第148話 不意の大物
海乱鬼を寝返らせることができたので、まだヒンガーセジに侵されてマジムン化しているお頭の浄化をお願いした。
「女の子の浄化はナビーにお願いしてもいいか?」
「黄金勾玉をたっくわすだけなのに、ぬー意識しているばー」
「意識してねーし!」
ナビーがあきれながら勾玉を近づけようとしたとき、お頭は慌てて避ける行動を見せた。
「待て。この力を奪わないでくれないか? これがないと復讐するにも力不足になっちまうし、琉球の戦力的にもこのままが良いのではないか?」
ナビーは問答無用で浄化を行う。
肩を落としすべてをあきらめた表情のお頭に、ナビーがマジムン化のリスクを語り始めた。
「私の大切な仲間だった男が、マジムン化して敵対関係になってしまったことがあるわけさ。為朝の鬼の力は不の感情を増幅して、仲間にまで敵意を向けてしまう。最終的には自我もなく人としていられなくなるから、この力に頼ったらだめだわけよ」
「その男、どうなったか聞いてもいいか?」
ナビーは悲しそうに空を見上げ哀愁込めてつぶやいた。
「あいつは星になったよ」
死んだみたいに言うなよ! とツッコミそうになったが、言わない方が浄化してよかったと思ってくれる気がしたので、言葉を飲み込んだ。ナビーはツッコミ待ちをして、横目でチラチラこちらを見ていたが。
話がまとまって一息ついたとき、無抵抗で暴行されたり思考を巡らせた影響で肉体的にも精神的にも急激に疲労感が襲ってきた。
舜天戦からの回復も十分ではなかったはずなので、無理しすぎたようだ。
「ごめんナビー。少し休んでもいいか? まだ体が本調子じゃないみたいで」
「ばんないすぐられてたからな。後は帰りの船の準備くらいだから、ゆくいみそーれ」
自分ができる仕事もなさそうなので、遠慮なくキジムナーの船に戻り休憩を取ろうとしたその時、南の沖から大きな影が頭上を横切り島の北側に飛んで行った。
翼の生えた4足歩行の獣に人が乗っている姿を確認できたとき、護佐丸が怒号を上げた。
「あれは大舜を乗せていた鵺だ! 阿麻和利、ここで越来での借りを返すぞ!」
「わかやびたん。動ける唐船兵はついてこい! シバさんたちはそのままゆくいみそーれ」
真っ先に駆けていった護佐丸を追う阿麻和利の腕をナビーが捕まえた。
「えー! 置いていくつもりか?」
「シバさんはまだ本調子ではないのに体を酷使しすぎにみえた。それに、流石の琉美さんもセジがくーてんしか残ってないようだし。だから、ナビーも2人を守るために残ってくれ」
「わかやびたん。それなら、白虎を連れていきなさい。大舜にはでーじ役に立つからよ」
「にふぇーでーびる」
ナビーは納得していないようだが、俺と琉美のことを思い掴んでいた阿麻和利の腕をそっと放したので、阿麻和利は振り向くことなく走っていった。
「シバと琉美の名前出されたら、言うこと聞くしかないさー……」
優しいナビーの悔しい表情には、護佐丸の心配も含まれているのだろう。
だからこそ気持ちのままに動いてほしい。
「ナビー、これは好機だと思う」
「何がよ」
「大舜は心を読むだろ? それで、護佐丸さんも阿麻和利さんも俺たちが来るとは思っていない。だから、奇襲をかけやすいと思うんだよ」
「やさやー。今帰仁奪還の天邪鬼戦だねー」
心を読む天邪鬼に苦戦しているときに、自分たちでさえ予想もしなかった越来城の尚泰久率いるシーサー兵の援軍のおかげで追い払えたように、今度は俺たちが援軍として奇襲をかけることになる。
「やしが、ゆくろうとしていたのに大丈夫ねー? 自分で本調子じゃないって言っていたさーね」
今の自分でも戦いに参加しても大丈夫な作戦を思いついたが、ここでナビーに伝えるといけない気がしたので、ここから言葉選びも慎重にする必要がありそうだ。
「ああ、やっぱり無理かも。琉美は俺が守るからナビーは1人で行っていいよ」
「えー、こんな時に何ふざけてる。置いていけるわけ……」
ナビーの言葉をさえぎって琉美がナビーの腕をつかみ、せかすように引っ張った。
「船の方にはキジムナーもいるし、シバは召喚マジムンもいるから大丈夫だよ。私はまだ動けるから一緒に加勢に行くよ」
俺の作戦の全容を知るはずもない琉美が何かを察し、動揺するナビーを連れて行ってくれた。
……ナイス琉美! これで、今の俺でも役に立てるぞ。
シバを残しナビーと早歩きで阿麻和利たちを追う。
ナビーは感がいいので私のように何かを察して今は何も言わずに黙っていた。
……心を読まれるのは、本当に厄介だからね。
「最後に聞くけど、体の方は大丈夫ねー? さすがの琉美でもセジを使いすぎたでしょ?」
「私にしたら使いすぎただけで、まだ普通の人よりは全然残っているから大丈夫だよ」
「無理はさんけーよって言いたいけど相手は大舜だから言わないでおこうね。これで最後だから無理してでもちばっていくよ!」
護佐丸たちに追いつくと、唐船兵が立ち止まっていた。
皆の視線の先には、火山の河口付近で護佐丸と阿麻和利が大舜と刀を交えている。少し離れた距離で白虎がにらみを利かせているおかげで、2人とも何とか無事でいるのだとナビーは言う。
私とナビーが加勢のタイミングを見計らっていると、大舜の刀が金棒に変わり、護佐丸を弾き飛ばして地に片膝をつけさせた。
「越来の戦いだけでは、おいらには勝てないと理解できなかったのか? しかも、2人だけとは……ああ、異世界の者たちは動けないのだな。滑稽だ」
「かしましい! これはわんと阿麻和利のけじめだ」
「なら、あの獅子を連れてこないでくれよ。心は読めないし殺気はすごいしで少々面倒くさくてね。まあ、琉球の有能な按司をこんな所で2人も殺せる好機はめったにない。この場を用意してくれた賢弟に感謝し、弔い合戦といきましょうか」
白虎の警戒を鵺に任せ、護佐丸と阿麻和利の激しい攻撃を難なくこなす大舜の余裕に唐船兵の一部がしびれを切らせて飛び出していった。
「護佐丸按司、わったーも加勢します!」
「来るな! いったーを守りながら戦える相手ではない!」
ナビーはあきれながら、約20人いる唐船兵の前にヒンプンシールドの壁を出して進軍を妨げた。
「琉美、前に飛び出した1人はお願い」
壁の向こうでは、護佐丸と阿麻和利を弾き飛ばした大舜が、1人飛び出した唐船兵に向かって金棒を振り下ろそうとしていた。
「石敢當シールド!」
鞭で絡めて引っ張る時間はなかったので、石敢當シールドでとりあえず攻撃を防ごうとしたが、石敢當シールドごと唐船兵に金棒が襲い掛かってしまう。
ナビーとシバのヒンプンシールドよりも、防御力は自信があった石敢當シールドをいとも簡単に壊されてしまったうえに、唐船兵を守り切れなかったショックで立ち尽くしてしまっていると、いつの間にかティンサグモードになったナビーが、唐船兵を肩に担いで私の前にそっと下した。
「琉美のおかげで軽傷で済んでいるさー。回復お願いね」
「任せて。ナビーはそのまま戦うの?」
「このふらーたーのせいで奇襲できなくなったから、しょうがないさー。回復が終わったら琉美は自分で考えて動きなさいね」
ナビーは唐船兵から大舜を遠ざけるように立ち回って戦い始めた。
護佐丸と阿麻和利も加わり、大舜がこちらに気を向けている余裕はなさそうだ。
「唐船兵の皆さん聞いてください。護佐丸さんがあなた達を連れてきたのは、大舜ににらみを利かせて圧力をかけてほしかったからなんです。護佐丸さんや阿麻和利ですら自分では勝ち目はないとわかっている相手に、あなた達を直接戦わせるわけないじゃないですか」
小娘に言われてむかついたのか、1人の中年の兵が反論してきた。
「何を偉そうに。わったーは琉球最強の唐船兵なのだぞ! そんなおまけみたいな戦い方、馬鹿にするのも大概にしなさい」
唐船兵の中では古参で経験豊富そうな見た目をしているくせに、身の程知らずの発言が飛び出てくることに心底あきれてしまった。
阿麻和利が言っていた、「周りから最強と言われ続けたせいで、図に乗っているのですよ」は長年所属している人ほど顕著に表れるのかもしれない。
「私は琉球各地の戦に幾度も加勢してきましたが、はっきり言って唐船兵が特別強いと思えませんでした。それに、白虎を見てください。この戦いで何が最善かを考えて、護佐丸さんが戦いやすいように離れた場所から、いつ動き出すかわからない鵺を警戒しながら大舜にも殺気を放っているんです。犬ができていることをできずに何が琉球最強かって話ですよ!」
その時、後ろから来ていた為頼にギュッと手を握られ、憐れむようにお願いしてきた。
「その辺にしてあげぬか。琉美さんの言葉は少々堪えるのでな」
落ち着いて周りを見渡すと、唐船兵たちは涙目になっている。犬以下と言われたような感覚になり、自尊心を崩壊してしまったようだ。




