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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX


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第50話 ダブルクロス

前話の続き、いよいよ本格的な戦闘の回になります。よろしければ最後までお付き合いください。


「――積み重ねてきたのは、俺たちも同じだ」


ジェクスの一言を合図に、十人は同時に地を蹴った。


モレスタスの棍棒が、唸りを上げて振り下ろされる。ドムが盾でそれを受け止めた瞬間、衝撃で体ごと吹き飛ばされた。


「――くっ!」


「無理に受けるな! 捌け!」カイドが叫ぶ。


アリシャの剣が側面から斬りかかるが、モレスタスの姿が、空間ごと歪むようにして消えた。


「――!?」


背後に現れたモレスタスの拳が、アリシャの脇腹を捉える。


「――アリシャさん!」


ジェクスが割って入るが、既にモレスタスの姿は、また別の場所へ移っていた。


「――空間移動、しかも部分的にも使えるのか」ジェクスは奥歯を噛みしめた。全身が消えるのではなく、拳だけ、腕だけを瞬時に移動させる――回避も予測も、通常の理屈では追いつかない。


ジオが槍を突き出すが、届く寸前で空間ごと逸らされ、空を切る。リナの矢は、放った瞬間に軌道を歪められ、明後日の方向へ吸い込まれるように消えた。


「――当たらねえ!」ドムが吼える。


アクセルが、右手の刃に炎を、左手の刃に風を、それぞれ纏わせる。二色の魔力が、刃の上でちらちらと揺れた。


「――合わせろ」


右の炎刃と左の風刃を交差させるように振り抜くと、二つの魔力が重なり合い、燃え盛る旋風となって放たれる。だが、刃が届く瞬間、モレスタスの体の一部だけが数メートル先へ移動し、空振りに終わる。反動で体勢を崩したアクセルの脇腹に、棍棒の一撃が突き刺さった。


「――ぐぅっ!」


「――アクセルさん!」魔法使いの部下が悲鳴じみた声を上げる。


カイドが咄嗟に割って入り、剣で追撃を受け止めるが、たった一撃で骨まで軋むような重さが伝わってきた。


「――これが、SS級すら届かない相手ってやつか」カイドが歯を食いしばる。


ジェクスも、炎を纏わせた一撃を叩き込むが、モレスタスの分厚い皮膚には、浅い火傷を残す程度にしかならなかった。


「――くくく。どうした、積み重ねてきたんじゃなかったのか」


モレスタスが、心底愉快そうに笑う。棍棒の一振りが、防御に回ったジオごと壁際まで薙ぎ払った。


十人がかりで挑んでいるはずなのに、まるで一人を大勢で嬲っているような、そんな錯覚すら覚える一方的な展開だった。傷は増える一方で、決定打は一つも与えられていない。


(――積み重ねが、通用しない)


三十三年分の想定録を、どれだけ辿っても、この差を埋める答えは出てこなかった。それでも、諦めるという選択肢だけは、ジェクスの中に存在しなかった。


「――まだだ」


血の滲む拳を握り直し、ジェクスは再び地を蹴った。だが、その一撃もまた、あっさりと弾かれる。


「――そろそろ飽きてきたな」


モレスタスが、棍棒を大きく振りかぶった、その時だった。


「――そこまでだ」


低く、よく通る声が、広間に響いた。


天井近く、割れた岩の隙間から、一人の男が舞い降りてきた。屈強な体躯、白髪交じりの短髪、腰に提げた二振りの剣。その姿を見た瞬間、アリシャが息を呑んだ。


「――ダブルクロスの、ガレス様!?」


「王都から、お前らの反応を追ってきた。……派手にやられてるじゃねえか」


モレスタスが、興味深そうにガレスを見やった。


「――ほう。ダブルクロスか。少しは楽しめそうだ」


「――厄介な野郎だ」ガレスが、額の汗を拭いながら舌打ちした。「本来なら、こいつを相手にするにはダブルクロスが三人は要る。……生憎、俺一人しか来られなかった。そっちの力も貸してもらうぞ」


「望むところです」ジェクスが即座に応じた。「――皆さんも、隙を作る役に回ってください」


「――油断だけはするな」ガレスが低く言い残し、地を蹴った。


ガレスの二振りの剣が、モレスタスへ襲いかかる。だが、一人がかりでは、モレスタスの余裕を崩しきれなかった。


「――くっ、思ったよりやるな!」


「一人じゃ、足りねえってか」


モレスタスの棍棒が、ガレスの剣を弾き返す。それでも、ガレスの猛攻は止まらなかった。


十人と一人のダブルクロスが、それぞれの持ち場で攻め続ける中、モレスタスの意識は、次第にガレス一人へと集中し始めていた。


(――今だ)


その隙を、ジェクスは見逃さなかった。


「――カイド、行けます!」


「分かってる!」


カイドが、鞘に魔力を溜め、静かに構えを落とす。ガレスとの攻防に気を取られたモレスタスの死角へ、音もなく間合いを詰めた。


だが、その瞬間、モレスタスの手のひらに、禍々しい漆黒の光が渦を巻いた。


「――邪魔だ」


放たれた暗黒の奔流が、カイドへ真っ直ぐに迫る。


「――させるか!」


ジェクスは、迷わずその間に割って入った。想定録の棚に、鮮明な記憶が蘇る。11話、あの街の黒幕が放った、同じ質の暗黒魔法。あの日、反射の魔石で受け止めたその波長を、ジェクスは今も鮮明に覚えていた。


(――この波長、知ってる)


魔眼が捉えた軌道は、迷う間もなく解析を終えていた。観察はもう、一度で十分だった。


剣先に、逆位相の魔力を纏わせる。放たれた暗黒の奔流を、真正面から迎え撃った。


「――なっ!?」


反射された魔力が、増幅されたようにモレスタスへと跳ね返っていく。直撃を受けた巨躯が、大きくよろめいた。


「――今だ!」


その隙を、カイドが見逃さなかった。抜刀。一閃。


「――ぐ、う……!」


モレスタスの脚が、次元ごと断ち切られ、崩れ落ちる。


「――今だ、畳みかけろ!」ガレスが叫ぶ。


その号令に、十人と一人のダブルクロスが、一斉に動いた。アクセルが再び右手に炎、左手に風を纏わせ、交差する二刀の合わせ技を開いた胴へ突き立てる。燃え盛る旋風が、傷口を焼き切るように抉った。アリシャの剣がとどめとばかりに首筋を斬り裂く。


「――ば、かな……油断、したわけでは……」


モレスタスの体が、赤黒い光の粒子となって、崩れるように消えていった。後には、握り拳ほどの大きさの黒い魔石だけが、静かに転がっていた。


「――これも、持ち帰りましょう」


ジェクスは、それを慎重に布で包み、懐にしまった。四天王の魔石が、どんな価値を持つのか――今はまだ、想像もつかなかった。


静寂が戻った広間で、誰もがしばらく、その場に立ち尽くしていた。


「――終わった、のか」カイドが、剣を鞘に収めながら呟く。


「危ないところだったぜ」ガレスが、剣についた血を払いながら笑った。「お前らが隙を作ってくれなけりゃ、俺一人じゃ、もう少しかかってたな」


「――助かりました」ジェクスが頭を下げる。


「礼はいらん。それより――」ガレスの目が、鋭さを帯びた。「四天王の一体だ、今の。この程度で終わる話じゃないぞ」


その言葉に、十人は、あらためて表情を引き締めた。


想定録の棚に、また新しい項目が刻まれていく。だが、埋まったと同時に、また新しい空白が生まれていた。三十三年分の積み重ねの先に、まだ見ぬ道が続いていた。


***


数日後、回収された魔石は、王都の研究施設へと持ち込まれた。四天王の魔石という前例のない代物を前に、王都の研究者たちだけでは手に負えず、各地から専門家がかき集められることになった。


その中には、あのライアスの姿もあった。


「――え、俺も呼ばれるんですか」


急な召集に戸惑いながらも、その目は、隠しきれない興奮に輝いていた。


「魔石の権威として推薦しといた」ガルドナーが、素っ気なく言う。「せいぜい役に立て」


「役に立つも何も……こんな貴重な検体、一生に一度あるかないかですよ!」


ライアスは、研究施設に運び込まれた黒い魔石を前に、震える手でノートを取り始めていた。四天王の力の全容が、この解析からどこまで明らかになるのか――それはまだ、誰にも分からなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

これまで積み重ねてきた仲間たちの力が、ここで一つに合わさる展開になりました。厳しい戦いでしたが、皆さんに楽しんでいただけていたら嬉しいです。

次話もお楽しみに。

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