第105話 エクス・ヘフレクシオ
魔王に「あと一歩」届かない、そんなもどかしい状況が続いていたジェクスたち。そこに、思わぬ助っ人が、轟音とともに駆けつけます。
仲間たちの援護を受けながら、ジェクスは、着実に、魔王との間合いを詰めていった。
だが――。
「――くそっ! あと少し、届かねえ!」
一歩、また一歩と迫るたび、まるで見計らったかのように、新たな触手が壁となって立ちはだかる。決定打には、あと僅かに、手が届かなかった。
その時だった。
その時、けたたましい轟音とともに、頭上の壁が、内側から突き破られた。石材が、粉々に砕け散りながら降り注ぐ中、一隻の小型船が、そのまま、建物の中へと突入してきた。
「――なっ!?」
船から飛び降りてきたのは、見覚えのある二つの人影だった。
「――オヤジ!? それに、剣聖様まで!?」カイドが、目を見開く。
「――洞窟の件で、戦力が分散したって話を聞いてな」ガルドナーが、不敵に笑った。「試作機じゃない、完成品を借りてきた。バスティアの連中、随分と気前が良かったぜ」
「――まさか、魔王との戦闘中に、間に合っちまうとはな」
その言葉とともに、ガルドナーの体が、瞬時に、変貌を始めた。全身を覆う黒豹の毛並み、鋭く伸びる爪――幻獣の力を纏った、本来の姿だった。
その傍らで、剣聖が、静かに剣を構えた。
「――たまには、本気で振るか」
その一言だけで、周囲の空気が、一変した。
「――行くぞ!」ガルドナーが、地を蹴る。
二人の参戦で、戦況は、一気に動いた。ガルドナーの爪が、剣聖の一閃が、次々と触手を斬り払っていく。その勢いに乗り、討伐隊全体の攻勢も、さらに勢いを増していった。
「――ここまでか」
魔王の声は、静かなままだった。だが、その奥に、僅かな品定めの色が滲んでいた。
「――ならば」
魔王は、周囲に展開していた無数の触手を、一気に、一本の巨大な槍へと収縮させた。それを、片手で無造作に持ち上げると、大きく薙ぎ払う。
「――散れ!」
その一薙ぎだけで、周囲の敵味方が、一斉に吹き飛ばされた。
「――ジェクス、お前だけは、逃さん」
槍の穂先に、禍々しい魔力が、急速に凝縮していく。以前、ジェクスの胸を貫いた、あの闇の炎――同じ気配だった。
(――あれか)
ジェクスは、想定録の棚を、猛烈な速さで巡らせた。あの一撃を受けた瞬間の感覚――全身を蝕んだ、闇の波長。それを、今、はっきりと、思い出すことができた。
デュオ・プロヴィーサ、二振りの剣を、静かに構え直す。
(――右手には、最大まで高めた炎の波長)
炎剣の刃に、これまでにない密度の炎が、渦を巻いて纏わりついていく。
(――そして、左手には)
もう一振りの刃に、ジェクスは、あの日、身をもって味わった、闇の波長を、意識的に流し込んでいった。異質な感覚に、体の奥が、微かに軋む。だが、構わず、その波長を、最大まで引き上げていく。
「――喰らえ!」
槍の穂先が、放たれた。漆黒の閃光が、真っ直ぐに、ジェクスへと突き進んでくる。
(――同時に、二つの波長を、魔法として重ねることはできない)
想定録の棚が、一つの結論を、静かに導き出す。
(――だったら、剣を、重ねればいい)
ジェクスは、両手の剣を、頭上高く掲げ、Xの字を描くように、静かにクロスさせた。
「――X reflexio!」
頭上で交差させていた両の剣を、ジェクスは、そのまま、真正面へと振り下ろした。二つの刃が、体の前で、鋭くクロスする。
炎の波長と、闇の波長――本来は異なる二つの力が、同じ波長へと揃えられ、刃の上で、一つの奔流となって、迎え撃つ。
激突の瞬間、世界が、白く染まった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ガルドナーと剣聖の登場、そして2人の参戦で一気に変わる戦況——「たまには、本気で振るか」という剣聖の一言にも痺れました。同時に二つの波長を魔法として重ねられないなら、剣そのものを重ねればいい——ジェクスらしい発想から生まれた新技「エクス・レフレクシオ」、その激突の行方は次話へ続きます。
次話もお楽しみに。




