第114話 2人の旅路
正式な立場を離れ、二人だけの調査行が始まります。
夜明け前、王都の外れに、二つの人影があった。
ジェクスと、アリシャ――正式な立場を離れ、ただの個人として、静かに、旅立とうとしていた。
「――準備は、いいか」
「――ええ」アリシャは、軽装に身を包んだまま、静かに頷いた。「団長からは、この鏡も、預かってきたわ」
その手に握られていたのは、小型の通信用魔道具――ガレスたちと連絡を取るための、代替品だった。
「――行こう」
ジェクスの一言に、二人は、静かに、夜空へと舞い上がった。
***
ノルド神聖王国までの道のりは、飛行であれば、さほど遠くはない。だが、目立たぬよう、あえて高度を落とし、街道沿いを、慎重に進んでいく道中は、思いのほか、時間がかかった。
「――こうしてると、なんか、久しぶりだな」
雲間を縫うように飛びながら、ジェクスが、ふと、口を開いた。
「――何が?」
「――二人だけで、こうやって、どこかに向かうの」
その言葉に、アリシャは、小さく笑った。
「――サウナに誘われた時以来、かしらね」
「――……あれ、気づいてたのか」
「――当たり前でしょ。……あの夜、一人で、散々、恥ずかしい思いをしたんだから」
「――それは、悪かった」
「――今更よ」アリシャは、呆れたように、しかし、どこか柔らかい声で、そう言った。
軽口を交わしながらも、二人の間には、確かな緊張が、静かに漂っていた。
「――シグルド、無事だと思う?」アリシャが、ふと、真剣な声で尋ねた。
「――正直、分からない」ジェクスは、静かに答えた。「だが、無事だと、信じるしかない」
「――そうね」
しばらくの沈黙の後、アリシャが、再び、口を開いた。
「――ねえ、ジェクス。……あなたは、本当に、魔王側に着くつもりなの?」
その問いに、ジェクスは、しばらくの間、考え込んでいた。
「――正直、まだ、完全には、決めきれてない」ジェクスは、顎に手を当てながら、静かに答えた。「神々の話も、魔王の話も――どちらが正しいのか、証拠がない以上、断定はできない」
「――まあ、一度、心臓は貫かれてるけどな」
そう言って、ジェクスは、小さく笑った。
「――それでも」
「――それでも、魔王が話した内容には、筋が通っていた」ジェクスは、続けた。「少なくとも、あいつが嘘をつく理由が、俺には、見当たらない。……だから、今は、その可能性に、賭けてみようと思ってる」
その言葉に、アリシャは、静かに頷いた。
「――私も、同じ気持ちよ」
「――7人、揃えなきゃいけないってのも、な」ジェクスは、静かに続けた。「正直、まだ、誰を選べばいいのか、見当もつかない」
「――それも、これから、少しずつ、見えてくるんじゃない?」アリシャが、静かに、そう言った。「今は、目の前のことから――シグルドを、見つけ出すことから」
「――そうだな」
その言葉に、ジェクスは、静かに、頷いた。
夜空の下、二人だけの道行きは、まだ、始まったばかりだった。
やがて、遠く、雲の切れ間から、荘厳な尖塔が、幾つも、姿を現し始めた。
「――見えてきたわね」アリシャが、静かに、呟いた。
「――ノルド神聖王国、か」
その名の通り、まるで巨大な神殿そのもののような、荘厳な建造物群が、夜の闇の中に、静かに浮かび上がっていた。
「――シグルドが、何を見つけたのか」ジェクスは、その光景を見つめながら、静かに、呟いた。「そして、何を、隠されようとしているのか」
二人は、高度を落としながら、静かに、その神聖な国へと、降り立っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
軽口を交わしながらも、その奥に確かな緊張を抱えたまま進む二人——「魔王側に着くつもりなのか」という問いに、証拠なき中での率直な葛藤を答えるジェクスの姿を描きました。荘厳な尖塔が見えてきたところで、いよいよノルド神聖王国へ。シグルドは、一体何を見つけたのか——次話もお楽しみに。




