腹が減っては戦はできぬ
男の子(12歳)は、目を擦って瞬きをすると、ベッドの周りを不思議そうに見回した。動かせるのは、まだ首だけで身体は動かせないようだ。
「ここは...どこ?俺、どうして身体が動かないの?」
「ここは私の家。ひどい怪我だったからだと思うけど、薬がよく効いてるから、身体は、じきに動かせるようになるよ。私はユカリ。君の名前は?」
鑑定で見ることもできるだろうけど、こういうのはお互い名乗り合うものでしょう。
「ありがとう精霊様。俺は...」
「ユカリ」
「いや、精霊さ」
「ユカリ」
「ありがとうユカリお姉ちゃん」
「どういたしまして。」
何がどうして私が精霊様なんだ。全く。
「俺はポルカ。母さんが病気になって...村長に禁止されてたけど...どうしても母さんが心配で、精霊の森にしかない珍しい薬草を取りに来たんだ。」
ポルカは、少しよくなったのか、ゆっくり上体を起こすと、私を恐る恐るといった様子で見上げた。
「必要なのはほんの少しだけなんだ。見つけたらすぐに出て行く。だからどうか許してください!お願いします!」
ポルカは勢いよく頭を下げた。
「いやいやいやいや、何故私の許可が必要なの!?むしろ一緒に探すよ!頭を上げて!」
「村長が、精霊様がお怒りだって...」
「私は精霊様じゃないし、日々薬草も鉱石も何でもかんでも取りまくってるけど、何にも起こってないよ?」
精霊様がお怒りどころか、神様の恵みがあったと言っても過言ではない。この森は、魔物がでない聖域と化しているのだ。だいぶ私物化してる感が否めないけど。
「探してる薬草はどんな薬草なの?」
「スズナ草っていって、精霊の森の奥地、滝の側に少ししか自生してないめずらしい薬草なんだ。」
スズナ草?
「これ?」
アイテムボックスからスズナ草を10本ほど取り出す。
スズナ草...レア度★★★★、病中病後の滋養強壮に効果絶大。精霊の森にのみ自生する。
「そう、それなんだ。すぐにでも取りに行かなきゃ母さんが...ってなんであるの!?」
だって...
「うちで栽培してるから...」
「栽培できるなんて、聞いたことないよ!?」
栽培できないなんて疑いもせず植えたよ。
今も元気にわさわさ生えてるよ。
『ぐぅ〜...』
「あっ...」
ポルカの顔が恥ずかしそうに赤くなる。スズナ草をみて安心して、お腹が減ったのだろう。
「腹が減っては戦はできぬってね。どうしよう...お粥的なものがあったら1番よかったんだけど...」
米も麦もこの森には自生していなかったため、栽培してないのだ。
「魚とか、食べれる?」
肉よりは胃にもたれないだろう。
「え、魚?海も遠いのに、どうやって...」
アイテムボックスからいつもの魚を取り出す。
セイントサーモン...レア度★★★★★、澄んだ清流にしか住まない。非常に美味だが、寄生虫が含まれることが多くあるため、正しく調理しなければ腹を傷めるので注意が必要。
「あ、悪魔の魚だ...!!」
ポルカの顔が青褪める。
「美味しいお魚さんだよ?」
浄化を使えば寄生虫も一発昇天するから安心安全超美味しい食べ物です。
「起きられる?今焼いて持ってくるから。」
ポルカは泣きそうな顔をして、懇願してきた。
「俺はちゃんと罰を受ける。だから母さんをどうか助けて欲しい...!」
「お母さんも助けるし、君の空腹も助けますって。」
「悪魔の魚を食べたら、死ぬほどの苦痛が訪れるって母さんが!みんなも絶対食べちゃダメだって!」
「大丈夫大丈夫、なんなら私が一口食べてみせるから。」
話しても埒があかないので、一階のキッチンでとっとと料理することにした。
「浄化、鑑定」
鉱山の近くで取れた岩塩と、セイントサーモンに浄化をかけて鑑定する。
毒性やら寄生虫やらは一切残ってない。
岩塩を細かくしたものを魚にまぶして焼くと、香ばしい匂いが漂ってくる。なんとも食欲を刺激される匂いだ。
ちなみに魚は綺麗に3枚おろし済み。前世ではできなかったんだけどね。料理スキルMAXと創造知識スキルの恩恵がすさまじい。
どうすれば綺麗に3枚におろせるのか理解できて、その通りに手が動く。
残りの半身は刺身にしよう。醤油がないのは残念だけどね。
2階にもっていくと、ポルカの口から涎が垂れていた。食欲を刺激するあの匂いのせいだろう。
「あ、俺...」
ポルカは慌てて口を拭う。
「いいからいいから。じゃ、ちょっと見ててね。」
パクンと一口。そのまま飲み込んでお腹をポンポンと叩く。
「ね?なんともないでしょ。ちゃんと浄化かけてるから心配ないって。」
「浄化って汚れがちょっと落ちるだけの生活スキルだよね?」
え?そうなの?
びっくりしてポルカとしばし見つめ合ってしまう。
「わ、私の浄化は安心安全、スキルレベルが高いから。ね?食べてみて?」
「う、うん...」
ポルカは警戒しながら、ゆっくりと魚を咀嚼すると、涙を流す。
「ポルカ!?」
「あ、いや...こんなおいしいもの、はじめて、食べたから...」
「そっか...全部お食べ。ゆっくりね。」
その後ポルカは、お刺身を食べてまた泣いていた。お母さんに食べさせたいと、泣いていた。




