第15話 打ち明けた能力
王都から街へ。剣を背負ったジェクスが、ずっと抱えてきた秘密に区切りをつける話です。
王都を発って三日、見慣れた街の門が見えてくる頃には、ジェクスの足取りはいつもより少しだけ重かった。
背負った剣の重みは、もう馴染み始めている。だが、これから話すことの重さだけは、何度想定録を開いても、うまく計り切れなかった。
「――どうした、辛気臭え顔して」
隣を歩くドルガンが覗き込む。
「いえ。少し、考え事です」
「三日間、ずっとそんな調子だったな。まあ、無理に聞かねえよ」
ドルガンはそれ以上追及せず、ただ肩を並べて歩き続けた。その気遣いが、今のジェクスには少しだけ有り難かった。
街の門をくぐると、見慣れた喧騒が二人を迎えた。ドルガンとはギルドの前で別れ、ジェクスは一人、扉を開けた。
***
「――剣、出来上がったんだってな」
受付を素通りして奥の執務室に顔を出すと、ガルドナーはすでに何かを察したような目でジェクスを見た。長年、駆け引きの読めない冒険者たちを見てきた男の勘だった。
「はい。それと、話しておきたいことがあります」
「座れ」
ガルドナーは椅子を勧め、自分も机の向こうに腰を下ろした。窓の外はすでに夕暮れで、部屋の中は橙色に染まっている。
ジェクスはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「俺は――この世界の生まれではありません。異世界から来た、転移者です」
ガルドナーの太い眉が、わずかに動いた。だが、驚きよりも、何かに合点がいったような色の方が濃かった。
「――やっぱりか」
「気づいてたんですか」
「確信はなかった。だが、転移者にはギフトが宿るってのは、この世界じゃ誰でも知ってる話だ。お前が加入試験を受けた日から、薄々感じちゃいた」
「隠していて、すみません」
「詫びはいらねえ。続けろ」
「身体の強化、翼を使わない飛行、そして炎を操る力――全部、理想を現実にする力『ウィクトーリア・アマト・クーラム』というギフトで使えるようにしたものです。人前で使ったことはほとんどありませんが、ヴォルカニスの熱に平然としていられたのも、多少の傷ならすぐに治ってしまうのも、生まれ持った才能じゃない。全部、授かったものなんです」
言い終えると、部屋の中に沈黙が落ちた。ジェクスは、想定録のどの項目にも当てはまらないこの静寂を、ただ黙って受け止めていた。
「――そうか」
ガルドナーは腕を組み、椅子の背にもたれた。
「正直に言えば、驚いてはいねえ。あれだけの力を、まともな鍛錬もなしに使いこなしてる時点で、只者じゃねえとは思ってた」
「怒らないんですか」
「何を怒る必要がある。お前がこの街に来てから、俺たちが助けられたことはあっても、迷惑をかけられたことは一度もねえ。それで十分だ」
ガルドナーは一呼吸置いて、続けた。
「だが、一つだけ聞かせろ。今回、なんでわざわざ話す気になった」
「剣です」
ジェクスは背負った剣を机に置いた。
「あの剣は、俺のギフトに頼らなくても炎を纏う。これから先、ギフト任せの戦い方だけじゃ、いつか足元をすくわれる気がしたんです。だから、この世界の生まれの人間が当たり前にやっている魔力のコントロールを覚えようとしました。……でも、一人でやれることには限界がありました」
「なるほどな」
ガルドナーはニヤリと笑った。
「魔力のコントロールなら、俺にも心得がある。幻獣魔法ってのは、己の内にある力と、宿した獣の力を馴染ませる術だ。突き詰めりゃ、お前が今欲しがってるものと大差ねえ」
「教えてもらえますか」
「言われなくても教える。ただし」
ガルドナーは立ち上がり、窓際に歩み寄った。夕焼けが、その背中を橙色に縁取っている。
「俺のやり方をそのまま真似ても、お前には合わねえだろう。お前は俺たちとは違う積み重ね方をしてきた男だ。俺が教えるのは型だけでいい。あとは、お前自身のやり方で仕上げろ」
***
その夜、ジェクスは宿の裏庭で、三日間続けてきた姿勢を取った。結跏趺坐に組んだ足、親指と薬指で作った指の輪。だが今日は、そこにガルドナーから教わった一つの型――力を通す道筋を、体の中心から末端へ、獣が獲物を狙う時のように鋭く一点に絞る感覚――を重ねた。
想定録に、新しい項目が刻まれていく。結跏趺坐、指の輪、呼吸、そしてガルドナー流の一点集中。三十三年分の記録と、この世界で教わった型が、初めて一つの流れとして繋がっていく。
指先に、確かな熱が宿った。
「――これか」
わずかに動いた指先を見つめながら、ジェクスは小さく笑った。一人で積み重ねてきたものと、この世界で教わったもの。そのどちらが欠けても、ここには辿り着けなかった。
夜風が、剣を立てかけた壁をかすかに鳴らした。まだ道のりは長い。だが、確かに一歩、進んだ実感があった。
ようやく、ジェクスがガルドナーに秘密を明かしました。次はこの新しい力を引っさげて、再び動き出します。




