第4話『それでも、わたしは悪くない』
暗い。
狭い。
冷たい。
ここは、どこだろう。
ぼんやりとした頭で、天井を見上げる。
石。
ひび割れた石。
ああ、そうか。
牢だ。
(どうして、こんなところにいるの?)
思い出そうとする。
でも、うまく繋がらない。
広間。
声。
あの女。
――笑っていた。
そこまで思い出して、体が震えた。
「違う……」
小さく呟く。
違う。
あれは、何かの間違いだ。
だって。
わたしは、被害者で。
守られる側で。
愛されるはずだったのに。
「違う……」
もう一度、繰り返す。
そうしないと、壊れてしまいそうだった。
足音がする。
重い扉が開く。
誰かが入ってくる。
看守だ。
無言で、皿を置く。
固いパンと、水。
それだけ。
「ねえ」
声をかける。
「これ、間違いよね?」
返事はない。
「だって、わたし……」
言葉が詰まる。
なんて言えばいいのかわからない。
かわいそうで、
守られるべきで、
選ばれるはずの存在だって。
それを、どう説明すればいいの?
「ねえ……」
すがるように、もう一度呼ぶ。
でも、扉は閉まる。
重い音を立てて。
完全に。
隔てるように。
静寂が戻る。
何もない。
誰もいない。
ただ、自分だけ。
そのとき。
ふと、思い出す。
『あの女さえ消えれば、全部あたしのものになるのに』
あの声。
あの瞬間。
全部、終わった。
でも。
(違う)
頭を振る。
違う。
あれは、本音じゃない。
ただの、勢いで。
ほんの少し、思っただけで。
誰だって、そう思うことはある。
それだけで、こんな目に遭うなんて、おかしい。
(おかしい)
そうだ。
おかしいのは、あの女だ。
全部、あの女が悪い。
わたしを陥れた。
騙した。
奪った。
だから――。
「……あの人がいなければ」
ぽつりと、呟く。
その言葉は、自然に出てきた。
前と同じように。
何も変わらない。
何一つ。
その瞬間。
自分で、自分が理解できなくなった。
どうして、まだ同じことを考えているの?
どうして、変われないの?
なのに。
その思考は、止まらない。
止められない。
(だって、わたしは)
最後に残ったのは、たった一つの確信。
それだけだった。
「……悪くない」
小さな声。
誰にも届かない。
でも、確かにそこにある。
壊れても。
失っても。
全部終わっても。
それだけは、残り続ける。
――救いのないまま。
※それでも彼女は変わらない。




