第28話 隣に並ぶまで
王都から一足先に帰還したジェクス。今回は、修行の旅に出ていたカイドがついに帰ってくる回になります。
半年以上の旅で、彼がどう変わったのか。そしてガルドナーとの再会は——ぜひ最後までお付き合いください。
カイドが街に戻ってきたのは、ジェクスが帰還してから五日ほど経った昼下がりだった。
ギルドの扉が勢いよく開き、聞き覚えのある足音が響いた瞬間、受付の女性が声を上げた。
「――カイドさん!? お帰りなさい!」
「おう。オヤジは奥か」
その声に、応接室からガルドナーが顔を出した。
「――帰ったか」
短い一言だったが、そこに込められたものは、決して短くはなかった。
「王都の書類、片付けてきた。あと、これも」
カイドは背負っていた荷を下ろし、中から一振りの剣を取り出した。旅立った日に持っていたものより、明らかに手入れが行き届き、柄には使い込まれた跡が刻まれている。
「――随分、様変わりしたな」ガルドナーがその剣を一瞥する。
「そりゃ、あれから半年以上経ってますからね」
ジェクスは、その様子を少し離れた場所から眺めていた。カイドの纏う空気そのものが、旅立つ前とは明らかに違っていた。以前は、どこか肩肘を張ったような硬さがあったが、今は自然体のまま、しっかりと地に足がついている。
「――久しぶりだな、ジェクス」
カイドがこちらに気づき、片手を上げた。
「おかえり。旅はどうだった」
「一言じゃ話せねえよ。……だが、まあ、悪くなかった」
その夜、ギルドの裏庭で、カイドは焚き火を挟んでぽつぽつと語り始めた。
「最初の三月は、正直きつかった。行く先々で、無名のB級なんて誰も相手にしちゃくれねえ。腕試しの依頼すら、まともに回してもらえなかった」
「それで?」
「それでも、腐ってる暇はねえだろ。誰も見てないところで、毎日剣を振った。お前がそうしてきたみたいに、な」
カイドは焚き火を見つめたまま、続けた。
「――途中、東の辺境で、ある老剣士に拾われた。偏屈な爺さんでな、最初は稽古をつけてもらうまでに二月かかった」
「二月も?」
「毎日、薪割りと水汲みだけさせられた。舐められてるだけかと思ったが……あとで分かった。あの人、俺の剣筋を見て、力任せの癖を叩き直すために、あえて剣を握らせなかったらしい」
「厳しい人だな」
「厳しかったさ。だが、おかげで分かったことがある」
カイドは、焚き火越しにこちらを見た。
「お前を見て、俺はずっと『才能の差』だと思い込んでた。だが違った。お前がやってきたのは、誰も見てない場所での積み重ねだ。俺も同じことを、ただやってなかっただけだった」
「それに気づけたなら、十分だろ」
「気づいただけじゃ足りねえ。だから、老剣士の下で半年、死ぬ気で振り続けた。……最後には、一本だけ、あの人から一本取れるようになった」
その声には、以前の嫉妬でも焦りでもない、静かな誇りが滲んでいた。
「――今なら、隣に並べる気がする」
カイドがそう言うのを聞いて、ジェクスは小さく頷いた。
「それは、王都で見た時から分かってた」
「――大した戦いもしてねえのに、よく言うぜ」
「拳と蹴りしか見せてなかったのは、まだ本調子じゃなかっただけだろ」
カイドは一瞬、意外そうな顔をした。それから、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「――あー、いや。あれは、その、色々あってな」
「別に責めてない。誰にでも本調子じゃない日はある」
歯切れの悪い返事を、ジェクスはそれ以上追及しなかった。
しばらく、焚き火の爆ぜる音だけが響いた。
「――なあ、ジェクス」カイドが不意に切り出した。「お前、これからどうする気だ」
「街の依頼をこなしながら、様子を見るつもりだ」
「――言っとくが、もう昔のお前の背中を追いかけるだけの俺じゃねえからな」
「知ってる」
焚き火の向こうで、カイドがニヤリと笑った。旅立つ前には見たことのない、余裕を纏った笑い方だった。
その夜、ギルドの窓から漏れる灯りを見上げながら、ガルドナーは一人、静かにグラスを傾けていた。
「――大きくなったな、あいつも」
誰に聞かせるでもない呟きが、夜風に溶けていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
カイドの成長を、本人の口から語らせる形でお届けしました。老剣士との出会いや、力任せの癖を叩き直された半年間——ここで語られたエピソードは、今後もふとした場面で顔を出す予定です。
また、王都での戦闘描写に関する小さな伏線回収(「あー、いや、あれは色々あってな」のくだり)にも気づいていただけたら嬉しいです。
次話では、いよいよ新しい仲間・ライガーがこの街にやってきます。カイドとの意外な相性にもご注目ください。
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