第17話 オタクと美女
魔石ハンターから、この世界の"敵"についての基礎知識を学ぶ話。そして、新しい出会いの話です。
「――で、結局あんたは何しにここに?」
執務室の椅子に深く座り直しながら、ジェクスは魔石ハンターに尋ねた。フードを外したその顔は、思ったよりずっと若かった。
「暴走しかけた魔石の後処理を任されてたんだが……もう片付いてるとはな。話には聞いてたが、大したもんだ。――ああ、名乗ってなかったな。ライアスだ」
「魔石について、詳しいんですか」
その一言に、魔石ハンターの目つきが変わった。
「詳しいなんてもんじゃねえ。俺はこの世界で、魔石を一番理解してる自信がある」
前のめりになったその様子に、ガルドナーが小さく苦笑した。
「――始まったぞ。付き合ってやれ」
「そもそも魔石ってのは、鉱物じゃねえ。あれは"生き物"だ」
「生き物?」
「正確には、魔物や魔族――自分の体内の器官で、魔力そのものを生成する生き物のことを言う。魔石ってのは、その器官の副産物、あるいは器官そのものだ。奴らが死ぬと、体外に出て結晶化する」
魔石ハンターは指を一本立てた。
「んで、そのうち動物の姿をしてるのが"魔物"。もう一本」
指を二本立てる。
「人型をしてるのが"魔族"。さらに、魔族の中でも規格外に魔力量が多い、選ばれたごく一部の個体――それが"魔神"だ」
「ヴォルカニスは」
「動物型だから魔物だな。あの大蛇クラスになると、魔石も相応にデカくて質がいい」
ジェクスは想定録を開き、今聞いた話を一つずつ項目として刻んでいった。魔物・魔族・魔神という区分。魔石は生成器官の副産物であること。この街の周辺で魔物が増えれば、魔石の残骸も比例して増えること。
「――なあ、聞いてるか?」
「聞いてます。続けてください」
「お、いい反応するじゃねえか。実はな、魔石の質ってのは……」
魔石ハンターはそれから小一時間、誰にも止められないまま魔石談義を続けた。ガルドナーは途中で呆れたように席を外し、戻ってきた頃にはまだ話が終わっていなかった。
***
数日後、年に一度だけ張り出される特別依頼――辺境の霊峰にある祠へ、王家からの奉納品を届ける任務を、ジェクスは一人でこなして戻ってきた。飛行があれば往復数日の道のりも半日で済む。
ギルドの扉を開けると、受付の奥、いつもとは違う空気を纏った人物が目に入った。
金色の髪が、窓から差し込む光を受けて輝いている。エメラルドを思わせる、澄んだ緑の瞳がこちらを見た。すらりとした立ち姿は、この世界の人間とは明らかに違う気配を纏っている。
「――エルフ?」
思わず呟くと、ガルドナーが咳払いをした。
「ちょうどいいところに帰ってきた。紹介する。魔法を専門に扱う冒険者で、これからお前に魔法を教えてくれる人だ」
「初めまして。魔石ハンターから話は聞いてるわ。魔力は感じられるのに、操作は素人同然だそうね」
涼やかな声だった。値踏みするような視線が、ジェクスの全身をゆっくりと辿る。
「――失礼、初対面でじろじろ見るのは悪い癖なの。ただ、これだけの身体を作れる人間が、魔力操作だけできないっていうのは、少し面白いなと思って」
「よろしくお願いします」
「ええ。せいぜい、退屈させないでちょうだいね」
そう言って浮かべた微笑みには、どこか試すような色があった。ジェクスは想定録に、新しい項目を刻んだ。
――エルフの魔導士。師匠。名前は、まだ聞いていない。
魔石という存在の正体、そして新しい師匠との出会いでした。次回、いよいよ本格的な魔法の稽古が始まります。




