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「異世界?それも想定内だ。33年間、あらゆる可能性を生きてきた男」  作者: JX
第一章 「備えし者の記録」

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第29話 小さな新入り

王都から新しい仲間・ライガーがやってきます。慣れない環境に緊張する少年と、彼を迎える街の面々の様子を描いています。

カイドも登場し、意外な形で距離を縮めていきます。よろしければ最後までお付き合いください。

ライガーが街に到着したのは、カイドが帰ってきてから五日後のことだった。


ガルドナーが手続きを終え、正式な後見人としてギルドの馬車で連れてきた時、少年は小さな麻袋一つを胸に抱えたまま、誰とも目を合わせようとしなかった。


「――紹介しとく。今日からここで暮らすことになった」


ギルドの応接室に集められた面々を前に、ガルドナーがそう言うと、ライガーは肩を強張らせたまま、わずかに頭を下げた。


「よろしく、お願いします」


小さな、消え入りそうな声だった。獣人特有の耳が、緊張のせいかぴんと立っている。


受付の女性が真っ先に膝を折り、目線を合わせた。


「よろしくね。何か困ったことがあったら、いつでも私に言って」


だが、ライガーの視線は落ち着かず、部屋の隅、逃げ場を探すように動き続けていた。


「――お前、飯は食ったのか」


不意にそう聞いたのは、フィーレだった。


ライガーが首を横に振る。


「なら、まず飯だ。腹が減ってちゃ、話す気力も湧かねえだろ」


その率直さに、少年の肩から少しだけ力が抜けたのが分かった。


「――俺はカイド」


輪の端で腕を組んでいたカイドが、不意に口を開いた。


「養子だ。血の繋がりは、オヤジとは一つもない」


ライガーが、初めて顔を上げてカイドを見た。


「……そうなんですか」


「ああ。だから、お前が居心地悪く感じてる気持ちも、多少は分かるつもりだ」


カイドはそう言うと、それ以上余計なことは付け足さなかった。ただ、その一言だけで、ライガーの纏う空気が、わずかに柔らかくなった気がした。


***


夕方、ギルド裏の食堂で、ライガーは出された肉料理を、最初は遠慮がちに、やがて夢中でかき込み始めた。よほど空腹だったのだろう。


その様子を眺めながら、ジェクスはガルドナーに小声で尋ねた。


「――幻獣魔法の適性は、本当にあるんですか」


「間違いない。競売場で見た時から確信してた。あの目つきは、獣を宿す人間特有のものだ」


「教えるのは、いつから?」


「本人が落ち着いてからだ。急ぐ必要はねえ」


食事を終えたライガーは、テーブルの端で、居心地悪そうに視線をさまよわせていた。ジェクスは、その正面に腰を下ろした。


「――俺はジェクス。よろしくな」


ライガーは、ちらりとこちらを見て、すぐに目を逸らした。


「……何か、用ですか」


「特にない。ただ、しばらくこの街にいるなら、顔くらいは覚えとこうと思って」


沈黙が落ちる。だが、無理に会話を続けるつもりはなかった。


しばらくして、ライガーの方からぽつりと口を開いた。


「――ここ、怖い人はいませんか」


「怖い人?」


「檻に入れられてたところの人たちみたいな」


その一言に、ジェクスは一瞬言葉を選んだ。


「――少なくとも、俺は知らない。ここにいる連中は、みんな面倒見がいいだけだ」


「本当に?」


「本当に。信じなくてもいいが、これから確かめる時間はいくらでもある」


少し離れた席で、カイドがぼそりと付け加えた。


「保証する。俺も最初は、誰も信じらんなかったからな」


ライガーは、二人の顔を交互に見つめていた。それから、初めてほんの少しだけ、口の端を緩めた。


***


その夜、ギルドの二階に用意された小さな部屋で、ライガーは慣れない寝床に横になっていた。


窓の外、街の灯りが遠くに揺れている。檻の中で見ていた景色とは、何もかもが違っていた。


扉の外から、ガルドナーの声が小さく聞こえた。


「――お前も、いい面構えの奴らに拾われたな」


独り言のようなその一言に、ライガーは何も答えなかった。ただ、久しぶりに、朝が来るのが怖くない夜だった。


***


翌朝、ギルドの掲示板の前で、ジェクスは一枚の依頼書に目を留めた。


「――北の森で、集団で移動する魔物の目撃情報が相次いでる、か」


「珍しいことじゃないだろ」通りかかったフィーレが肩をすくめる。「季節の変わり目には、よくある話だ」


「ただ、目撃者の話だと、統率の取れた動きをしてたらしい。……オークの群れと似た報告だ」


フィーレの表情が、わずかに引き締まった。


「――誰かが誘導してる、って線か」


「まだ、決めつけるには早いですが」


隣で依頼書を覗き込んだカイドが、腕を組んだ。


「面白そうじゃねえか。俺も混ぜろ」


掲示板の隅、小さく貼られたもう一枚の紙に、ジェクスは目を留めた。差出人不明。ただ「北の森、注意されたし」とだけ書かれた、不自然に簡素な貼り紙だった。


想定録に、新しい項目が一つ増えた。


――該当なし。


だが、それでいい。まだ知らないことがある、という事実そのものが、悪くないと思える程度には、この世界に馴染み始めている自分がいた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

新しい仲間・ライガーの加入回でした。フィーレの率直さ、ジェクスの距離の詰め方、そしてカイド自身の「養子」という境遇からの一言——それぞれのキャラクターらしいアプローチで、少年の緊張がほぐれていく様子を描いてみました。

ラストに出てきた北の森の依頼、そして差出人不明の貼り紙は、今後の大きな伏線になります。次話では、この違和感の正体に迫る……前に、少し寄り道をする予定です。

感想・評価いただけると励みになります。次話もお楽しみに。

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