第31話 幕が上がる
北の森で発見した石と、以前ミスリルの枷から見つかった不純物——この2つが繋がった時、この物語はこれまでとは違う段階に進みます。
第一部の折り返しにあたる回です。よろしければ最後までお付き合いください。
ギルドの資料室に、三人が持ち帰った石を置くと、ライアスの顔色が変わった。
「――これ、あのミスリルと同じ反応だ」
震える手で石を光にかざし、ライアスは食い入るように観察を続けた。
「不純物の質が、完全に一致してる。……鎖に混ぜられてたのと、この石を構成してるもの。出所は、間違いなく同じだ」
「つまり?」カイドが先を促す。
「魔物を誘導する魔道具と、奴隷を繋ぐ鎖。両方とも、魔族の技術が使われてる。……人間の技術体系には、こんな精度で魔力を練り込む方法は、存在しない」
部屋に沈黙が落ちた。
「――闇ギルドと、魔族が繋がってる、ということですね」ジェクスが口を開く。
「繋がってる、どころじゃないかもしれない」
低い声で割り込んだのは、いつの間にか戸口に立っていたガルドナーだった。
「聞こえてましたか」
「聞こえるように喋ってただろうが」
ガルドナーは机の上の枷と石を見比べ、腕を組んだ。
「――闇ギルドの、あのレトゥスとかいう男。あそこまでの組織と技術を、人間の裏社会だけで築き上げたとは、正直思ってなかった。今の話を聞いて、腑に落ちた」
「後ろに、魔族がいる、と?」
「魔族どころじゃすまねえかもしれん」
ガルドナーの声が、一段低くなった。
「魔石の理屈は聞いてるな。魔族の中でも規格外の魔力を持つ個体が、魔神と呼ばれる。……もっとも、魔神ですら御伽噺だと思ってる奴が大半だろう。俺だって、ギルドマスターにならなきゃ、一生本気にしなかったかもしれん」
ガルドナーは、一度言葉を切った。
「――だが、魔神をまとめる存在が、本当にいる。各国のギルドマスターや、上澄みの人間だけが知らされてる話だ。今から話すことは、他言無用にしてくれ」
部屋の空気が、一段と張り詰めた。
「魔王、ですか」
「そう呼ぶ国もあれば、魔神王と呼ぶ国もある。呼び方はどうでもいい。問題は――闇ギルドという、人間の裏社会の道具を使ってまで、その筋の何かが動いている、ってことだ」
部屋の中の全員が、それぞれ違う表情でその言葉を受け止めていた。カイドは拳を握り、フィーレは眉根を寄せ、ライアスは興奮と恐怖の入り混じった顔でノートを取り続けている。
「――どこまで、繋がってるんでしょうか」ジェクスが尋ねた。
「分からん。だが、少なくとも一つだけ、確かなことがある」
ガルドナーは、机の上の証拠品を、ゆっくりと布で包み直した。
「これはもう、闇ギルドという一つの厄介事の話じゃねえ。この国、いや、この大陸全体に関わる話になるかもしれん」
「――王都には?」フィーレが尋ねる。
「今夜のうちに報告を送る。……悪いが、しばらく落ち着かない日が続きそうだ」
会議が終わり、それぞれが部屋を後にする中、ジェクスだけが、しばらくその場に残っていた。
夜、宿の窓辺に立ちながら、ジェクスは今日知った事実を、あらためて頭の中で整理していた。
三十三年間、あらゆる「もしも」を想定してきた。ゾンビが出た時のこと。大地震が起きた時のこと。異世界に転生した時のことすら、想定の一つに過ぎなかった。
だが、今この瞬間だけは、想定録のどこを探しても、これから起きることの答えは見つからなかった。
(――魔族。魔神。そして、その先にいる何か)
それでも、恐怖よりも先に、あの日、天界で感じたのと同じ高揚が込み上げてくるのを、ジェクスは止められなかった。
三十三年分の積み重ねが、ようやく、本当の意味で試される場所へ辿り着こうとしている。
窓の外、夜空に浮かぶ月を見上げながら、ジェクスは静かに息を吐いた。
――さて。ここからが、本番らしい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
闇ギルドという厄介事の裏に、さらに大きな存在がいた——という事実を、ガルドナーの口から語らせる形でお届けしました。
「魔族ですら御伽噺だと思われている世界で、その先の魔神・魔王の実在は、ごく一部の人間しか知らない」という重みを出したかったので、ガルドナーに「他言無用」と前置きさせています。この一言で、彼がどれだけ重い話をしているかが伝わっていれば嬉しいです。
ここから物語は、闇ギルドという中ボスの話から、少しずつ大きな流れへと舵を切っていきます。ジェクスの内面にあった「まだ知らないことがある高揚」が、これからどう試されていくのか——ぜひ見届けていただけたらと思います。
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