第43話 ダンジョン攻略
魔法陣によって分断されたジェクスとアリシャ。二人が辿り着いた先は、ただの渓谷ではありませんでした。今回は、未知の場所へ踏み込む緊張感をお届けします。
渓谷の壁を見上げながら、ジェクスは違和感の正体に、ようやく気づき始めていた。
「――これ、自然にできた地形じゃない」
切り立った岩壁には、規則的な模様が刻まれている。風化した跡もなく、まるで昨日削られたばかりのように鋭利だった。
「同感。魔法陣で運ばれた先が、たまたま普通の渓谷ってことはないでしょうね」
アリシャが、警戒を解かないまま辺りを見渡した。
二人は慎重に足を進めた。渓谷は緩やかに下り坂になっており、進むほどに、岩壁の模様がより密になっていく。やがて開けた場所に出ると、そこには、朽ちかけた石造りの門があった。
門の奥には、地下へと続く階段。壁の松明が、誰が灯したのかも分からないまま、青白い炎で揺れていた。
「――ダンジョン、か」
ジェクスの呟きに、アリシャが頷いた。
「本来なら、資源を求めて冒険者が競って潜るような場所のはずだけど……この造り、様子が違う」
「普通のダンジョンとは、何かが違うんですね」
「ええ。宝を求めて命を懸けるには相応しい場所のはずが、ここには、誰かの意図が透けて見える。……この裏に、魔神たちの企みがあるなら、迂闊には進めない」
階段を下りながら、ジェクスは想定録の棚を辿った。だが、この場所そのものに関する情報は、当然何もない。あるのは、これまで積み重ねてきた戦い方と、観察と分析の技術だけだった。
(――それでいい。積み重ねてきたのは、こういう時のためだ)
階段を下りきると、そこは広い石造りの回廊だった。等間隔に並ぶ扉、床に刻まれた紋様――明らかに、意図を持って設計された空間だった。
だが、それだけではない何かも感じた。壁に触れると、石のはずなのに、微かに脈打つような感触がある。
「――気のせいでしょうか。この壁、なんだか」
「――生きてる、みたいに感じる?」
アリシャの一言に、ジェクスは頷いた。気のせいで片付けるには、あまりに生々しい感触だった。
「――カイドたちも、同じような場所に飛ばされたと思いますか」
「可能性は高いわね。魔法陣が無作為に組を分けたなら、似た構造の別の階層に落とされていても、おかしくない」
「合流する手段は」
「今のところ、見当たらない。まずは、この場所がどういう施設なのか、見極めましょう」
アリシャは剣を構え直し、先頭を歩き出した。ジェクスもその後に続く。
回廊の先、最初の扉に差し掛かったところで、床の紋様が、ぼんやりと光り始めた。
「――来る!」
アリシャの声と同時に、扉の奥から、複数の気配が滲み出てきた。
姿を現したのは、人型のシルエットをした、黒い靄のような存在だった。目も口もない、のっぺりとした顔の輪郭だけが、こちらを向いている。
「――何なんですか、これ」
「分からない。だけど」アリシャが剣を構えた。「魔族でも、魔物でもない。……多分、ここを守るために作られた、番人のようなもの」
黒い靄の群れが、一斉に動き出した。
「――来ます」
ジェクスは剣を抜き、迫る影の群れに向き直った。想定録に該当する項目がない相手。だが、それも、今更驚くほどのことではなかった。
「――積み重ねてきたものを、試す時ですね」
「頼りにしてる」
隣に並んだアリシャの声に、ジェクスは小さく頷いた。二人は、迫りくる黒い影の群れへ、同時に踏み込んだ。
石造りの回廊に、剣戟の音が響き始めた。魔神たちが作りしダンジョン――その最初の試練が、今、始まろうとしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
本来、ダンジョンは資源を求めて冒険者が競って挑む、憧れの場所のはずです。それなのに、この場所には何か違う気配がある——そんな違和感から始まる回でした。
壁の脈動、正体不明の黒い靄——想定録にも該当項目のない相手との戦いが、ここから始まります。カイドたちの安否も気になるところですが、しばらくはジェクスとアリシャの視点で物語を追っていきます。
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