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チャンプルーファンタジー  作者: 新里胡差
琉球 硫黄鳥島編
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第147話 それぞれの恨み

 海乱鬼かいらぎの男は意気揚々と、寝返る可能性がある理由を語り始めた。


「俺たちは正直言って、今のお頭を心の底からしたってないんだ。俺たち荒くれ物は実力がものをいうが、今のお頭は世襲でしかなくこころよく思っていない連中が大半なんだぜ。やられちまったお頭の両親は、みん出身と大和やまと出身海賊でそれぞれ最強だったんで、満場一致で従っていたんだけどな」


「それじゃあ、海乱鬼の中で一番強い人を負かしちゃえばいいってこと?」


「操られていた唐船とうせん兵を無力化した時点で、俺たちは戦意喪失さ。後は、確保してから交渉すれば、喜んで寝返ると思いますぜ」


 硫黄鳥いおうとり島に来るまでに襲ってきた海乱鬼はすべて確保している。後は、島にいる残りを捕まえればよいだけなので意外と簡単にいけるかもしれない。


 すると、丁度のタイミングで北の方から約20人の海乱鬼が異常なまでに息を切らし走ってきて、お頭の女性が唐船兵に向かって叫んだ。


「おい、唐船兵! 向こうから追ってくる奴らをやっちまいな!」


いったー(お前たち)は海乱鬼の!? よくもあの時は傷みつけてくれたな!」


 1人の唐船兵の怒りが全体に広がると、殺気で圧倒された海乱鬼たちは、お頭以外膝から崩れて絶望していた。


「なんてこった。正気に戻ってやがる。や、野郎ども逃げるぞ!」


 誰1人恐怖で体が動けずにいると、唐船兵が一斉に襲い掛かってきた。

 先頭に立つお頭に刀が振り下ろされるその時、護佐丸がその刀を弾き飛ばして2人の間に入った。


「ひどいことをされたことはわかっているが、ここは手を引いてくれないか」


「助けに来てくれたことには感謝します。ですが、我らに命令を下せるのは琉球国王のみ。いくら護佐丸ごさまる按司あじとて、その願いを受けることはできません」


 護佐丸より先に阿麻和利あまわりが刀を抜き、怒号を上げた。


やーは(お前は)按司よりもあがやーか(身分が上なのか)? 一兵士の分際で護佐丸殿の願いを拒否するとは何事か!」


「で、ですが……」


「按司2人からの命令だ。刀を納めろ」


「王に話を通さなければ、聞けません」


 阿麻和利は口答えをする兵士の男を本気で切り殺しそうな雰囲気をかもし出していたが、護佐丸が制止させて最後の忠告をした。


くまー(この場所)で一番あがやー(身分が上)の命令を聞かないお前のその対応は、そのまま王の意思だと受け取った」


「ご理解感謝します」


「理解? 馬鹿を言うな。按司あじの言葉を軽んじる琉球王国とは手を切るに決まっているだろう。阿麻和利はどうだ?」


「もちろんです」


 唐船兵の男は事の重大さに気が付き、地に額をこすりつけた。


わっさいびーん(すみませんでした)! あなた方2人を失うことは琉球にとって最上の損失となってしまいます。皆を鎮めますのでどうか、考え直してくださいませ!」


 私はとりあえず、逃げる可能性のある海乱鬼のお頭を鞭で拘束する。

 それから、護佐丸と阿麻和利の対応が大げさに感じていたので、困惑しながら阿麻和利に尋ねてみた。


尚忠しょうちゅう王の命令がないと動けないだけで、どうしてこんなに厳しくしないといけないんですか?」


 土下座し続ける男の首に刀を当てた阿麻和利が、この状況に至るまでにどういう思惑があったのかを私にもわかるように説明してくれた。


「こいつは勝手に王の名を使い、己の気晴らしをしたいがために按司の命令をないがしろにした。王の勅命で動く隊というだけで、王だけの命令を聞かないといけないわけではないのです。周りから最強と言われ続けたせいで、図に乗っているのですよ」


「そうなんですか……だけど、手を引いてくれるみたいなので、ここは怒りを抑えて処分は尚忠王にゆだねることにしましょうよ。帰路ではお互い協力しなきゃですから」


 護佐丸と阿麻和利は私に謝り、気持ちを切り替えて唐船兵を指揮して海乱鬼の捕縛と硫黄鳥島の住民の安否確認に取り掛かった。






 萌萌モンモンとの話が終わり歩くペースを上げて海乱鬼のお頭一行を追っていったが、すでに琉美たちが捕縛していた。

 マジムン(魔物)化していた唐船兵たちも正気に戻り、島を出る準備を始めようとしている。

 休憩している琉美とお互いの出来事や知りえた情報を共有しあい、琉美の提案した海乱鬼を寝返らせ仲間にするために、唐船兵兵長の那喜丸なきまると海乱鬼側からはお頭とナイフ男を交えて更に情報共有することにした。


「まずは、那喜丸さんに教えてもらいたいことがあります。海で捕らえた海乱鬼の団長に、唐船兵が海乱鬼の拠点に乗り込んできたと言っていましたが、そこら辺の経緯いきさつを聞かせてくれませんか?」


わかやびたん(わかりました)。順を追って説明します」


 正気でなかったためどれくらいの期間たったかは定かではないが約1カ月前、唐船護衛がない時の仕事である琉球近海の巡視をしていると、不自然に空を飛び回るサシバマジムンに遭遇した。

 唐船兵自慢の遠距離攻撃を悠々と回避されて苛立っていると、サシバマジムンの背に乗っていた舜天しゅんてんが被害のない程度で攻撃をしながら逃げていくので、全力で追っていった。

 今思えば、誘導されていただけだったと那喜丸は悔しがっている。


 しばらく追いかけると、いつもは通ることのなかった海域にポツンとある小島に舜天が降り立った。

 そこには海乱鬼の船が停船していたのですぐに海乱鬼の拠点だと認識した。

 2つの勢力と同時に戦うのはまずいと思っていたが、そこにいたはずの舜天はどこかに飛び去って行ったので、舜天から切り替えて海乱鬼を拠点ごとつぶすことになる。


 組織ごと解体することは唐船兵にとって最も優先させるべき仕事で、これほどの好機はめったにおとずれない。

 不意打ちで拠点に乗り込んだので、油断していた数十人の海乱鬼を容易に蹴散らし、完全制圧も時間の問題だと油断してしまった。


 しばらくすると、初めのほうで拠点の奥に逃げていた多数の海乱鬼が、ヒンガーセジ(汚れた霊力)まとった状態でぞろぞろと現れ、激しい乱戦が起こる。


 有利な条件かつ実力の差もかなりあった唐船兵が、何もできないままいとも簡単に制圧されてしまったという。

 それからのことは記憶があいまいと言っているのは、ヒンガーセジ(汚れた霊力)に侵されていてマジムン化していたからだろうか。


「舜天は唐船兵と海乱鬼の両方を戦力としつつ、萌萌とお頭をうまく利用して俺を殺そうとしていたんだな」


 海乱鬼のお頭が拘束をわずらわしそうにしながら、愚かな否定をしてきた。


「利用したのはくまでアタイのほうさ。舜天様に恨みはないけど、そこんとこ勘違いしないでほしいね」


 ナビーがわざとらしく大きなため息をつき、あきれながらお頭に説明をした。


「はっさよー、あんたはまだわからないのか? 萌萌に復讐とか言っているけど、あんたの両親に中途半端に力を与えて、萌萌たちの船を襲わせたのは舜天さーね(だよね)? で、返り討ちにあって娘のあんたに憎しみを植え付けた。そのあとで萌萌と海乱鬼に接触したってことは、すべてが舜天の掌の上だったってことでしょうが」


 頭の中で整理するまで沈黙したお頭は、しばらくして全てに絶望した人のように先程までの目力を感じられなくなった。


「アタイも両親も使い捨てのこまだったってことかい……お願いだ、はやく首でもなんでもはねてくれないか。もう何もかもが疲れたよ……」


 覚悟を決めた表情の琉美が、力のこもった口調でお頭に言い放った。


「あなたを処刑させるつもりはありません。海賊はそもそもが犯罪者集団ということはわかっているけど、今回は舜天に利用された被害者です。なので、今回の件に関しての罪は問わないようにと、琉球王国側に嘆願たんがんするつもりです」


「アンタみたいな小娘の話、国王が聞くわけないだろう」


 那喜丸が不服そうにしながらも、琉美の言葉の重要性をこの場の者に理解させた。


按司あじである護佐丸様と阿麻和利様は、琉美さんの意思を最大限尊重するとのことです。それと、柴引しばひき様も按司の1人と同等に扱えともおっしゃっていました。3人の按司が支持する琉美さんの意見を王が無視することはないでしょう」


「それじゃあ、あいつらも殺されないってことだな?」


 ナビーは仲間の無事に安堵するお頭に、冷静に海乱鬼の立場を説明した。


「勘違いさんけーよ(するなよ)。今回の件に関しては見逃すってだけで、今までの海賊行為までは許すとは言ってないからな」


「なんだよ! 結局は死刑ってことか!? ぬか喜びさせやがって」


しわさんけー(心配するな)。琉球王国の兵として戦力に加わるなら、今までの罪をなくすことはできないけど軽くはできる。死刑は絶対にさせない事は約束しておくさー」


「何をバカげたことを……それに、小娘と呼ぶ事さえためらうくらいのガキが、なんでさっきから偉そうなんだよ。舜天の野郎はなんでこんな幼女に……」


 ナビーはヒヤー(火矢)を構え、ティンサグ(ホウセンカ)モードになっていた。


「えー! すぐらりんどー(ぶん殴るぞ)!」


 暴走しそうなナビーを萌萌がなだめて、会議から離れて落ち付かせてくれている。


「話が進まないからナビーをあおらないでくれよ。それに、ナビーは俺なんかより全然偉いし発言力もあるんだぞ」


「あのチビがか?」


「琉球で尚忠しょうちゅう王に面と向かって文句を言えるのはナビーくらいじゃないかな? それに、どの按司でもナビーには勝てないとだけは言っておく」


 お頭は琉美と那喜丸の顔をうかがい、俺の言葉が嘘ではないことを確認して急にしおらしくなった。海乱鬼は実力主義というのはお頭も例外ではないようだ。


 会議を再開しようとしたとき、今まで黙っていたナイフ男が我慢の限界を迎えたようでお頭に迫った。


「お頭、俺たち琉球の軍に寝返りましょうぜ!」


「このバカナイフ野郎! 海乱鬼の誇りを忘れたのか!?」


「冷静に考えてくれ。この場で処刑されてもおかしくないところから、一国の兵士にしてくれると言ってるんだぜ。こんな好機逃したくないだろ。しかも、俺たちをもてあそんだ為朝軍に仕返ししたくないのか?」


 仕返しの言葉に反応して、元の目力のある表情に変わっていった。


「……今のアタイは、敵意を向ける相手を間違えているってことか。はっはっは、生きる目的ができちまったじゃねーか」

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