第11話 王都への招待状
お待たせしました、第十一話です。前話でようやく辿り着いた祭壇の魔石――そこに待っていたのは、これまでとは格の違う相手でした。今回はジェクスたちの連携と、後に響いてくる「引っかかり」を意識して書いています。楽しんでいただければ幸いです。
ギルドに届いた一通の書状が、ジェクスの手元に回ってきたのは、魔石騒動が片付いてしばらく経った頃だった。
「――王都から?」
「今回の魔石奪還の功労者として、王都でのささやかな式典に招かれてる。国宝級の代物だったからな、無下にもできん」ガルドナーが肩をすくめた。「カイド、お前も一緒に行け。ドルガンの兄が王都にいる。ついでに顔を出してこい」
「ドルガンさんの、兄?」
「錬金術屋だ。通り名は『アルケミスト』。……行けば分かる」
王都までは馬車で二日。カイドは道中、珍しく口数が多かった。
「王都、久しぶりだな」
「行ったことあるのか」
「養子になる前、ちょっとな」
それ以上は語らず、カイドは窓の外に視線を移した。ジェクスもそれ以上は聞かなかった。
式典当日、王都の広場は人で溢れていた。国旗、装飾、露店の呼び込み。地方都市とは比べ物にならない規模の賑わいに、ジェクスは素直に圧倒された。
(――想定録に、新しい項目が増えそうだ)
式典に向かう列に並んでいる最中、警備にあたる騎士団の一団が、広場の脇を横切っていった。
先頭に立つ女性騎士と、一瞬だけ目が合った気がした。整った所作、隙のない歩き方。だが、それだけならすぐに視線を外していただろう。
(――何だ、今の)
頭の奥の書庫が、一瞬だけ奇妙な反応を示した。分類できない、棚のどこにも収まらない感触。6話で感じたものと、どこか似ている気がした。
「――あれが副団長のアリシャ様だってさ」
列の後ろの方で、誰かがそう囁くのが聞こえた。だが、その名前と今の違和感を結びつける前に、列は動き出し、女性騎士の一団は雑踏の向こうへ消えていった。
(――気のせいか。……いや、また、か)
式典自体は、あっという間に終わった。国からの謝辞と、名ばかりの記念品。ジェクスにとっては、正直なところ式典よりも、その後にドルガンの兄と会う方がよほど興味深かった。
王都の一角、煙突から絶えず煙を吐く工房。中に入ると、ドルガンとよく似た顔立ちの男が、フラスコを片手に何かを煮詰めていた。
「――お前がジェクスか。弟から聞いてる。ドルファンだ。通り名はアルケミスト」
「よろしく」
「あの牙、面白い素材だったってな。今度俺の作った触媒とも合わせてみたい」
その後の会話は、ジェクスにとってはほとんど専門用語の羅列だったが、ドルファンの目の輝きだけは、弟のドルガンとよく似ていた。
工房を出た後、二人は屋台で軽く食事を取った。日が傾き始めた頃、カイドが不意に口を開いた。
「――なあ、ジェクス」
「なんだ」
「お前、ヴォルカニスの時も、旧市街の時も……いつも、俺より先に行ってるよな」
珍しく、棘のない声だった。
「悪気があって言ってるんじゃない。ただ……このままじゃ、俺はずっとお前の後ろにいるだけな気がしてな」
「別にそんなつもりは」
「分かってる。お前が手加減してるわけじゃないのも。……だからこそ、腹が立つんだよ。お前は何もしてないのに、勝手に差がついていく」
カイドは、それだけ言うと、しばらく黙り込んだ。
「――俺、修行に出ようと思う」
「今から?」
「ああ。オヤジには悪いが……このままギルドにいても、お前の背中を追いかけるだけで終わる。それは、嫌だ」
その目には、以前のような嫉妬ではなく、もっと真っ直ぐな決意が宿っていた。
「行くあてはあるのか」
「今から探す。……でも、決めてる。次にお前と並んだ時は、ちゃんと隣に立てるようにする」
ジェクスは、その言葉に小さく頷いた。
「待ってる」
短いやり取りだったが、それで十分だった。
王都からの帰り道、ジェクスはふと、あの一瞬すれ違った女性騎士のことを思い出していた。想定録のどこにも、あの違和感の正体を示す項目はない。
(――まあ、いい。いずれ分かることだろう)
そう結論づけて、ジェクスは馬車の窓に頬杖をついた。
今回はこれまでで一番、ジェクスが「受け身」に回った回になりました。全部を見切れない相手というのは書いていて緊張感がありましたが、その分、次に繋がる引っかかりを残せたかなと思います。次話では帰還後の後日談を挟みつつ、少しずつ動き出す糸を描いていく予定です。ここまで読んでくださってありがとうございます。




