第109話 始まりの7柱
魔王から告げられる、具体的な取り決めをお届けします。
「――条件は、単純だ」
魔王は、懐から、掌に収まる程度の、小さな鏡を取り出した。
「――これを持っていけ。連絡用の魔道具だ。……この鏡越しに、俺と話せる」
ガレスが、その鏡を、慎重に受け取った。
「――話し合いの期日は、5日でいい」魔王は、続けた。「10日経ったら、こちらから連絡する」
「――10日、か」
「――ああ。それと」魔王は、静かに、続けた。「お前らの方でも、神の伝承を調べてみろ。……お前ら自身が、神が本当に害ある存在だと判断できたなら、5年の猶予をやる」
「――5年?」
「――その間に、俺を倒せるほどの強者を、7人揃えろ」魔王は、静かに、しかし確かな重みを込めて、そう告げた。「その間、神々は、俺がどうにか食い止めておいてやる」
「――なぜ、7人だ」ジェクスが、思わず、尋ねた。
「――この世界の神々は、元々、七柱の"始まりの神"から分かれた存在だ」魔王は、静かに答えた。「7という数字は、あいつらの、根源そのものを象徴する数だ。……それだけじゃない」
魔王は、続けた。
「――神々が、各世界の強者を戦わせているスタジアム。その試合形式は、7対7だ。……もし、お前らが本気で、あいつらの土俵に自ら乗り込むつもりなら――ちょうど、7人揃える必要がある」
「――なるほど」ジェクスは、静かに頷いた。「象徴的な意味だけじゃなく、実際のルール上も、7人ってことか」
「――理解が早いな」
その説明に、討伐隊の面々は、静かに頷いた。
「――ただし、忠告しておく」魔王は、続けた。「今日、俺が話したこと――神々は、既に聞いているかもしれん」
「――なっ……」
「――何かしらの嫌がらせをしてくる可能性はある。だが、そっちは、俺がどうにかする」魔王は、静かに、そう言い切った。「5年だけ、俺が食い止めてやる。……その間に、7人を揃えて、強くなってこい」
「――分かった」ガレスは、鏡を懐にしまいながら、静かに頷いた。
その一言に、討伐隊の面々の間に、静かな安堵が広がった。
魔王は、静かに、玉座へと戻っていった。崩れかけた広間に、静寂が、再び、満ちていく。
「――帰るぞ」ガレスが、討伐隊の面々を見渡しながら、静かに言った。「積み重ねてきたもの――それを、これからどう使うか。それを決めるのは、俺たちだ」
その言葉に、誰もが、静かに頷いた。
崩れかけた根城を後にしながら、ジェクスは、想定録の棚に、これまでにない重い問いを、静かに刻んでいた。
(――俺たちは、これから、何を選ぶんだろうな)
その答えは、まだ、誰にも分からなかった。
***
飛行船へと戻った討伐隊は、すぐさま、次の行動へと移った。
「――まずは、バスティアに連絡だ」ギルが、通信用の魔道具を取り出しながら言った。「ここで話し合っても、埒が明かねえ。……俺の国から、王都に話を通す」
「――頼めるか」ガレスが、静かに尋ねる。
「――当然だ」ギルは、不敵に笑った。「これほどの話、俺一人の胸に収めとくわけにもいかねえしな」
魔道具越しに、ギルの声が、バスティアへと届けられていく。
「――こちら、司令官ギルだ。……緊急事態発生。魔王討伐隊より、至急、五大国連絡網の招集を要請する」
その一言に、通信の向こうで、僅かなどよめきが起きるのが分かった。
「――王都には、俺から伝えます」オルグレンが、静かに続けた。「国王陛下にも、直接、報告する必要がある」
「――五大国全部を、巻き込むのか」カイドが、思わず、呟いた。
「――ああ」ガレスは、静かに頷いた。「一国だけの判断で、決めていい話じゃない。……連絡の取れる、全ての国を巻き込んで、話し合う」
その言葉に、討伐隊の面々の表情が、それぞれ、引き締まっていった。
「――正直、信じてもらえるかどうかも、分からない」アイラが、不安げに呟く。
「――だろうな」オルグレンが、静かに答えた。「長年、"魔王は悪だ"という常識が、この世界には根付いている。……そう簡単には、覆らない」
「――それでも」ジェクスが、静かに、口を開いた。「話さないわけにはいかない。俺たちが見て、聞いたことは――伝える価値がある」
その一言に、誰もが、静かに頷いた。
飛行船は、王都へ向けて、静かに、その進路を取った。
窓の外に広がる夜空を見つめながら、ジェクスは、想定録の棚に、新たな一項目を、静かに刻み込んだ。
(――ここから先は、剣だけじゃ、片付かない戦いだ)
世界そのものの在り方を問う、大きな決断――その入り口に、討伐隊は、今、立っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
5日という期限、鏡の魔道具、そして「7人揃えて強くなってこい」という重い課題——象徴的な意味と実務的な理由、両方を兼ねた「7」という数字にも、納得感を持っていただけたら嬉しいです。飛行船に戻り、ギルがバスティアへ連絡、そして五大国を巻き込む世界会議へ——物語は、いよいよ大きな局面を迎えます。
次話もお楽しみに。




