第32話 さらなる高みへ
ジェクスとカイド、二人揃ってのA級昇格が決まりました。今回は、その報せと、カイドの中で静かに育っていた「魔族とどこまでやれるか」という高揚を描いています。
短いですが、次に繋がる大事な回です。よろしければ最後までお付き合いください。
「――A級への昇格が決まった。二人ともだ」
ガルドナーの一言に、ギルドの応接室が静まり返った。
「ジェクス、カイド。今回の一連の功績――王都の一件、北の森の調査、どれを取っても十分すぎる働きだ。それに」
ガルドナーは、机の上に置かれた例の石と枷を一瞥した。
「これから先、国を跨ぐ動きが増える。国境を越えた依頼は、A級以上じゃないと受けられない決まりだ。魔族が絡んでるとなりゃ、なおさら国内だけで収まる話じゃなくなる」
「――やっとか」カイドが、抑えきれない笑みを浮かべた。
「浮かれるのは後にしろ」
「浮かれてるように見えます? これでも冷静なつもりですけど」
軽口を叩きながらも、カイドの目には、隠しきれない高揚が宿っていた。
***
その夜、ギルド裏の焚き火の前で、カイドは剣を膝に乗せたまま、じっと炎を見つめていた。
「――なあ、ジェクス」
「なんだ」
「正直に言うとさ、ちょっとワクワクしてる自分がいる」
「魔族の話か」
「ああ」カイドは剣の柄を、確かめるように握り直した。「怖くないと言えば嘘になる。だが、それ以上に……どこまでやれるのか、試してみたい気持ちの方が強い」
「――剣聖の下で、それだけ積んだんだろ」
その一言に、カイドは小さく笑った。
「あの人の下にいた半年、正直、地獄みたいな毎日だったよ。だが、あの地獄がなけりゃ、今この昇格の報せを聞いても、こんな風には笑えなかったと思う」
炎に照らされたカイドの横顔には、以前のような焦りも、嫉妬も、もうどこにもなかった。
「――詳しい話は、今度ちゃんと聞かせるよ。今日はまだ、酒の肴程度にしとく」
「楽しみにしとく」
しばらく、二人の間に沈黙が落ちた。焚き火の爆ぜる音だけが響いていた。
「――魔族と、どこまでやれると思う?」ジェクスが尋ねた。
「分からねえ。だが」
カイドは、焚き火越しにジェクスを見た。その目には、恐れよりも、確かな輝きが宿っていた。
「分からないから、面白いんだろ。想定できないことを、想定できるようにしていくのが、お前の得意分野なんじゃないのか」
「――言うようになったな」
「お前の背中、散々見てきたんだ。多少は学ぶ」
カイドはニヤリと笑い、焚き火に薪をもう一本くべた。
「――A級か。まずは国を跨ぐところから、だな」
「ああ」
炎が、二人の顔をゆらゆらと照らしていた。まだ見ぬ脅威への恐れよりも、これから踏み出す一歩への期待の方が、その場には確かに満ちていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
A級昇格という節目と共に、国を跨ぐ動きが始まっていきます。カイドの「怖くないと言えば嘘になる。だが、それ以上に試してみたい」という一言に、これまでの成長が滲んでいれば嬉しいです。
なお、カイドの修行の詳細については、今回はあえて深追いせず、「今度ちゃんと聞かせる」という形で保留にしました。その全貌は、また別の形でお届けする予定です。
次話では、剣聖からの思わぬ便りが届きます。
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