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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX


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第4話 三十三年の積み重ね

――加入試験、開始。


石造りの街並みに、静かな高鳴りを隠しながら踏み込む第四話です。

どうぞよろしくお願いします。


 冒険者ギルドは、大通りから一本外れた広場の角に建っていた。剣と盾を組んだ紋章の下、扉を押すと酒精と埃の匂いが鼻を突く。まだ日も高いというのに、奥のテーブルではすでに何人かが盃を傾けていた。


 視線が、いくつかこちらに向いた。品定めするような、あるいは品定めするまでもないと決めつけたような目。ジェクスはそれを受け流しながら、受付へ歩いた。


「登録をお願いしたい」


「はい。加入試験は本日午後からです」


 受付の女性は、慣れた手つきで書類を差し出した。


「剣術・魔法・体力・知識の四種目。結果に応じてF級からA級まで――その上は、試験じゃ出ません」


「その上、というと」


「S級はA級のトップが、緊急クエストの実績を積んで初めて認められるものです。SS級なんて、各国に一人いるかどうか」


 彼女はそこで一度、言葉を切った。どこか羨むような、諦めているような響きが、その沈黙に混じっていた。


「――この国は、ここ十年、SS級不在ですよ」


 自分がかつて何を目指していたのか、彼女の目がそれを物語っている気がした。ジェクスは何も聞かず、ただ頷いた。


 試験会場は建物裏手の訓練場だった。壇上に立つ大柄な男――ギルドマスター、ガルドナー――の視線が、一瞬、列に並ぶジェクスの上で止まった。


(――なんだ、あの立ち方は)


 ガルドナーは、内心でわずかに眉を寄せていた。緊張しているようで、していない。無駄な力みが一切ない。だが、それは新人特有の無知からくる余裕とは、明らかに質が違った。


(――型を持たない者の立ち方じゃない。むしろ逆だ。何かを、山ほど積んできた人間の立ち方だ)


 長年、数えきれない新人を見てきた。だからこそ、その違和感が余計に引っかかった。


 体力試験。二十キロの重りを担ぎ、周回コース。号令とともに走り出す。


(――現世での鍛錬の延長だ。これくらいなら)


 誰もいない早朝の公園で、ゴム製の模擬刀を何百回と振り続けた日々が脳裏をよぎる。あの頃は、こんな日が本当に来るとは、正直なところ半分も信じていなかった。それでも、やめなかった。


 四周。多くも少なくもない、ちょうどいい数字だった。壇上のガルドナーが、わずかに眉を動かした。


 剣術試験。木剣を構えた瞬間、試験官の目つきが変わる。


(――型がない、と思われている)


 当然だ。彼が積み重ねてきたのは、道場仕込みの剣術ではない。誰にも見せず、我流で振り続けただけの三十三年間。試験官の一撃を、体が覚えている軌道で受け流した瞬間、想像の中でしか繰り返してこなかった攻防が、初めて現実の重みで返ってくる。少年のように胸が高鳴った。


「――そこまで」試験官が記録紙に目を落とす。「受け流し六、被弾一。有効打なし――だが、型がない割にこの数字は出来過ぎだ」


「独学ですので」


「独学で、これか」


 魔法試験では、手のひらに炎を灯した。詠唱はなし。


(正確には魔法じゃない。ギフトで得た力だ。誤魔化すしかない)


「無詠唱――悪くない。精度はあと一歩か」


 知識試験。地理と国の情勢は正直に空欄にした。だが、見覚えのある植物の特徴や、未知の生物への対処を問う設問には、地球で培った勘を頼りに埋めていった。


 ――結果、六十四点。ぎりぎりの合格ラインだった。


 結果発表。ガルドナーが名簿を読み上げていく。


「JX。――B級」


 どよめきが起きた。ガルドナーは何も言わなかったが、名簿から目を上げてこちらを見た一瞬、まだ何かを探るような色が残っていた。


 人だかりが散っていく中、ガルドナーがふと歩み寄ってきた。


「JX、だったな」


「はい」


「B級にしては、動きに迷いがなかった。――一つ聞いておきたい。S級を目指す気はあるか」


「目指せるものなら」


「――正直な奴だ」ガルドナーは口の端をわずかに上げた。「言っておくが、A級までは試験で上がれる。だがその先は違う。緊急クエスト――国が総力を挙げても手に負えない厄介事だ。魔物の異常発生、災害、時には戦争そのもの。そこで結果を出した者だけが、S級と呼ばれる」


「なるほど」


 三十三年間、想像の中でしか触れたことのなかった仕組みが、今こうして目の前で語られている。それだけで、少年のように心が浮き立つのを感じた。


「まあ、お前がそこまで行くかどうかは知らんがな」


 そう言って、ガルドナーは背を向けた。だが、数歩進んだところで足を止めずに、独り言のように呟いた。


「――しばらく、目が離せなくなりそうだ」


 その声は、ジェクスには届かなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ジェクスの試験結果、B級という数字にどこまで意味を持たせられたか、少し不安もありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

次話では、いよいよ最初の依頼を選ぶところから始まります。よければ引き続きお付き合いください。


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