はじめての外出
「さてと、お腹もいっぱいになったことだし。おうちに帰りましょうか。ポルカの村は精霊の森から遠い?帰り道はわかるかな。」
「...精霊の森を出れば街道があるから、わかると思う。魔物が出ないとは言い切れないけど。村は遠くないよ。」
でるんだ、魔物。
「了解。じゃあ、ちょっくら武装しますかね。」
鉄の胸当てを装着して、軽量だけど硬いチェーン装備を全身に着込む。鉄の剣を装備し、手作りの鉄の弓矢を背負う。ちなみにこの弓矢はアイテムボックスと連動していて減れば補充される。
これが今の私の作れる最強装備だ!
...うん、剣士なんだか弓師なんだか。あ、魔法も使うから魔法使いとも言えるか。
「ユカリお姉ちゃん、一緒に行ってくれるの?」
「うん。」
拾ったからには最後まで責任は持つ!
あとは、念のために。
「ポルカ、こっちにきてー。」
ポルカと私に空間魔法をかける。
「シールド」
この魔法は一定時間、全方位の攻撃をガードする空間魔法だ。完全にガードできるわけではないけどね。
ポルカに剣を持たせるわけにもいかないし。
「ユカリお姉ちゃん、なにこれ、魔法?」
「うん、空間魔法。」
「俺こんな魔法見たことないよ!ユカリお姉ちゃんって、すごい魔法使いなんだな!」
「使うのはじめてだけどね。」
「え!?」
だって魔物がいない精霊の森では、使う必要がなかったんだもん。
「いざしゅっぱーつ!」
「え、はじめて、え?」
「気にしなーい、気にしなーい。」
...精霊の森の外に出るのははじめてだな。
若干の緊張に、顔が強張る。
魔物は、いつも狩りをしている動物とは違う。
攻撃もしてくるだろうし、魔法だって使うかもしれない。
ちょっと...怖い、かも。
「ユカリお姉ちゃん?」
「あ、ごめんごめん。じゃ、行こっか。」
マイホームから出て、亜空間を閉じる。それを見たポルカは、また「すごいすごい」とはしゃいでいた。
いざ、はじめての外出!
ー数刻後
「ユカリお姉ちゃん、ここが俺たちの村だよ。」
「...うん。」
結果から言うと、ゴブリン1匹に遭遇しただけで、村に到着しましたー。
シールドがどんな攻撃も通さなかったし、身体強化と命中強化をした腕で、なんとなく石投げただけでゴブリン倒しちゃったし。
重装備してる自分がアホらしくなっちゃったね。
剣だけ帯刀して、あとは全部しまっちゃった。
ポルカの村は、活気がないというか、外に人がいないというか...
畑には、何も実っていないし、土も乾いて雑草が生え始めている。
「...ポルカ、お母さんのところに案内してくれるかな。」
「うん、こっちだよ。」
ポルカは一刻も早くスズナ草を届けたいのか、家へと駆けて行く。
「お姉ちゃん、入って入って!」
「お邪魔します...」
ヒュー...ヒュー...という弱い息遣いが聞こえる。若い、けど痩せ細った女性がベッドに横たわっていた。
「お母さん、戻ったよ。」
「ポルカ...!...どこに行ってたの...心配したのよ...!」
「お母さんごめんなさい、どうしてもスズナ草を取りに行きたくて...お母さんが心配で...」
「村長が...今は精霊様がお怒りだから、精霊の森には決して入るなって...ヒュー...言っていた...でしょ?」
「でも...俺...」
「馬鹿な子...本当に...無事でよかった...」
ポルカをぎゅっと抱きしめると、ポルカのお母さんはポルカに見えないように、涙を流していた。
優しいお母さんだ...
「えっと...お邪魔してます。」
「あ...私ったら気づかなくて...ヒュー...こんな格好で...ごめんなさい。...ポルカを...連れてきて...下さったのかしら。」
「はい、精霊の森で偶然会って。スズナ草を取りにきたポルカ君の手伝いを...」
「違うよ!ユカリお姉ちゃんがくれたんだ!」
ポルカは、「ほら!」とスズナ草をお母さんに見せる。
「これは...本当にスズナ草...ヒュー...ゴホッ」
「お母さん、ちょっと失礼しますね、...鑑定。」
女性 30歳 状態 極度の栄養失調 飢餓
詳細結果を見ますか?
この村が飢饉になっているのではないかと、村の状態からなんとなく予想がついていた。
ポルカが元気なことから察するに、おそらくポルカのお母さんは、栄養のあるものを優先的に...いや、食べ物のほとんどをポルカに与え、極度の栄養失調になったのだ。
そしてこの村には、同じような状態の人が何人もいるのだろう。
「ポルカ、村長さんのいるところ、教えてくれる?」
創造知識スキルが、お母さんと村人を元気にする最適解を導き出してくれる。
「うん、いいけど、なんで?」
「お母さんも、村の人たちも、みんなまとめて元気にしちゃおうかと思って。」
パチンとウインクすると、ポルカは目を見開いて、「うん!」と笑った。