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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX


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第46話 重なる剣(こころ)

前話に続き、蠍との戦いの後半戦をお届けします。ジェクスがふと思い出す、過去の稽古の記憶にもご注目ください。


蠍が地を蹴り、突進してきた。


「――右!」


アリシャの声と同時に、右手側の尻尾が振り下ろされる。ジェクスは体をひねって躱したが、次の瞬間、左手側の尻尾が別の軌道で襲いかかってきた。


(――そうか。二本が、それぞれ独立して考えてる)


一本の意識を躱せば、もう一本が隙を突いてくる。単純な物量ではなく、明確な連携だった。


その動きに、ジェクスの脳裏に、ふと洞窟での稽古の記憶がよぎった。


――以前、ガルドナーが直々に稽古をつけてくれた日のことだ。フィーレの魔法を剣で弾きながら、同時にガルドナーが得物を手に繰り出す一撃を躱す。二つの異なる脅威に、同時に対応する訓練。あの頃は、意識が二つに引き裂かれるようで、何度も体勢を崩した。


「――重心を、真ん中に置いたままにしろ。躱すことと、返すことを、別々の作業だと思うな」


ガルドナーの声が、記憶の中で蘇る。あの稽古がなければ、今この瞬間、確実に隙を晒していた。


(――二本の尻尾も、結局は同じことだ)


ジェクスは重心を崩さないまま、右の尻尾の軌道だけを見切って躱した。同時に、左の尻尾が振り下ろされる寸前、剣先に炎を纏わせ、迎え撃つように打ち返す。


――弾いた。


「――やるじゃない」


アリシャが、反対側から蠍の脚を斬りつけながら声を上げた。硬い外骨格に、浅い傷が走る。


「まだ、噛み合わせただけです」


蠍が怯んだ隙に、二人は同時に間合いを詰めた。だが、外骨格の硬さは、見た目通り生半可な一撃では貫けない。


「――アリシャさん、脚の付け根、関節の隙間を」


「分かってる」


アリシャの剣が、関節の継ぎ目を正確に突く。同時に、ジェクスは残る一本の尻尾を、ガルドナーに教わった呼吸そのままに、体を割らずに捌き続けた。


(――躱すことと、返すことを、別々の作業だと思うな)


その一言が、今になって、体の芯に深く染み込んでいるのが分かった。


蠍の動きが、徐々に精彩を欠き始める。二本の尻尾の連携が崩れ、片方の動きが遅れ始めた瞬間、ジェクスは踏み込んだ。


だが、崩れた隙を突かれまいとしてか、蠍は最後の抵抗とばかりに、双方の尻尾の先端に紫色の魔力を収束させ始めた。


膨れ上がった魔力の塊は、尻尾自体と同じ、毒々しい紫色に染まっていた。


「――来ます。あの尻尾と同じ色――毒属性の魔法です」


「――厄介ね」


膨れ上がった魔力の塊が、二筋の紫色の奔流となって放たれる。直撃すれば、ただでは済まない毒性が、肌を刺すように伝わってきた。


ジェクスは、その軌道と波長を、瞬時に見切った。以前フィーレから教わった、同属性をぶつけて相殺する理屈――だが、今は同属性の魔力を用意する時間がない。ならば、これまで積み重ねてきたやり方で応じるまでだ。


剣先に炎を纏わせ、迫る毒の奔流を正面から迎え撃つ。炎と毒がぶつかり合った瞬間、紫色の奔流が、じゅわりと音を立てて蒸発していった。


「――溶けた?」アリシャが目を見開く。


「炎で、毒素そのものを分解しただけです。跳ね返した、というより」


説明している暇はなかった。魔力を使い果たし、明らかに動きの鈍った蠍へ、ジェクスは踏み込んだ。


「――ここだ」


炎を纏わせた一撃が、外骨格の継ぎ目に深々と突き刺さる。悲鳴のような甲高い音とともに、蠍の巨体が大きく仰け反った。


「――畳みかけるわよ」


アリシャの剣が、もう一方の急所を捉える。二人の連携が、初めて完全に噛み合った瞬間だった。


蠍が、地響きを立てて崩れ落ちた。


静寂が戻った祭壇の間で、ジェクスは剣を鞘に収めながら、小さく息を吐いた。


「――ガルドナーさんの稽古、こんな形で役に立つとは思いませんでした」


「――誰から教わったにせよ、今のはあなた自身の力よ」


アリシャの言葉に、ジェクスは小さく頷いた。三十三年分の積み重ねと、この世界で教わったものが、また一つ、確かな形で繋がった気がした。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

積み重ねてきたものが、思わぬ形で今に繋がる回でした。アリシャとの連携も、少しずつ噛み合ってきています。

次話もお楽しみに。

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