国際色豊かだな」カイドが小声で呟く。
「メンブラ・レギス(四天王)相手だ、一国だけで抱え込む話じゃない、ってことだろ」
「――まあ、今じゃトリア・メンブラ・レギス(三天王)だけどな」カイドが、ニヤリと笑いながら付け加えた。「一体は、もう片付けたんだ」
「――減らず口叩いてる暇があるか。集中しろ」
離れた場所から、ガレスの鋭い声が飛んできた。カイドは、慌てて姿勢を正した。
「――まずは、俺らが手本を見せてやる」
ガレスが、集められた面々を見渡しながら言った。
「――シグルド、付き合え」
「――ええ……面倒くせえなあ」
シグルドが、被った兜の下から、気だるげな声を漏らした。だが、剣を手に取る動作には、一切の無駄がなかった。
「――言っとくが、手加減はしねえぞ」ガレスが構える。
「望むところじゃねえよ、正直……ま、いいか」
開始の合図とともに、シグルドの姿が、まるで別人のように鋭くなった。眠たげだった目つきが、一瞬で研ぎ澄まされる。聖剣術特有の光を纏った一撃が、ガレスの剣と鋭く打ち合った。
「――おお」見ていたロルフが、小さく声を漏らした。
「――あの人、本気になるとああなるのか」ダグラスが、目を丸くする。
二人の攻防は、瞬く間に加速していった。ガレスの速度に、シグルドが回復の光を纏わせた剣で応じ、互角とも言える斬り合いが続く。
「――さすがはダブルクロスと、神殿騎士団の副団長だな」ネリアが、興味深そうに魔導書のページをめくりながら呟いた。
「――でも、回復の光って、そもそも相手を倒せるのか?」フィンが、腕を組みながら首を傾げた。
「――見てりゃ分かる」ダグラスが、目を細めて戦いを見つめたまま答えた。「あの人の斬撃、当たった瞬間だけ、光の質が変わってる。癒しとは真逆の使い方をしてるんだよ」
数十合の応酬の末、ガレスの剣が、シグルドの喉元でぴたりと止まった。
「――そこまで」
「――ちっ、負けたか」
シグルドは、剣を下ろすと、また気だるげな様子に戻り、兜を目深に被り直した。
「――今の攻防、見てただろう」ガレスが、集められた面々に向き直った。「読み合い、速度、そして"読まれた先"への対応――今日の模擬戦で、お前らに求めるのは、これだ」
その言葉に、一同の表情が引き締まった。
模擬戦形式の実力診断は、朝から晩まで続いた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
グランヴェル帝国・アストリア魔導国・ノルド神聖王国、そして軍事国家バスティアから集まった面々——それぞれの国柄が伝わっていれば嬉しいです。カイドの軽口とガレスの一喝、この温度感もこれから大事にしていきたいところです。
次話では、いよいよ模擬戦本番。ジェクスとガレスの一戦をじっくりお届けします。
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