第40話 三つの点
傭兵ギルド・ルベリオスへ赴き、S級冒険者アクセルとの対面が実現します。行商人の失踪、謎の接触、そして四天王の噂——これまでの点が、ここで一本の線に繋がります。
ライアスがルベリオスとの連絡をつけたのは、それから三日後のことだった。
「――向こうのギルドマスターが、直接会って話したいそうだ。アクセル本人も同席するらしい」
ガルドナーは即座に頷いた。
「――行くぞ。ジェクス、カイド、お前らも来い」
ルベリオスは、隣街にある傭兵専門のギルドだった。血気盛んな空気が漂う黒豹ギルドとはまた違う、荒々しくも規律だった雰囲気が漂っている。
応接室に通されると、恰幅のいい壮年の男――ルベリオスのギルドマスターと、その隣に、170センチほどの小柄な青年が座っていた。鍛え上げられた体つきは、身長の印象を裏切るほど分厚い。
「――アクセルだ。よろしく」
短く名乗った青年の目は、値踏みするような鋭さを持っていた。ジェクスは、その視線を静かに受け止めた。
「単刀直入に聞くぞ」ガルドナーが切り出した。「お前に接触してきた男、詳しく聞かせてくれ」
アクセルは、しばらく言葉を選ぶように黙っていたが、やがて口を開いた。
「――見た目は、どこにでもいる人間だった。歳は俺と同じくらいか、少し上か。だが、近づいた瞬間、肌が粟立った。魔力の質が、明らかに違ってた」
「冷たい、と聞いています」
「ああ。……人間の魔力じゃない。あれは、多分」アクセルは、一度言葉を切った。「魔族、いや、それ以上のもんだと思う」
「なぜ、そう思う?」ジェクスが尋ねた。
「――俺は、五倍の力を自分に課して鍛えてきた。今まで、正面から敵わないと思った相手はいなかった。だが、あの男とすれ違った瞬間だけは、素直にそう思った。……敵わない、ってな」
沈黙が落ちた。ガルドナーの表情が、一段と険しくなる。
「――お前を、何のために雇おうとした?」
「詳細は言わなかった。ただ、『素質のある人間を探している』とだけ」
「素質?」
「詳しくは分からねえ。だが、あの言い方だと、俺一人が目当てじゃない気がした」
ジェクスの中で、これまでの情報が繋がり始めた。行商人の失踪。アクセルへの接触。そして、剣聖から聞いた「四天王」という言葉。
「――三つの点が、一本の線に見えてきました」ジェクスが口を開いた。
「話せ」ガルドナーが促す。
「行商人の一行は、恐らく無作為に攫われた。魔王が求めているのは、ある特定の"素質"を持つ人間――つまり、転移者だと考えれば辻褄が合います。攫った中に転移者がいなければ、目的を果たせなかった。だから、次は無作為ではなく、狙いを定めて接触し始めた。それが、アクセルさんへの声かけだったのでは」
アクセルの目が、わずかに見開かれた。
「――転移者?」
「――お前も、そうなのか」ガルドナーが静かに尋ねた。
アクセルは、しばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……ああ。この面子の前でなら、隠す意味もねえか」
ルベリオスのギルドマスターは、驚いた様子もなく腕を組んでいた。
「――知ってたんですか」ジェクスが尋ねる。
「勘付いてはいた。ギルドマスターってのは、そういうことに気づかされる立場だからな」
その言葉に、剣聖の言葉が重なった。真実を知らされる側の人間――ガルドナーも、ルベリオスのマスターも、その一人だった。
「――もし、狙いが転移者なら」カイドが口を開いた。「街に何人いるか分からねえが、狙われるのは俺たちの方かもしれねえ、ってことだよな」
その場の全員が、一瞬、視線を交わした。
「――警戒を強めるしかない」ガルドナーが結論づけた。「ジェクス、カイド、しばらく単独行動は控えろ。アクセル、お前もだ」
「望むところだ」アクセルが、口の端を上げた。「――次にあいつが現れたら、逃がすつもりはねえ」
その言葉に、ジェクスも小さく頷いた。
想定録の棚に、また新しい繋がりが刻まれていく。三十三年分の積み重ねが、少しずつ、この世界の裏側の輪郭を捉え始めていた。
窓の外、夕暮れの空が赤く染まっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「素質のある人間を探している」——この一言から、ジェクスが魔王の狙いを転移者だと推理する流れ、いかがだったでしょうか。アクセルという新キャラクターも、実は転移者だったという展開で、今後さらに絡んでくる可能性がある人物です。
ガルドナーの「単独行動は控えろ」という指示も、これからの緊張感を象徴する一言です。物語はいよいよ、個人の戦いから、複数のギルド・複数の転移者を巻き込んだ大きな流れへと動き出しました。
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