第100話 魔王
ついに第100話です。
魔王の根城へ。そこで待っていたのは——。
五人が再び顔を揃えた日、討伐隊は、ついに、根城への進軍を再開した。
道中、誰からともなく、奇妙な感覚を口にする者が現れた。
「――なあ、これ……導かれてる、気がしねえか」ダグラスが、周囲を見渡しながら呟いた。
「――俺も、同じことを思ってた」ガレスが、険しい表情で頷く。
まるで、進むべき道が、初めから決まっていたかのように、地形も、魔族の出現も、不自然なほど、一つの方向へと誘っていた。
やがて、その先に見えてきたのは、荒野の中央に聳え立つ、異様な建造物だった。城とも、教会とも呼べる、両方の意匠が混ざり合った、人工的な建築物。
「――あれが、根城か」
その威容に、討伐隊の誰もが、言葉を失った。
ジェクスたちが、その正面に立った瞬間、巨大な扉が、音もなく開いた。
「――待ってたぜ」
低い声が、中から響いた。ゆっくりと足を進めると、そこには、四天王の残る二体――カテナとイグニス、そしてレトゥスとゼインが、揃って待ち構えていた。
「――全員揃ってんな」レトゥスが、口の端を吊り上げる。「随分と、待たせてくれたじゃねえか」
「――お前ら」カイドが、剣の柄に手をかけた。
その動きに呼応するように、ゼインの表情が、憎悪に染まっていく。視線の先に捉えたのは、ジェクス、ただ一人だった。
「――ジェクスーーー!!」
怒りに満ちた叫びが、ホール全体を震わせた。今にも飛びかからんばかりのゼインを、レトゥスが、片手を上げて制した。
「――待てよ。今は、そういう空気じゃねえ」
「――どういうことだ」
「――奥で、魔王がお待ちだ。……お前らに、話がある、とよ」
その言葉に、討伐隊の面々が、顔を見合わせた。
「――信じられるのか、そんな話」オルグレンが、低く唸る。
「――信じるか信じねえかは、お前ら次第だ」レトゥスは、静かに、道を空けるように、脇へと退いた。「ただ、今ここで暴れる気なら、それはそれで構わねえがな」
戦うべきか、進むべきか――重い沈黙の後、ジェクスが、静かに一歩を踏み出した。
「――行きましょう。……ここまで来て、引き返すわけにはいきません」
その言葉に、討伐隊の面々が、覚悟を決めたように、後に続いた。四天王とレトゥス、ゼインの間を抜け、その奥――魔王が待つ部屋へと、討伐隊は、静かに足を踏み入れていった。
奥の間は、玉座を思わせる、荘厳な造りをしていた。その中央、闇に溶け込むようにして、一つの影が、静かに座していた。
「――よく来た」
低く、重い声が、部屋全体に響き渡った。討伐隊の誰もが、その気配だけで、息を呑んだ。
「――話がある、と聞いたが」オルグレンが、警戒を崩さぬまま、口を開いた。
「――ああ。……なぜ、俺が、人類と争っているのか。その理由を、聞かせてやろうと思ってな」
魔王は、ゆっくりと、玉座から立ち上がった。
「――神々が、なぜ貴様ら下等生物にギフトを与えるか。分かるか?」
誰も、答えられなかった。
「――この世界で、強く育つ者を見るためだ」魔王は、静かに続けた。「そいつが十分に強くなった時、兵器のように、神々の戦場へと送られる。……そういう仕組みだ」
その言葉に、討伐隊の間に、動揺が広がった。
「――俺は、そんな酷いことはしない」魔王は、そう言うと、微かに口の端を上げた。「ギフトさえ抽出できれば、俺が、神々を殺してやる。……戦争を、終わらせてやる」
「――ふざけるな」ジェクスが、思わず声を上げた。
「――ふざけてなどいない」魔王の声が、僅かに低くなった。「神にこき使われて死ぬか、俺にギフトを献上して死ぬか。……貴様らにとっちゃ、大した違いじゃあるまい」
その論理に、誰も、すぐには言葉を返せなかった。
魔王は、そこで、値踏みするように、討伐隊の面々を見渡した。
「――もう少し、強くなってくれていれば、な」
その一言に、空気が、一段と重くなった。
「――せめて、魔力100万は、超えていてほしかったところだ」魔王は、明らかな落胆を滲ませながら、続けた。「それくらいの力があれば、味方として受け入れてやっても、良かったんだがな。……あの洞窟を出て、その程度とは」
魔王の目が、冷たく細められた。
「――ゴミめ」
その一言が、静まり返った部屋に、重く響き渡った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
記念すべき100話、いかがでしたでしょうか。「導かれてる気がしねえか」という違和感から始まり、四天王とレトゥス、ゼインが待ち構える根城へ。そして、ついに姿を現した魔王の口から語られた、衝撃の真実——「神々が人間にギフトを与える理由」「兵器として送られる運命」。歪んだ論理で自分を正当化する魔王の存在感、そして「ゴミめ」という一言に込められた侮蔑が、読者の皆様にも伝われば嬉しいです。
ここまで長い道のりでしたが、まだ物語は続きます。次話もお楽しみに。




