第48話 ダンジョンボス
分断されていたカイド組、アクセル組、そしてジェクス&アリシャ組が、ついに合流します。よろしければ最後までお付き合いください。
石の番兵を退けた後も、カイド組の道のりは平坦ではなかった。
通路を進むたび、蔦のように絡みつく触手を持つ植物型の魔物や、宙を漂う目玉だけの群れが、次々と行く手を阻んだ。
「――キリがねえな」ドムが盾で触手を受け止めながら唸る。
「文句言うな。まだ立ってられるだけマシだ」
カイドの居合斬りは、既に一度使ってしまっている。今日はもう使えない。だからこそ、四人は連携だけで、一体ずつ着実に数を減らしていった。だが、確実に消耗は蓄積していた。リナの矢筒は残り僅かで、ジオの槍を持つ手も、心なしか震えている。
「――ここを抜ければ、少しは休めるといいんだが」
そう言いながら進んだ先、通路が急に開けた。
***
同じ頃、別の階層では、アクセル組もまた、似たような消耗戦を強いられていた。
白骨の剣士の後、待っていたのは、鎧だけが独りでに動く甲冑の群れと、壁を這い回る巨大な蜘蛛の集団だった。
「――守りながら戦うのは、性に合わねえな」
アクセルが息を切らしながら、剣を振るう。単身なら数の多さも苦にならない。だが、経験の浅い三人を庇いながらとなると、勝手が違った。三人の部下も、慣れない戦いに疲労の色を隠せずにいた。
「アクセルさん、魔力が」魔法使いの女が、掠れた声で言った。
「あと少しの辛抱だ。……この先、何かありそうな気配がする」
四人は、傷を庇いながらも足を止めなかった。
***
カイド組が開けた通路の先に見たのは、これまでのどの空間よりも巨大な、ドーム状の広間だった。天井は遥か高く、壁一面に刻まれた紋様が、淡く発光している。
「――でかいな、ここ」カイドが見上げながら呟いた。
その時、広間の反対側からも、複数の足音が響いてきた。
「――カイドさん?」
聞き覚えのある声に、カイドが振り返る。傷だらけながらも、しっかりとした足取りで現れたのは、アクセルと三人の部下だった。
「――アクセル! 無事だったか」
「そっちこそ、な。……随分、消耗してるみたいだが」
「お互い様だろ」
互いの無事を確認し合う中、広間のさらに奥、ひときわ大きな扉の前に、見覚えのある二つの人影があった。
「――ジェクス! アリシャさん!」
カイドの声に、二人が振り返った。
「――全員、無事だったんですね」ジェクスが、安堵の表情を浮かべた。
「危なかったが、何とかな」
「同じく」アクセルが肩をすくめる。
十人が一堂に会したドームの中央、床に刻まれた紋様が、ひときわ強い光を放ち始めていた。
「――この先が、本命ってことね」アリシャが、扉を見据えながら言った。
「全員揃ったのは、心強いです」
ジェクスは、想定録の棚に浮かぶ、これまでの積み重ねを一つずつ思い返した。三十三年分の想定と、この世界で得た仲間たち――そのどちらもが、今この瞬間のために積み上がってきた気がした。
「――行きましょう」
十人は、巨大な扉へと向き直った。重い扉に手をかけ、力を込めて押し開ける。
軋んだ音とともに、扉の奥から、生ぬるい風が吹き抜けてきた。
その先に広がっていたのは、これまでのどの空間よりも広い、円形の間だった。天井は見上げても届かないほど高く、壁には無数の紋様が渦を巻くように刻まれている。
その中央、玉座のような岩の塊に、それは腰掛けていた。
三メートルはあろうかという巨躯。黒く艶やかな肌、坊主に刈り込まれた頭。上半身は逞しい筋肉に覆われ、下半身にはゆったりとした布が巻かれている――どこか、御伽噺に出てくる魔神の姿を思わせる出で立ちだった。傍らには、大人の背丈ほどもある棍棒が、無造作に立てかけられている。
赤黒い両目が、ゆっくりと開いた。
その視線が、十人の上を、ゆっくりと這うように動いていく。
誰も、声を上げられなかった。剣を構えることすら忘れ、その場に立ち尽くすだけだった。
(――これが)
ジェクスは、乾いた喉の奥で、辛うじてその一言だけを飲み込んだ。
想定録の棚は、完全な沈黙を返すばかりだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
10人全員が合流し、いよいよ大きな扉の奥へ——そこで待っていたものは、これまでのどの敵とも格の違う存在でした。
次話から、いよいよ本格的な戦いが始まります。感想・評価いただけると励みになります。次話もお楽しみに。




