第146話 複雑な策
「お頭、岩陰に仲間が隠れていますぜ!」
「本当かい!? ハッハッハ! この男はアタイらのものになった! お前たち、さっさとその女をやっちまいな!」
海乱鬼全員の意識がナビーに向けられたその瞬間、俺は萌萌を捕まえている海乱鬼の下っ端に走り出し、不意の飛び蹴りをくらわせて萌萌から引きはがした。
「萌萌、大丈夫か?」
「私の事よりもナビーちゃんが!」
「落ち着いて。ナビーがこんな連中にやられるわけないことは、萌萌もわかっているだろ」
案の定、少し目をそらした一瞬のうちに、襲い掛かってきていた6人の海乱鬼を蹴散らし、こちらを振り向き怒っていた。
「えーひゃー。話が違うさー!」
「萌萌が無事だったからいいだろ」
「そう言われたら何も言いかえせないやっしー」
その時、慌てふためいていた海乱鬼を統制するためにお頭が号令をかけた。
「狼狽えるんじゃないよ! こっちには唐船兵もいるんだ。向こうに合流さえすれば数で押し切れる。お前たち急ぎな!」
海乱鬼達は唐船兵の戦力を求めて逃げるように走って行く。
唐船兵の実力を知っているからだろう、萌萌は顔面蒼白になりながらも海乱鬼達を追いかけようとしたがナビーが制止させた。
「待って。あわてぃーはーてぃーしなくても大丈夫だから落ち着きなさい」
「どうして!? 唐船兵の脅威はナビーの方が知っているよね? 合流されたらひとたまりもないでしょ!」
「大丈夫。私とシバが何でここに来られているか考えなさい。それと、語尾のアルを忘れんでよ」
海乱鬼達と接触する前に琉美たちと合流することになり、歩きながらこの場に至るまでの過程を萌萌に聞かせると、自分が捕らえられた理由を教えてくれた。
萌萌は交易船護衛の任に就き3年で10回程度の航海を経験していたが、海乱鬼に襲われることはめったになかったと言う。
交易船を襲うという事は2つの国を同時に敵に回すことになるので、どんな力自慢の海乱鬼でも手を出すことはないらしい。
それでもたまに、海の情勢に乏しい新興勢力の海賊が襲ってくることもあったが、問題なく対処してきた。
そんな中、3か月前の交易で琉球から明への航海中、これまでは接近に気が付くと逃げるように去っていた古参の海乱鬼の船が速度を落とすことなく向かってくる。
萌萌はとっさに全力の気砲を敵船の帆に当てると、急ブレーキがかかり衝突を回避することができたが、黒くまがまがしい弓矢を構えた海乱鬼たちが甲板に出てきた。
慌てふためく船員たちを横目に、護衛の男たちは血相を変えて拳大の鉄球を気砲にのせて、敵の弓矢と同時に放たれる。
矢と鉄球がぶつかればどう考えても鉄球が勝つに決まっているはずだが、海乱鬼の放った矢は鉄球を破壊し交易船までも貫いてきた。
積み荷を狙う海賊なので襲う船を沈没させるようなことはないと油断していたが、このまま矢を撃たれ続ければ確実に海の藻屑となってしまう。
そんな中、船長らしき明の男と大和の女が2人船頭に出てくると、俺たちが使うアースンのように明の気力と大和の霊力を掛け合わせ、更に黒く禍々しいオーラを纏った大弓から放たれた矢が護衛を次々と襲う。
このままでは全滅すると感じた萌萌は、仲間の護衛たちとは別に1人行動を起こす。
船の裏側に回り小舟を海に降ろして、気づかれないように敵船の側面に着くと、緊急用に準備されている火薬が入った火矢を気砲にのせて放った。
船底に穴を空け砲弾が爆ぜると、船を大破させて海乱鬼が海に投げ出される。
その時、後方に避難した数人の海乱鬼を乗せた小舟が逃げていくのを確認し、1人の若い女性が父と母を呼びながら泣き叫んで、今にも飛び出しそうにしているところを仲間に抑えられていた。
そして、生存をあきらめたのかすぐに泣き止むと、萌萌を睨みつけながら小舟は消えていったそうだ。
「私が殺したお頭の娘が今のお頭で、あの女の子なの。両親の仇をとるために、ここまで計画を練っていたみたいアル」
「この計画も結局は舜天が考えたはずだけど、なんか引っかかるんだよな……」
しばらく考えていると、ナビーが背中をたたいてきた。
「3カ月前って萌萌は私たちと出会ってなかったのに、仲間になる前提で計画を練っていることが意味わからんさー」
「そういうことか! ってことは、俺たちに接触してきた萌萌に何かしたってことだな。萌萌は何か心当たりない?」
何かを思い出したのか、萌萌は両手で顔を覆い力なく話し始めた。
「多分、交易船に同乗していた貴族かもしれないアル……私が戦いに苦しんでいることをなぜか知っていて、強くて頼りがいのある女好きがいるから会いに行ってみればと言われたアル」
「誰が女好きだ! そいつ連れてこい!」
「それが、その日から船内で見かけなかったね。なんで私はそんな奴の話を鵜吞みにしちゃったのか、自分でも不思議アル」
しゃがみこんで落ち込む萌萌の肩に手を置いたナビーは、俺に確認する様に聞いてきた。
「話を聞いた感じだけど、多分そいつは大舜じゃないかねー? 天邪鬼の能力を受けついで心の中を読みとってたさーね」
「十中八九、大舜で間違いないと思うよ。舜天が海乱鬼に力を与えて襲わせて、大舜が萌萌の弱っている心を利用しつつ、俺たちと接触するように手引きしたんだろうな」
さらに落ち込んでしまった萌萌は、自分を責め始めた。
「私が巻き込んでしまったせいで、みんなに迷惑をかけちゃった。申し訳ないアル……」
「そんなのお互い様だし、そのおかげで萌萌と出会えたんだから、逆に感謝したいくらいだよ。そうだよな、ナビー」
「やんどー。女好きにしては良いこと言うさー」
「誰が女好きだ! 馬鹿言ってないで急ぐよ」
為頼が唐船兵の浄化をしていると、シバたちが向かった方向からナイフを持ち口から血を流した海乱鬼の男が、パニック状態で走ってきた。
「たふけへー! ひふー!」
あまりの異常さに、護佐丸が刀を抜いて警告する。
「これ以上近寄らんけー! 斬るぞ!」
それでも止まる気配のない海乱鬼に、護佐丸が斬りかかろうとしていたが、助けを求めているだけのような気がしたので、鞭で拘束してとりあえず護佐丸に刀を納めてもらった。
「こんなに血を流して大丈夫ですか? 早く血を止めないと死にますよ」
足を止めたことで少し落ち着いたと思ったとき、急に血の付いたナイフを私に向けてきた。
「そんなことより、お気に入りのナイフの血をきれいにすることが先決だ」
「その口の鮮血を止めることが先決です」
1人の回復くらい今のセジでもできるので急ぎグスイをかけ、ナイフを取り上げてから向こうで何があったのかを聞くことにした。
「シバたちがこんなひどいケガを負わすわけないはずだけど、どんな戦いをしたら口から血を流すケガをするんですか?」
「ナイフを研ぎすぎたんだよ……」
「はい? どういうことですか?」
「そのナイフを舐めたとき、間違って刃の付いているほうを舐めてしまって、舌を切っちまったのさ」
「刃を舐めることが間違いじゃなくて、ナイフを舐めること自体が間違いなんですよ……ってバカの話はどうでもよくて、向こうで何があったか話してもらえます?」
「治療してもらった嬢ちゃんには話してあげたいが、ことが始まる前にケガしたから状況を知らないんだ。その代わりと言っちゃなんだが、嬢ちゃんたちに寝返るから何か手伝わせてくれ」
阿麻和利が刀に手をかけながら怒りをあらわにした。
「ここまでのことをして、虫が良すぎると思わないのか!」
「ひえええ! 勘弁してくだせー」
所詮海賊で、今まで何をしてきたかもわからない輩なので、この世界の基準でいけば殺されても仕方ないのだと思う。
しかし、今回捕まえた多くの海乱鬼も含めて、ただ裁くのではなく琉球の戦力として加えることができないかと考えた。
「阿麻和利さんの言い分はごもっともですけど、せっかく治したんですから殺さないでくださいよ。それに、提案があるんですが、この人が寝返ったように、海乱鬼全員を寝返らせることってできませんかね?」
阿麻和利と護佐丸の返答を待っていると、突然海乱鬼の男が奇声を上げて慌てふためいた。
「うわああああ!? 混乱して気が付かなかったが、唐船兵じゃねーかよ! てことは、お嬢ちゃんたちだけで制圧しちまったってことだよな……それなら、お頭以外は寝返らせることはできるはずだぜ」




