第108話 猶予宣告
静寂を破ったのは、突如として響いた怒声でした。
崩れかけた広間に、重い沈黙が満ちていた。
その静寂を破ったのは、突如として響いた、怒声だった。
「――おいおいおい!」
瓦礫の陰から、ゼインが、姿を現した。その目だけが、異様な光を放っている。
「――なに、戦いが終わったみたいな感じになってんの?」ゼインは、魔王を睨みつけた。「おい! 神だ、なんだ、俺には関係ねーんだよ!」
「――ゼイン……」レトゥスが、静かに、その名を呼ぶ。
だが、ゼインは、止まらなかった。
「――俺は、世界を壊したいんだーー!!」
その絶叫とともに、ゼインの体から、黒い雷が、無秩序に迸った。狙いは、ただ一点――ジェクスだった。
「――死ねぇ、ジェクスーー!」
その刃が届く、寸前だった。
「――悪いな」
背後から放たれた一撃が、ゼインの首筋を、正確に捉えた。ゼインの体が、糸の切れた人形のように、崩れ落ちる。
「――レトゥス……」ジェクスが、警戒を解かないまま、その名を呟いた。
レトゥスは、気絶したゼインを、静かに見下ろした。
「――こいつの言ってることも、まあ、もっともだよ」レトゥスは、静かに言った。「……俺も、神の戦争になんぞ、興味はねえ」
その言葉に、魔王が、僅かに目を細めた。
「――俺は、俺なりに、さらに上を目指す」レトゥスは、ゆっくりと、魔王へと向き直った。「育ててくれたことには、感謝してる。……だが、ここで、お別れだ」
「――そうか」魔王は、短く、そう答えた。
「――俺が、ギフト持ちじゃなくて、悪かったな」
その一言を最後に、レトゥスは、気絶したゼインを担ぎ上げ、闇の中へと、静かに姿を消していった。
その光景を見つめながら、討伐隊の面々の間に、動揺が広がった。
「――育ててくれた、って……」オルグレンが、低く、呟く。
「――ああ」魔王は、静かに答えた。「あいつは、俺の養子だ。……ずっと昔、拾ったんだよ」
その告白に、その場にいた誰もが、言葉を失った。四天王とすら対等に渡り合っていた、闇ギルドの創設者――その正体が、今、初めて明かされていた。
***
重い沈黙の中、静寂を破ったのは、ガレスの声だった。
「――一度、話を王都に持ち帰らせてもらう」
「――何?」
「あんたの言ったことが、全部本当だとしても……正直、話が大きすぎる」ガレスは、静かに、しかし真っ直ぐに、魔王を見据えた。「このまま、俺たちだけで判断していい話じゃない」
魔王は、しばらくの間、無言のまま、ガレスを見つめていた。
「――つまり、こういうことか」魔王が、静かに口を開いた。「ジェクス、あるいは他の誰かに、もっと強くなる可能性があれば――共に、神々を倒す道もある、と」
「――その可能性は、否定しない」ガレスは、頷いた。「だが、今この場で、答えを出せるほど、軽い話じゃない」
「――で、お前らは、何を望む」
「――一つ、取り決めをさせてほしい」ガレスは、静かに続けた。「バスティアへの侵攻――魔族や魔物が暴れないよう、統率を頼みたい。その間に、俺たちは、国へ持ち帰って、皆で話し合う」
その提案に、魔王は、しばらく沈黙した。
「――……いいだろう」
その一言に、討伐隊の面々の間に、静かな安堵が広がった。
「――ただし、条件がある」魔王は、静かに、続けた。「詳しい話をしよう」
その一言に、ジェクスは、静かに、拳を握りしめた。
(――これで、終わりじゃない。……まだ、決めなきゃいけないことが、山ほどある)
崩れかけた根城の中、緊張感を保ったまま、次の言葉が、静かに待たれていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ゼインの怒りに満ちた乱入、そしてレトゥスの意外な離脱宣言——「俺が、ギフト持ちじゃなくて、悪かったな」という一言に、これまで謎に包まれていた彼の正体が明かされました。ガレスの提案から、魔王との対話は、次なる局面へと進んでいきます。
次話もお楽しみに。




