第107話 神とは
「神とは何なのか」——ついに、その核心が語られます。
崩れかけた広間に、魔王の声だけが、静かに響いていた。
「――お前らの言う"神"というものが、一体何なのか。……まずは、そこから話してやろう」
魔王は、玉座に深く腰掛けたまま、ゆっくりと語り始めた。
「――簡単に言えば、神も、お前らが想像してるような、全知全能の存在じゃない」
「――どういう、ことだ」ガルドナーが、低く尋ねる。
「――神にも、ギフトのような、司るものがある。太陽のギフト、植物のギフト、海のギフト……お前らがこの世界で"自然"と呼んでいるものは、全部、神々がそのギフトと力で作り上げたものに過ぎん」
その言葉に、討伐隊の面々が、息を呑んだ。
「――ジェクス。お前らの元いた世界で言う、ビッグバンとやらも、な」魔王の視線が、ジェクスへと向けられた。「あれは、ただの、神々同士の戦争で起きた爆発だ。あれだけの魔力を持った連中がぶつかり合えば、宇宙規模の爆発なんぞ、当たり前だろう」
「――そんな……」ジェクスは、思わず、言葉を失った。
「――この世界が生まれる前から、あいつらは、ずっと戦い続けている」
魔王は、そこで、一拍、間を置いた。
「――そして、俺や、神と呼ばれる連中も――お前らで言えば、人間族やエルフ、ドワーフと言った、種族の一つに過ぎない」
「――種族の、一つ?」オルグレンが、眉を寄せる。
「――ああ。お前らが俺を"魔王"と呼んでいるだけだ。……俺は、神と人間の間の種族だ」
その一言に、広間の空気が、一変した。
「――神が、遊びで人間と交配して生まれたのが、俺だ」魔王は、感情の読めない声で、静かに続けた。「俺のような混血は、純血のみが住む天界には、入れてもらえん。……酷い迫害を受けたよ。だから、この世界に降り立って、神々を滅ぼすことを決めた」
「――迫害……」アリシャが、思わず、呟いた。
「――神々は、それぞれ、自分の世界を持っている」魔王は、続けた。「お前にギフトを与えたのは、この世界の神だ。……つまり、俺の、父に当たる存在だな」
「――なっ……」
「――神ってのは、常に暇でな」魔王の口調に、初めて、僅かな苦々しさが滲んだ。「その世界の強者同士を、専用のスタジアムで戦わせて、それを見て楽しむんだよ。参加してる強者は、自分の世界を救うためだと信じて戦ってるがな」
その言葉に、ジェクスの背筋が、凍りついた。
(――俺たちが、これまで戦ってきたのも……)
「――俺は、そんな神々を、許さない」魔王は、静かに、しかし確かな怒りを込めて、そう言い放った。「お前らは、どう思う?」
沈黙が、崩れかけた広間を、重く包み込んだ。
誰も、すぐには、答えられなかった。あまりにも大きすぎる真実が、一気に押し寄せてきていた。
「――俺の魔力が、覚醒もなしにあれだけあった秘訣も、な」魔王は、静かに続けた。「俺は、神の血を引いている。……それだけの話だ」
その説明に、誰もが、言葉を失っていた。
「――ちなみに」魔王は、続けた。「お前らが信じてきた、太古の大魔法使いが転移の仕組みを作った、なんて話は、ただのおとぎ話だ。神々が、都合よく俺を悪者にするために、広めた作り話に過ぎん。……もっとも、魔物や魔族が死んで魔力濃度が上がり、お前らの世界に悪影響が出るのは、事実だがな」
「――じゃあ、あの噴火の危険性も……」ガルドナーが、低く呟く。
「――現象自体は、本当だ。ただ、その原因を俺たちに押し付けた物語の方が、嘘だっただけだ」
魔王は、静かに、玉座から立ち上がった。
「――俺が、打倒神々を掲げ始めてから、ちょうど三百年ほどか」
その一言に、部屋の空気が、また一段と重くなった。
「――俺や神々にとって、死というのは、お前らとは違う」魔王は、続けた。「玉座や、俺に関する聖遺物に、祈りと魔力を注げば、こうして復活できる。……信仰心ってのが、大切なんだ」
「――だから」ジェクスが、静かに、口を開いた。「お前らを倒す方法も、ちゃんとある、ということか」
「――ああ」魔王は、僅かに、口の端を上げた。「察しがいいじゃないか」
沈黙が、崩れかけた広間に、静かに満ちていった。
これまで積み重ねられてきた、あらゆる疑問――その答えの全てが、今、明かされていた。だが、それは、決して救いをもたらす答えではなかった。むしろ、この世界そのものの在り方を、根底から揺るがすような、重い真実だった。
「――お前たちが、俺の言葉を信じるかどうかは、勝手だ」魔王は、静かに、続けた。「だが、事実は、事実だ。……さて」
魔王の視線が、ゆっくりと、討伐隊の面々を見渡した。
「――これからどうするかは、お前ら次第だ」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
神も全知全能ではなく、種族の一つに過ぎない——その衝撃の真実から、魔王自身の出自、そして300年にわたる戦いの理由まで、これまで積み重ねられてきた疑問が、一気に明かされました。「これからどうするかは、お前ら次第だ」という魔王の言葉が、重く響きます。
この真実を受けて、討伐隊はどう動くのか——次話もお楽しみに。




