表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/64

第30話 北の森

前話のラストで見つかった、差出人不明の貼り紙。今回は、ジェクス・カイド・フィーレの三人で、実際に北の森へ調査に向かいます。

静かすぎる森、不自然な気配——今回は少し緊張感のある回になります。よろしければ最後までお付き合いください。

「――北の森、注意されたし」


貼り紙をもう一度見返しながら、ジェクスは依頼書を手に取った。


「差出人不明、か。誰がこんなものを」フィーレが横から覗き込む。


「分からない。だが、無視するには引っかかりが強すぎる」


「俺も混ぜろって言ったろ」カイドが腕を組んだ。「三人で行けば、何が出てきても対処できる」


ガルドナーに一報を入れ、正式に調査依頼として受理してもらった翌朝、三人は北の森へ向かった。


門を抜けてしばらくは、いつも通りの森だった。木漏れ日、湿った土の匂い、遠くで囀る鳥の声。だが、森の中腹を過ぎたあたりから、何かが変わり始めた。


最初に気づいたのは、匂いだった。


「――土の匂いが、しない」


フィーレが足を止め、鼻をひくつかせる。


「森の中で、土の匂いがしないなんてこと、あるのか」


「普通はない。何かが、匂いごと押し潰されてる感じがする」


進むほどに、静けさが濃くなっていった。虫の羽音も、葉擦れの音も、いつの間にか消えている。三人の足音だけが、やけに大きく響いた。


「――鳥の声、いつからしてない?」カイドが低く尋ねる。


「大分前から。……多分、門をくぐって半刻もしないうちに」


肌に感じる空気にも、違和感があった。夏の盛りだというのに、進むにつれて気温が一段階ずつ下がっていくような、そんな錯覚があった。ジェクスは、腕に鳥肌が立つのを感じた。


「――寒く、ないですか」


「言われてみりゃ」カイドも自分の腕をさすった。「気のせいにしちゃ、揃いすぎてる」


木々の様子も、確実におかしかった。折れた枝、踏み荒らされた下草。だが、争った形跡ではない。まるで、何かに導かれるようにして、同じ方向へ一斉に進んだ跡だった。獣道にしては、あまりに一様な踏み跡だった。


「――この先だ」


カイドが、木立の隙間から漏れる、かすかな光に気づいた。


近づくほどに、耳の奥に、低い唸りのような音が響き始めた。音というより、圧に近い感覚だった。


開けた場所に出ると、地面に石組みの祭壇があった。組まれた石には継ぎ目がなく、道具で削った痕も見当たらない。人の手による建築とは、明らかに造りが違う。その中心に、黒く濁った石が据えられ、禍々しい光を鈍く放っていた。


近づこうとしたフィーレを、ジェクスが手で制した。


「待ってください」


石に近づくほど、喉の奥が勝手に粟立った。想定録の棚を、反射的に辿る。


――ない。


これまでの人生で感じてきたどんな恐怖とも、質が違った。11話の黒幕でも、旧市街の敵でもない。三十三年分の記録のどこにも、これに近い項目すら存在しない。あってはならないものに触れている、という確信だけが、理屈より先に体を強張らせていた。


「触れずに、まず調べましょう」


ジェクスは、剣を鞘のまま石にかざし、慎重に距離を保ちながら観察した。石の表面に浮かぶ紋様は、これまで見てきたどの魔法体系とも一致しなかった。


「――魔物を誘導する魔道具、だと思います。断定はできませんが」


「なんでそう思う」カイドが尋ねる。


「森に入ってから、魔物の気配が一切ない。統率されて移動した群れの跡はあるのに、今、ここに残っている個体が一匹もいない。……全部、ここに一度集められて、どこかへ送り出された、と考えるのが自然です」


フィーレの表情が険しくなった。


「――誰かが、意図的に魔物を集めて、操ってた、ってこと」


「その可能性が高いです」


三人はそれ以上石に触れず、慎重に布で包み、持ち帰ることにした。布越しにも、指先にじわりとした冷たさが伝わってくる。


帰路、来た時よりも足取りは速かった。森を抜けるまで、誰も多くを語らなかった。


木々の隙間から差し込む光が戻ってきた瞬間、ようやく、鳥の声が耳に戻ってきた。ジェクスは、自分が知らず知らず息を詰めていたことに、その時初めて気づいた。


「――なあ」フィーレが、沈黙を破るように口を開いた。「あの石、どことなく、あの鎖と似た気配がしなかった?」


その一言に、ジェクスとカイドは、同時に足を止めた。


競売場で回収した、あのミスリルの枷。ライアスが不純物を発見したという、あの一件。


「――帰ったら、すぐに確認しましょう」


街の灯りが、遠くに見え始めていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

匂いが消え、音が消え、気温まで下がっていくような森の異様さを、できるだけ体感として伝わるように書いてみました。

森の奥で見つけた石組みの祭壇と、禍々しい石——想定録にも該当項目が見つからないという恐怖は、今後この作品の緊張感を支える大きな柱になっていきます。

そして、フィーレの最後の一言。「あの鎖と似た気配」——この違和感が、次話で大きな意味を持つことになります。

感想・評価いただけると励みになります。次話もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ