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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX


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第42話 引き裂く罠

拠点跡に辿り着いたジェクスたち。だが、そこで待っていたのは思わぬ再会と、一瞬の緊張、そして仕掛けられていた罠でした。


山の奥深くへ進むほどに、あの禍々しい気配が濃くなっていった。


「――近い」


ジェクスの一言に、カイドとアクセルの表情も引き締まる。


木々の切れ間、切り立った崖の下に、洞窟の入口があった。人工的に削られた形跡のある入口――自然にできたものではない。


「――ここか」


三人は、慎重に足音を殺しながら近づいた。だが、洞窟に一歩入った瞬間、ジェクスは違和感を覚えた。


(――静かすぎる)


想定録の棚を辿るまでもなく、体が先に警戒を発していた。


洞窟の奥は、思ったより広い空間になっていた。壁一面に、あの黒い石と同じ素材で組まれた祭壇の跡。だが、そこにあるはずの石は、跡形もなかった。地面には、何かを急いで運び出したような、引きずった痕が残っている。


「――もぬけの殻、か」アクセルが舌打ちした。


「いや」ジェクスは、地面に膝をつき、痕跡を観察した。「最近まで、確実にここに何かがあった。撤収したのは、恐らくここ数日以内」


「――逃げられた、ってことか」カイドが拳を握る。


その時だった。


洞窟の入口の方から、複数の足音が響いてきた。統率の取れた、訓練された動き。


「――誰か来る!」


三人は反射的に武器を構えた。壁を背に、入口だけに視線を集中させる。足音は、こちらの気配に気づいた様子もなく、真っ直ぐに近づいてきた。


(――数は五、六。統率された動き――敵か)


ジェクスの手が、剣の柄にかかる。カイドも腰を落とし、アクセルは無言のまま両手の柄に指をかけていた。


洞窟の入口に、複数の人影が現れた。


「――!」


先頭の人影が、こちらの姿を認めた瞬間、双方の空気が一気に張り詰めた。剣先が、ほぼ同時に相手へと向けられる。触れれば切れるほどの緊張が、狭い洞窟の中に満ちた。


「――待って」


その静寂を破ったのは、先頭に立つ女性の声だった。声を聞いた瞬間、ジェクスは息を呑んだ。


「――アリシャさん?」


向こうも、こちらに気づいて目を見開いた。剣先が、わずかに下がる。


「――あなたたちは」


数名の部下を引き連れたアリシャが、剣を構えたまま、油断なくこちらを見据えている。あと一歩、どちらかが動けば、そのまま斬り結んでいたかもしれない。そんな空気だった。数えると、部下は六名。統率の取れた動きから、精鋭であることが窺えた。


「王都で少し」ジェクスが手を上げ、敵意がないことを示した。「敵じゃありません。俺たちも、同じ理由でここへ」


アリシャは、しばらくジェクスたちを観察していたが、やがて剣を鞘に収めた。それを見て、部下たちも一斉に構えを解く。


「――失礼した。この辺りで、複数の失踪事件が起きているという報告を受けて、独自に調査していたの」


「俺たちも、同じです」カイドが応じる。「行商人の失踪から、ここに辿り着きました」


「――こちらは、王都からの命令で動いてる。あなたたちは?」


「黒豹ギルドの依頼です」ジェクスが答える。「――それと、こちらは傭兵ギルド、ルベリオスのアクセルさん」


アクセルが軽く手を上げる。アリシャの視線が、一瞬だけアクセルに留まった。


「――ここも、もう空か」アリシャが洞窟の奥を見渡し、小さく息を吐いた。


「はい。撤収した跡が残っています。ここ数日以内かと」


「――こっちの情報と一致する。妙にタイミングがいい撤収ね」


その一言が、洞窟の中に響いた、次の瞬間だった。


地面が、鈍く光った。


「――!?」


足元に、これまで気づかなかった巨大な魔法陣が、赤黒い光を放って浮かび上がる。


「トラップだ、全員離れろ!」ジェクスが叫んだが、遅かった。


光が爆ぜ、視界が真っ白に染まる。体が、まるで見えない手に引きずられるように、四方八方へ引き裂かれていく感覚があった。


「――ジェクス!」


カイドの声が、遠くなっていく。気づけば、ジェクスの視界には、隣で同じように光に呑まれかけているアリシャの姿だけが映っていた。


「――っ!」


光が収束し、次に目を開けた時、そこは見知らぬ石造りの空間だった。周囲に、カイドの姿もアクセルの姿もない。頭上を見上げても、空は見えない。冷たく湿った空気と、微かな黴の匂いだけが漂っていた。


「――アリシャさん、無事ですか」


「――ええ、何とか」


すぐ隣で、アリシャが身を起こす気配がした。二人きり。他の誰の姿も見当たらない。


(――カイドたちは、別の場所に飛ばされたのか)


アリシャの部下は六名。恐らく魔法陣は、その場にいた全員を無作為に三人ずつの組へ振り分けたのだろう――カイドと部下三人、アクセルと残る部下三人、というように。想定録の棚を辿っても、この現象に該当する項目は一つもなかった。だが、悠長に困惑している暇はない。


「――はぐれたみたいですね」ジェクスは立ち上がり、周囲を見渡した。


「そのようね」アリシャも立ち上がり、剣を確かめる。「――ここがどこかも分からない。まずは、合流できる場所を探しましょう」


壁の一部に埋め込まれた燐光石が、青白い光を静かに放っていた。二人だけになった空間に、その光だけが揺れていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

一触即発の緊張から一転、アリシャたちとの合流——そこに仕込まれていた魔法陣が、全員を引き裂いていく展開でした。ジェクスとアリシャが二人きりで見知らぬ場所に取り残されるところで幕引きです。

カイドたちの安否も気になるところですが、次話からはジェクスとアリシャの視点を追っていきます。二人がどんな場所に飛ばされたのか——次話でその正体が明らかになります。

感想・評価いただけると励みになります。次話もお楽しみに。

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